その帯、解いていい?

桃まめきなこ

文字の大きさ
11 / 14

第十話

しおりを挟む
第十話


僅かな違和感を残しながら、冬が近づいて来る。いつもの商店街はすっかりクリスマスムードに彩られ、クリスマスソングが流れて来る。

「毎年の事だが、すげぇな‥‥」
「伊織、見て! 綺麗なスノードーム!」
「ん? あぁ、綺麗だな」

クリスマスの小物や飾りを見てはしゃぐノア。だが、その横顔には少し陰が見える。

「そろそろ帰るぞ。こっちでも雪が降りそうだ」

伊織がどんよりとした空を見上げる。白い息がふわりと空に溶けていく。アーケードから出て少し歩くと、伊織の髪に真っ白な雪が舞い落ちる。

「伊織、雪だ‥‥僕、日本の雪初めて」
「初雪か‥‥今年は、ホワイトクリスマスになるかもな」

ノアが、自身の指に舞い落ちた雪が溶けていくのを見つめ、ギュッと手を握る。

「‥‥伊織、僕‥‥年が明ける前には帰らなきゃいけないんだ」

伊織が一瞬動きを止める。

「言うの、遅くなってごめん‥‥」
「‥‥そうか‥‥」

一瞬、そっと目を伏せ、再び伊織が歩き出す。

「‥‥それだけ?」

戸惑うような、少し声が震えるノア。

「寒い。早く帰るぞ」

歩き出した伊織の背中を見つめるノアが、ぽつりとつぶやいた。

「‥‥そうやって、何でも受け止めたふりして‥我慢して‥‥ずるいよ‥‥」





それでも、お互いを求め合う。何かを繋ぎとめるように、離したくないと言うように。

「い、おり‥‥激しっ‥‥あぁっ!」

仰け反るノアの首筋に、幾つも赤い跡を残す。切な気に見下ろす伊織の頬から落ちた雫が、ノアの頬を濡らす。疲れ果てるまでお互いを求め合い、眠りにつく。
朝起きると、ノアが既にいなくなっていた。台所には、「大学に行ってきます」とメモが残されていた。戸棚から箱を取り出し、蓋を開ける。そこには、今までノアが残して行った置手紙が全て入っていた。

「これでいいんだ‥‥あいつはまだ若い。追いすがってどうする‥‥」

新しいメモを箱にしまい、また棚に戻す。

「あいつには、帰る場所があるんだ‥‥」

何事も無かったように‥‥だが、確実に近づいて来る別れに、伊織の胸が締め付けられる。たまらず、外に出て商店街を歩く。クリスマスの浮かれた空気に、舌打ちをしそうになる。

「クリスマスなんざ、気にした事なかったのに‥‥」

道を歩く仲良さそうなカップルや、親子連れの姿。毎年、「またか」くらいにしか思っていなかった光景が、妙に苦く感じる。宝石店の前を通りかかり、一瞬ペアリングに目が止まる。

「あほらしい‥‥」

振り切るように通り過ぎ、目に入ったのは緋色のマフラーだった。

「あいつに似合いそうだな」

気が付いたら、購入していた。妙に落ち着かない気持ちで家に帰る。ソワソワとしながら、買って来たマフラーの包を手に、部屋の中をグルグルと歩き回る。

「(本棚の裏?いや、バレるな。押し入れ‥‥は、ノアの物も入ってるし‥‥)ったく、なんで俺がこんな‥‥」

気付けば、両手でしっかりとプレゼントを抱きかかえていた。表面のリボンをそっと指でなぞり、伊織はふっと息を吐く。

「‥‥完全に惚れてんじゃねぇか、俺」

その瞬間、ふいに笑いが込み上げてくる。

「‥‥もういい。悩むのは、性に合わねぇ」

バサッとプレゼントを机の引き出しに突っ込むと、伊織は腰に手をあてて、天井を仰いだ。

「(惚れた相手が国に帰る? だからなんだってんだ)色々と、準備しなきゃな‥‥」

ニヤリと笑う伊織の顔は、吹っ切れたように清々しくも、何かを企んでいるようにも見えた。





「ただいま‥‥」

少し沈んだ声で帰って来たノア。だが、出迎えてくれたのはいつもの伊織だった。

「おう、おかえり。手洗って来いよ」
「う、うん‥‥?」

手を洗い、台所に向かうと、伊織が晩御飯の準備をしていた。そっと後ろから近づき、恐る恐る腰に腕を回す。

「どうした? 飯ならもう少しでできるぞ?」
「う、うん‥‥」
「何だよ‥‥ニンジンは出してやらないからな?」
「もぉ、ニンジンは食べられるようになったもん」

頬を膨らませるノアに、クスクスと笑う伊織。かつての様な空気をノアは感じ、不思議に思いながらも、嬉しくて思わずギュッと抱きしめる。

「おい、邪魔だ。皿出せ」
「は~い」

夕食が終わり、肌を重ね、眠りにつく。そして翌朝、ノアを見送って玄関の鍵を掛けた。

「‥‥よし、行ったな」

ノアの足音が遠ざかり、戸の施錠をもう一度確認して、伊織は深くため息を吐いた。ノアは今日、大学の授業と図書館で自習の予定。戻るのは、夕方近くだ。

(‥‥今しかねぇ)

そう心の中で呟きながら、脱衣所に向かう。何度も考え、結局これしか浮かばなかった。脱衣所の棚から、新品のローションのボトルを取り出す。誰も見ていないはずなのに、妙な羞恥心から辺りを見渡す。

そして―――

「‥‥昼間っから、俺は何をやってんだか‥‥」

ひとりで、真顔で下半身の解し作業に取り掛かっている自分が、あまりにも情けなくて思わず笑ってしまった。

(ノアの奴に知られたら、一生ネタにされるな‥‥)

真面目な顔で、丁寧に、奥まで指を入れて確認する。覚悟を決めたからには、準備くらいしておきたい。痛みで途中で止めたくない。何より、ノアに「無理させてる」なんて思わせたくない。ひとりで下に触れる事さえ、もう何年もなかったというのに。

「(‥‥もう少し、か?)んっ‥‥」

目を閉じて、浅く息を吐く。痛みを最小限にするため、ゆくっくり、深く。昨夜のノアとの事が脳裏に過り、下半身が反応する。

(ノアのため‥‥とか言いつつ、結局、俺がアイツに抱かれたいんじゃねぇか‥‥)

羞恥と諦めと、覚悟が入り混じった吐息を、湯気がそっと包んでいく。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
週一で更新予定です。続きも楽しんでいただけたら、嬉しいです。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

発情薬

寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。  製薬会社で開発された、通称『発情薬』。  業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。  社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

処理中です...