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23.響く声/共通点

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 ◆ ◆ ◆



 釈然としない気持ちを引きずったまま、待ち合わせ場所にむかった。

 とあるファッションビルの入り口。
 星空を模した青と黄色のステンドグラスの下にはたくさんの待ち人がいた。
 だが、ざっと見た感じ、響はまだ来ていないようだ。

 時間を確認しようとスマホに目をやると、


 ――「ごめんさんじゆつぷん送れます」


 その響からのメッセージが表示されていた。
 区切りどころが曖昧なひらがなの羅列。きちんと理解するのに三秒ほどかかった。


 ――“ごめん三十分遅れます”


 数日前にスマートフォンに機種変更した響だが、操作にだいぶ苦戦しているらしい。
 大きいままの“ゆ”と“つ”は、急いで支度している証拠なのか、それとも――。
 散々教えたはずだが、たいして身についていないのだろうか。


 いや、そんなことよりあと三十分どうしたらいいだろう。
 日は傾き始め、街には夜が広がり始めている。
 その辺の店で適当に時間を潰そうかと考えながら、ふと人混みに目をやったとき――。

 見覚えのある、くすんだ赤髪を見つけた。

 俺は反射的にその色を追いかけていた。
 息を飲み、はやる気持ちをおさえながら、決して見逃さぬように目をこらし、歩調を早めていく。

 もしかしたら――。


 うつむきがちに歩く人々が行き交う中、彼だけが天から吊られているかのように背筋がまっすぐに伸びていた。
 その美しい姿勢により、周りをいく女性とは頭一つ分――きっとそれ以上に――背が高い。明らかに目立っている。
 すれ違う人々は彼を見ると、何かに気づいたように驚いたり、薄く笑ったり、秘密を共有するように囁きあったりする。

 それでも彼は立ち止まることなく、凛としていた。
 タイトめなロングスカートを揺らし、フラつくこともない。まっすぐに歩いていく。

 予感が確信に変わったのは、髪を耳にかけるような仕草を見たときだった。
 熟れた果実を思わせる紅い爪、闇に浮かぶ白い肌、不釣合いなほど無骨な指のかたち――。

「ケティ!」

 彼が路地へと入ったタイミングで一気に駆け寄り、その背中に声をぶつける。
 
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