冒険者たちと湖畔の休息

妖精のいたずら

エリスの肩から飛び立った妖精は、湖の中央でくるくると舞いながら、まだ楽しそうに笑っていた。

「湖に秘密がある……って、どういうことだ？」

　ライルが眉をひそめながら湖を見つめる。しかし、水面は穏やかで、特に変わった様子はない。

「何かの伝説があるのかもな」

　ガルドが腕を組みながら推測する。彼は旅の中で各地の歴史や伝承を聞いてきたため、こうした話には敏感だった。

　一方、エリスは妖精のほうへと一歩近づいた。

「ねぇ、あなたの言ってた秘密って……」

　しかし、エリスが問いかけるよりも早く、妖精はひらりと湖の水をすくい、再びエリスに水しぶきをかけた。

「きゃっ！」

　エリスがびっくりして後ずさる。

「おいおい、ただのいたずら好きな妖精なんじゃないか？」

　リーナが苦笑しながら弓を下ろした。

「いや、何か意味があるはずだ」

　ライルが妖精の動きを注意深く観察する。妖精は湖面を跳ねるように飛び回った後、すっと水の中へ消えてしまった。

「……え？」

　誰もが驚き、湖を覗き込む。しかし、妖精の姿は見当たらない。

「消えた……？」

　エリスが不思議そうに水面を見つめる。すると、次の瞬間——湖の中央からぽこぽこと泡が浮かび始めた。

「なんだ？」

　ガルドが警戒する。泡は次第に大きくなり、水面が波打ち始める。そして——

「うわっ！」

　突然、水が渦を巻き、何かが飛び出してきた。

　それは、大きな水の塊のような存在——透明な身体を持つ、水の精霊だった。

「水の精霊……！」

　リーナが息をのむ。精霊はゆらゆらと揺れながら、冒険者たちを見つめている。

「ようこそ、旅の者たちよ……」

　静かで澄んだ声が響いた。

「あなたが……この湖の秘密？」

　エリスが尋ねると、精霊はゆっくりと頷いた。

「この湖は、古の神殿の入り口……」

「神殿？」

　ライルが驚く。

「そう……封印された場所……」

　精霊の言葉に、冒険者たちは顔を見合わせる。まさか、この穏やかな湖の底に、そんな秘密が隠されているとは——。

　すると、エリスの肩に再び妖精が降りてきた。

「ねぇ、もっと知りたいでしょ？」

　妖精がくすくすと笑いながらささやく。

「もちろん……！」

　エリスの目が輝いた。

　こうして、ただの休息のはずだった湖畔での時間は、新たな冒険へとつながっていく。