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第十話
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第十話
僅かな違和感を残しながら、冬が近づいて来る。いつもの商店街はすっかりクリスマスムードに彩られ、クリスマスソングが流れて来る。
「毎年の事だが、すげぇな‥‥」
「伊織、見て! 綺麗なスノードーム!」
「ん? あぁ、綺麗だな」
クリスマスの小物や飾りを見てはしゃぐノア。だが、その横顔には少し陰が見える。
「そろそろ帰るぞ。こっちでも雪が降りそうだ」
伊織がどんよりとした空を見上げる。白い息がふわりと空に溶けていく。アーケードから出て少し歩くと、伊織の髪に真っ白な雪が舞い落ちる。
「伊織、雪だ‥‥僕、日本の雪初めて」
「初雪か‥‥今年は、ホワイトクリスマスになるかもな」
ノアが、自身の指に舞い落ちた雪が溶けていくのを見つめ、ギュッと手を握る。
「‥‥伊織、僕‥‥年が明ける前には帰らなきゃいけないんだ」
伊織が一瞬動きを止める。
「言うの、遅くなってごめん‥‥」
「‥‥そうか‥‥」
一瞬、そっと目を伏せ、再び伊織が歩き出す。
「‥‥それだけ?」
戸惑うような、少し声が震えるノア。
「寒い。早く帰るぞ」
歩き出した伊織の背中を見つめるノアが、ぽつりとつぶやいた。
「‥‥そうやって、何でも受け止めたふりして‥我慢して‥‥ずるいよ‥‥」
*
それでも、お互いを求め合う。何かを繋ぎとめるように、離したくないと言うように。
「い、おり‥‥激しっ‥‥あぁっ!」
仰け反るノアの首筋に、幾つも赤い跡を残す。切な気に見下ろす伊織の頬から落ちた雫が、ノアの頬を濡らす。疲れ果てるまでお互いを求め合い、眠りにつく。
朝起きると、ノアが既にいなくなっていた。台所には、「大学に行ってきます」とメモが残されていた。戸棚から箱を取り出し、蓋を開ける。そこには、今までノアが残して行った置手紙が全て入っていた。
「これでいいんだ‥‥あいつはまだ若い。追いすがってどうする‥‥」
新しいメモを箱にしまい、また棚に戻す。
「あいつには、帰る場所があるんだ‥‥」
何事も無かったように‥‥だが、確実に近づいて来る別れに、伊織の胸が締め付けられる。たまらず、外に出て商店街を歩く。クリスマスの浮かれた空気に、舌打ちをしそうになる。
「クリスマスなんざ、気にした事なかったのに‥‥」
道を歩く仲良さそうなカップルや、親子連れの姿。毎年、「またか」くらいにしか思っていなかった光景が、妙に苦く感じる。宝石店の前を通りかかり、一瞬ペアリングに目が止まる。
「あほらしい‥‥」
振り切るように通り過ぎ、目に入ったのは緋色のマフラーだった。
「あいつに似合いそうだな」
気が付いたら、購入していた。妙に落ち着かない気持ちで家に帰る。ソワソワとしながら、買って来たマフラーの包を手に、部屋の中をグルグルと歩き回る。
「(本棚の裏?いや、バレるな。押し入れ‥‥は、ノアの物も入ってるし‥‥)ったく、なんで俺がこんな‥‥」
気付けば、両手でしっかりとプレゼントを抱きかかえていた。表面のリボンをそっと指でなぞり、伊織はふっと息を吐く。
「‥‥完全に惚れてんじゃねぇか、俺」
その瞬間、ふいに笑いが込み上げてくる。
「‥‥もういい。悩むのは、性に合わねぇ」
バサッとプレゼントを机の引き出しに突っ込むと、伊織は腰に手をあてて、天井を仰いだ。
