冒険者たちと湖畔の休息

旅の途中の湖畔

雲ひとつない青空の下、冒険者たちは静かな湖のほとりにたどり着いた。陽光がきらめき、水面にはさざ波が立っている。鳥のさえずりが響き渡り、木々の間を抜ける風が心地よい。

「ようやく一息つけるな」

　大柄な戦士ガルドが、大きな荷物を下ろしながらつぶやいた。彼の筋骨隆々とした腕には、旅の疲れが見て取れる。

「ここ、すごく綺麗……」

　魔法使いの少女エリスが感嘆の声を上げた。青いローブの裾を翻しながら、湖のそばまで駆け寄る。透き通るような水面を覗き込むと、自分の顔が映り込んだ。

「このあたりは魔物の気配もないし、少し休憩しようか」

　リーダーの青年ライルが、皆に声をかける。剣士としての鋭い目を持つ彼も、この美しい景色に心を奪われたのか、少し微笑んでいた。

　湖畔には大きな木が生えており、その枝には赤く熟した果実がたわわに実っている。

「おお、美味しそうな果物だな」

　弓使いのリーナが弓を構え、一瞬のうちに果実を射落とした。

「見事な腕前だね」

　ライルが笑いながら、落ちた果実を拾い上げる。リーナは得意げに髪をかき上げた。

「へへっ、弓なら任せて！」

　皆が休憩の準備を始める中、小さな羽音が近づいてきた。

「ねぇ、あれ……」

　エリスが指さした先には、小さな妖精がいた。光る羽を持つ妖精は、湖の水面を跳ねるように飛び回っている。

「珍しいな。妖精がこんなに近づいてくるなんて」

　ライルが目を細める。妖精は無邪気に水をすくい上げ、きらきらとした雫を飛ばしながら遊んでいた。

「かわいい……！」

　エリスがそっと近づこうとしたその瞬間、妖精がくすくすと笑いながら水しぶきを上げ、皆に水をかけた。

「うわっ！冷たい！」

　ガルドが驚いて飛び退く。妖精はさらに楽しそうに笑い、くるくると宙を舞った。

「やんちゃな妖精だね」

　リーナが苦笑する。妖精はくるりと回ってから、エリスの肩にちょこんと降りた。

「なになに、私に興味があるの？」

　エリスが微笑みながら問いかけると、妖精は小さく頷いた。そして、彼女の耳元でささやく。

「この湖には、秘密があるよ」

「え？」

　エリスが驚いて聞き返す間に、妖精は再び宙を舞い、湖の中央へと飛んで行った。

「今、何か言ってた？」

　ライルが近寄ってくる。

「うん……この湖には“秘密”があるって……」

　エリスは妖精の言葉を繰り返した。

　穏やかだった湖畔の休息。しかし、どうやらただの休憩では終わらないようだ。