お前が脱がせてくれるまで

雨宮くもり

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10.ふたり/致命傷

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 ──『壊して、あげる』


 夢の中でのささやきが今頃になって鮮明に蘇る。
 背筋が、ぞくり、とした。
 思わず顔を上げると、兄は不思議そうにこちらを見ていた。だが、

「──あっ、そういえばさ!」

 話の流れを変えるように、ニヤリと笑った。

「今日、響くんが事務所に電話くれたんだよ」
「はっ!?」

 思わず声を張り上げてしまった。
 大きく反応した俺に、兄は嬉しそうにうなずく。

「『龍広の様子がおかしいから見に行ってあげてほしい』ってさ」

 驚いた。あいつが自分から兄さんの事務所を調べて、電話するなんて。

「こりゃ只事じゃないなと思って、お兄ちゃん、こうやって駆けつけたってわけよ。響くんに感謝だな。カゼならしょうがないが、あんまり周りに心配かけさせるんじゃないぞ」

 そんなこと、わざわざ言われなくても分かってる。

「“大切な人”なら、なおさら」

 分かっている。
 彼ほどの人間は、他にはいない。
 分かってる。

「……本当、いい子だな。響くんは」

 分かって、いる。

「──龍広?」

 分かっている。
 分かっているのに。

 あいつも、兄さんも、優しくて。
 なのに俺は、こんなにも──。

「どうした。……具合、悪いか?」

 こちらが笑っていないことに気づいたのだろう。
 兄の声が真剣なものになった。
 もうこれ以上、なにも見たくなくて、聞きたくなくて、転がるように布団へ潜り込む。
 途端、こらえていたものが一気にあふれ出した。

「……ひ、っ、ぐっ、……」

 両手でおさえてもムダだった。嗚咽も漏れる声も、とまらない。

 分かっている。
 本当は大声を上げて泣き喚きたかった。
 我を忘れ、泣き叫び、心のままにすべてをさらせば、きっと楽になれる。
 でも、どうしたってできない。

 そんなことしたら、傷つけてしまう。
 今はまだやさしい、すべてのものを。


 兄は俺の枕元に座り、布団ごしに背中をさすってくれた。

「ちょっと余計なこと言ったかな。……ごめん」

 謝らないで。
 こんな俺なんかのために。

 もし、すべてを知ったらきっと悔やむのに。
 こんな弟のためにしてしまったこと、全てを。差し伸べたやさしさを。
 絶対、悔やむのに。
 その絶望を想像しただけで、どうしようもなく悲しかった。


「ごめんな」

 なのに、どうして謝る。
 謝るべきなのは俺のほうなのに──。

 

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