「(惚れた相手が国に帰る? だからなんだってんだ)色々と、準備しなきゃな‥‥」
ニヤリと笑う伊織の顔は、吹っ切れたように清々しくも、何かを企んでいるようにも見えた。
*
「ただいま‥‥」
少し沈んだ声で帰って来たノア。だが、出迎えてくれたのはいつもの伊織だった。
「おう、おかえり。手洗って来いよ」
「う、うん‥‥?」
手を洗い、台所に向かうと、伊織が晩御飯の準備をしていた。そっと後ろから近づき、恐る恐る腰に腕を回す。
「どうした? 飯ならもう少しでできるぞ?」
「う、うん‥‥」
「何だよ‥‥ニンジンは出してやらないからな?」
「もぉ、ニンジンは食べられるようになったもん」
頬を膨らませるノアに、クスクスと笑う伊織。かつての様な空気をノアは感じ、不思議に思いながらも、嬉しくて思わずギュッと抱きしめる。
「おい、邪魔だ。皿出せ」
「は~い」
夕食が終わり、肌を重ね、眠りにつく。そして翌朝、ノアを見送って玄関の鍵を掛けた。
「‥‥よし、行ったな」
ノアの足音が遠ざかり、戸の施錠をもう一度確認して、伊織は深くため息を吐いた。ノアは今日、大学の授業と図書館で自習の予定。戻るのは、夕方近くだ。
(‥‥今しかねぇ)
そう心の中で呟きながら、脱衣所に向かう。何度も考え、結局これしか浮かばなかった。脱衣所の棚から、新品のローションのボトルを取り出す。誰も見ていないはずなのに、妙な羞恥心から辺りを見渡す。
そして―――
「‥‥昼間っから、俺は何をやってんだか‥‥」
ひとりで、真顔で下半身の解し作業に取り掛かっている自分が、あまりにも情けなくて思わず笑ってしまった。
(ノアの奴に知られたら、一生ネタにされるな‥‥)
真面目な顔で、丁寧に、奥まで指を入れて確認する。覚悟を決めたからには、準備くらいしておきたい。痛みで途中で止めたくない。何より、ノアに「無理させてる」なんて思わせたくない。ひとりで下に触れる事さえ、もう何年もなかったというのに。
「(‥‥もう少し、か?)んっ‥‥」
目を閉じて、浅く息を吐く。痛みを最小限にするため、ゆくっくり、深く。昨夜のノアとの事が脳裏に過り、下半身が反応する。
(ノアのため‥‥とか言いつつ、結局、俺がアイツに抱かれたいんじゃねぇか‥‥)
羞恥と諦めと、覚悟が入り混じった吐息を、湯気がそっと包んでいく。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
週一で更新予定です。続きも楽しんでいただけたら、嬉しいです。
僅かな違和感を残しながら、冬が近づいて来る。いつもの商店街はすっかりクリスマスムードに彩られ、クリスマスソングが流れて来る。
「毎年の事だが、すげぇな‥‥」
「伊織、見て! 綺麗なスノードーム!」
「ん? あぁ、綺麗だな」
クリスマスの小物や飾りを見てはしゃぐノア。だが、その横顔には少し陰が見える。
「そろそろ帰るぞ。こっちでも雪が降りそうだ」
伊織がどんよりとした空を見上げる。白い息がふわりと空に溶けていく。アーケードから出て少し歩くと、伊織の髪に真っ白な雪が舞い落ちる。
「伊織、雪だ‥‥僕、日本の雪初めて」
「初雪か‥‥今年は、ホワイトクリスマスになるかもな」
ノアが、自身の指に舞い落ちた雪が溶けていくのを見つめ、ギュッと手を握る。
「‥‥伊織、僕‥‥年が明ける前には帰らなきゃいけないんだ」
伊織が一瞬動きを止める。
「言うの、遅くなってごめん‥‥」
「‥‥そうか‥‥」
一瞬、そっと目を伏せ、再び伊織が歩き出す。
