魔法の遺産

ことのは工房

文字の大きさ
5 / 30
第5章

目覚める力

しおりを挟む
アレンはリリスとの厳しい修行を続けていた。日々の訓練を通じて、少しずつだが確実に魔法の力を制御できるようになってきていた。しかし、心の中に残る不安や迷いは簡単には消え去らなかった。リリスの言葉通り、力を引き出すためには心を鍛える必要があると実感していた。

「心を鍛える…」

アレンはその言葉を胸に刻みながら、ある日の昼過ぎ、再び森の中で修行をしていた。リリスから与えられた課題は、ただ魔法を使うことではなく、心を落ち着け、集中することだった。

「心を無にする…心を無にするんだ。」

アレンはそう自分に言い聞かせ、目を閉じて深呼吸をした。彼の周りにある自然の音に耳を澄まし、心を静めようとするが、どうしても焦りや不安が頭をよぎってしまう。それは、魔王軍との戦いが近づいていることへの恐れや、リリスから教わったことが本当に自分に合っているのかという迷いだった。

その時、背後から足音が聞こえた。アレンはすぐに反応し、素早く振り向く。そこには、思いがけない人物が立っていた。

「お前、どうした?」

その人物は、若い男性だった。長い黒髪をポニーテールにまとめ、鋭い目つきでアレンを見つめていた。彼の身の回りには、異様なオーラが漂っていた。

「お前、アレンだな?」

アレンは少し警戒しながら頷いた。

「そうだが、君は誰だ?」

その男性はゆっくりと歩み寄り、アレンに答えた。

「俺の名前はカイル。魔法使いだ。」

カイルと名乗ったその男性は、アレンに近づきながら続けた。

「お前、リリスに師事していると聞いたが、魔王軍に立ち向かうつもりなのか?」

アレンは驚いた。リリスに教えを受けていることが、こんなにも早く外部に知られているとは思っていなかった。

「どうしてそれを…?」

カイルは肩をすくめると、軽く笑った。

「別に気にすることはない。ただ、魔王軍を倒すためにお前がどれだけ本気か確かめたくてな。」

「本気だ。」

アレンは強い決意を込めて答えた。カイルはそれを聞いて、少し興味を持ったようだった。

「それなら、俺と少しだけ勝負しないか?」

「勝負?」

アレンはその言葉に驚いたが、すぐにその意図を理解した。カイルは自分の実力を試すために戦いたいのだろう。リリスからの教えもあったし、アレンも自分の力を試す絶好の機会だと感じた。

「分かった。」

アレンは準備を整え、魔法を使う構えを取る。カイルもすぐに身構え、静かに言った。

「お前の力を見せてもらう。」

その瞬間、アレンは手を前に差し出して魔法を唱えた。

「光よ、我に力を!」

すると、強い光の魔法がアレンの手から放たれ、カイルに向かって飛んでいった。しかし、カイルはそれをまるで予測していたかのように、すばやく避け、アレンの後ろに回り込んだ。

「速い…!」

アレンは驚きつつも、すぐに反応して新たな呪文を唱えようとしたが、カイルの攻撃が先に飛んできた。カイルは魔法を使うのではなく、手にした剣を素早く振るってアレンに襲いかかる。その速さと力強さは、アレンの予想を超えていた。

「こんな…!」

アレンは必死にその攻撃をかわしながらも、心の中で思った。この男、カイルはただの魔法使いではない、何か異常な力を秘めている。

「お前、強いな…!」

アレンは息を切らしながらも、次第に自分の魔法の力を集中させることができるようになった。だが、カイルはその攻撃を一切止めず、むしろアレンの力を試すかのように追い詰めてくる。

「お前が本当に魔王軍と戦う覚悟があるのか、試させてもらう!」

その言葉を聞いた瞬間、アレンは自分の力を完全に解放しようと決意した。心を無にすることができたわけではないが、これ以上の迷いを捨て、ただ前に進むことを誓った。

「俺の力を…見ろ!」

アレンは全身全霊で呪文を唱える。彼の手から放たれる光は、今まで見たことのないほど強力なものだった。それはまるで天を切り裂くような光となり、周囲を照らし出した。

「これが、俺の本当の力だ!」

その瞬間、カイルはアレンの放った光を一歩後退して避ける。しかし、その光はカイルの予想を超えて、周囲の空間を圧倒するほどの力を放ち続けていた。

カイルはやや驚きの表情を浮かべながら言った。

「なるほど…お前、少しはやるようだな。」

アレンはその言葉を聞いて、ようやく息を整えた。自分の力がカイルに通じたことを実感し、少し安心したが、同時にまだまだ足りないことも痛感した。

「お前、これからどうするんだ?」

カイルはアレンに向かってそう尋ねた。

「もちろん、魔王軍と戦う。それに、仲間を集めて共に戦うつもりだ。」

その言葉に、カイルは少し考え込んだ後、静かに頷いた。

「俺も手伝おう。その力、魔王軍に立ち向かうには足りないかもしれないが、共に戦えば少しは勝機が見えるかもしれん。」

アレンは驚きつつも、その言葉に感謝した。

「本当に?」

カイルは静かに答える。

「お前が本気なら、俺も本気で手を貸そう。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...