お前が脱がせてくれるまで

雨宮くもり

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20.躊躇い/震える

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 ◆ ◆ ◆



 ──なにを意識してるんだ!


 俺は風呂場に突っ立っていた。

 服を着たままで。
 かれこれ十分くらいになる。


 動けない。
 動けないのだ。

 壁一枚向こうに響がいる──そう考えただけで、手が震えて、心臓がバクバクして、腰が抜けそうになる。


「っ……はぁ……」


 服が濡れているのは雨だけのせいだろうか。脇の下に冷たい汗を感じる。じっとりと。
 いっそ着たまま浴びてしまおうかと思ったが、流石にそこまで我を失ったわけじゃない。


「……なにもない……なにも……ない……」


 呪文のように唱えながら、そろそろと脱いでいく。

 上を。
 下を。


「……なにも、ない」


 言葉通り、身にまとうものがなにもなくなった。
 素っ裸になっただけでこんなにも心もとなく、ソワソワと落ち着かなかったことはない。
 早く着替えたい。一秒でも早く。

「あああっ」

 だが、こういうときほどパニックになってしまう。

 お湯を出すつもりが冷水を頭からかぶり、シャンプーのつもりが、隣のボトルを強くプッシュしてしまった。
 手のひらにべっとりついた白濁液に、卒倒しそうになる。

「……くっ……」

 リンスごときにドキマギしてしまうなんて。


 やっと全身浴び終わったときには、かなりの時間が経っていたと思う。
 溜息をつき、シャワーをとめたときだった――壁の向こうで、ドン、と大きな音がした。
 何かが床にぶつかったような音。
 退屈しすぎた響が部屋の中を探っているのかもしれない。本棚になら彼の好きそうなマンガがあるのだが、見つけられないのだろうか。

 不思議に思いながらも、最後に指輪を洗った。
 こういうものを水洗いしてもいいのだろうか。よく分からないが、汗にまみれたままで放置するのも良くないに決まっている。
 石鹸をつけ、それはそれは丁寧に洗った。


 髪を拭きつつ、風呂場から出たとき、

「響……?」

 最初に気づいた違和感は香りだった。
 シャンプーとは違う。甘く華やかで、吸い込んでいると胸の奥が少し苦しくなるような──。

「響?」

 なによりの違和感は、いくら呼んでも返事が無いことだった。
 気配はするのに──。

 部屋に戻った瞬間、目に飛び込んできたのは布団の上に投げ出された彼の両足だった。

「……ひび、き?」

 右足がまるで返事をするようにピクンと跳ね上がる。


「──へぇ。この子が響くんなの」


 艶っぽい笑い声。


「はじめまして、響くん」

 優しくささやいた声の主は、彼の身体に馬乗りになっていた。

 

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