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第一章
妖狐たちの内緒話
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かつてないほどの熱気の中で、瑞狐祭りは終息した。
空狐たちが帰ろうとしていると、近くに居た踊り子たちが寄ってきて、怯えながらも小さな声で「ありがとうございました」と頭を下げてきた。町民に礼を言われるのは初めてのことで、空狐たちが酷く驚いたのは言うまでもない。
野狐たちからの報告で、小珠は妖力を使い果たして気を失ったと聞いている。丁重に屋敷まで運ぶよう伝達し、金狐、銀狐と共に牛車へ乗り込んだ。
「はぁ~暑いししんどいし、餓鬼の我が儘に付き合うなんて二度とごめんやわ」
「今回は僕の我が儘です。小珠様を悪く言わないでください」
小珠は全て自分の力で何とかしようとしていた。一度も空狐に助けを求めようとはしなかった。それでも役に立ちたいと思ったのは、空狐の方だ。
隣の銀狐を注意すると、銀狐は何やら面白そうににやにやと笑いながら肩に腕を回してくる。
「随分入れ込んでるやん、小珠はんに」
「一族の繁栄には彼女の力が必要であるというだけです」
素っ気なく答えると、反対隣にいる金狐もこの話題に乗ってきた。
「なら、何も〝天狐はんとの結婚〟なんて大嘘つかんで良かったんとちゃいます?」
「そうそう。ほんまは次期当主の空狐はんとの結婚やのに、小珠はんな~んも知らんねんで? 騙すん心苦しいわぁ」
金狐の発言に便乗し、大袈裟に腕を動かして文句を言ってくる銀狐を軽く睨む。
「当たり前でしょう。〝あの〟玉藻前様の生まれ変わりですよ。一体どんな邪智暴虐な女性かと警戒しますよ」
「様子見したところで結婚はもう確定なんやろ。空狐はんは玉藻前様とまぐわって妖力の強い子を後継者として残さなあかん。きつね町を統治する一族として」
「まぁ、空狐はん玉藻前様にはちっちゃい頃からいじめられとりましたもんねぇ……そう思うんは無理ないです」
大昔のことを思い出し同情したのか、金狐が空狐を庇う。
そう、これは本来空狐と小珠の婚約であるはずだった。それを空狐が無理を通して、小珠本人には隠すよう指示したのだ。――本当に小珠がこの一族に入るに相応しいかを見極めるため。
空狐と小珠の結婚は、玉藻前の生まれ変わりとして小珠がこの世に生を成した時点で決まっていた。もう十八年も前からである。
だから空狐は、何度か狐の姿で幼い小珠に会いに行った。悪名高い玉藻前の生まれ変わり――自分が将来結婚する相手は如何ほどのものかと。
しかし何度会いに行っても、小珠は玉藻前とは似ても似つかない、ただの純粋な少女だった。生育環境でこうも違いが出るのかと驚かされた。生まれ持った妖力の強さから人間に恐れられ幽閉され性的虐待も受け、人間嫌いを拗らせていた玉藻前とは違い、小珠は優しいキヨに守られながら育った。その差が大きかったのだろう。
しかし、妖怪の本質的な部分は生まれ変わったところで変わらない。どこかに玉藻前の片鱗は現れるはずだ――そう警戒し、空狐は小珠の本性を見るために自分は婚約者ではない体で小珠と関わってきた。しかし。
(……変わっていない)
あの村に居た頃から、まだ元気だったキヨに大切に育てられていた頃から、小珠の性格は何一つ変わっていなかった。
他者を憎しみ続けていた玉藻前とは真逆。小珠は他者への感謝を重視する。
――キヨという女性は偉大だ。あの玉藻前の生まれ変わりを、こうも真っ当に成長させたのだから。
「もしよっぽど嫌やったら~、俺がもらったろか?」
「は?」
「とにかく妖力強い後継者が生まれればそれでええんやろ。俺と一緒になってもええと思わん?」
銀狐のふざけた発言で、空狐の思考が遮られる。
「……これは昔から定められていることです。そう簡単に相手は変えられません」
空狐は、自分の声が少し低くなっていることに気付いた。
その態度を見た銀狐は「冗談やんかあ」と茶化すように笑う。
――果たして本当に冗談か。空狐の胸に、もやもやとした感情が残った。
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