「‥‥それだけ?」
戸惑うような、少し声が震えるノア。
「寒い。早く帰るぞ」
歩き出した伊織の背中を見つめるノアが、ぽつりとつぶやいた。
「‥‥そうやって、何でも受け止めたふりして‥我慢して‥‥ずるいよ‥‥」
*
それでも、お互いを求め合う。何かを繋ぎとめるように、離したくないと言うように。
「い、おり‥‥激しっ‥‥あぁっ!」
仰け反るノアの首筋に、幾つも赤い跡を残す。切な気に見下ろす伊織の頬から落ちた雫が、ノアの頬を濡らす。疲れ果てるまでお互いを求め合い、眠りにつく。
朝起きると、ノアが既にいなくなっていた。台所には、「大学に行ってきます」とメモが残されていた。戸棚から箱を取り出し、蓋を開ける。そこには、今までノアが残して行った置手紙が全て入っていた。
「これでいいんだ‥‥あいつはまだ若い。追いすがってどうする‥‥」
新しいメモを箱にしまい、また棚に戻す。
「あいつには、帰る場所があるんだ‥‥」
何事も無かったように‥‥だが、確実に近づいて来る別れに、伊織の胸が締め付けられる。たまらず、外に出て商店街を歩く。クリスマスの浮かれた空気に、舌打ちをしそうになる。
「クリスマスなんざ、気にした事なかったのに‥‥」
道を歩く仲良さそうなカップルや、親子連れの姿。毎年、「またか」くらいにしか思っていなかった光景が、妙に苦く感じる。宝石店の前を通りかかり、一瞬ペアリングに目が止まる。
「あほらしい‥‥」
振り切るように通り過ぎ、目に入ったのは緋色のマフラーだった。
「あいつに似合いそうだな」
気が付いたら、購入していた。妙に落ち着かない気持ちで家に帰る。ソワソワとしながら、買って来たマフラーの包を手に、部屋の中をグルグルと歩き回る。
「(本棚の裏?いや、バレるな。押し入れ‥‥は、ノアの物も入ってるし‥‥)ったく、なんで俺がこんな‥‥」
気付けば、両手でしっかりとプレゼントを抱きかかえていた。表面のリボンをそっと指でなぞり、伊織はふっと息を吐く。
「‥‥完全に惚れてんじゃねぇか、俺」
その瞬間、ふいに笑いが込み上げてくる。
「‥‥もういい。悩むのは、性に合わねぇ」
バサッとプレゼントを机の引き出しに突っ込むと、伊織は腰に手をあてて、天井を仰いだ。
「(惚れた相手が国に帰る? だからなんだってんだ)色々と、準備しなきゃな‥‥」
ニヤリと笑う伊織の顔は、吹っ切れたように清々しくも、何かを企んでいるようにも見えた。
*
「ただいま‥‥」
少し沈んだ声で帰って来たノア。だが、出迎えてくれたのはいつもの伊織だった。
「おう、おかえり。手洗って来いよ」
「う、うん‥‥?」
手を洗い、台所に向かうと、伊織が晩御飯の準備をしていた。そっと後ろから近づき、恐る恐る腰に腕を回す。
「どうした? 飯ならもう少しでできるぞ?」
「う、うん‥‥」
「何だよ‥‥ニンジンは出してやらないからな?」
「もぉ、ニンジンは食べられるようになったもん」
頬を膨らませるノアに、クスクスと笑う伊織。かつての様な空気をノアは感じ、不思議に思いながらも、嬉しくて思わずギュッと抱きしめる。
「おい、邪魔だ。皿出せ」
「は~い」
夕食が終わり、肌を重ね、眠りにつく。そして翌朝、ノアを見送って玄関の鍵を掛けた。
「‥‥よし、行ったな」
ノアの足音が遠ざかり、戸の施錠をもう一度確認して、伊織は深くため息を吐いた。ノアは今日、大学の授業と図書館で自習の予定。戻るのは、夕方近くだ。
(‥‥今しかねぇ)
そう心の中で呟きながら、脱衣所に向かう。何度も考え、結局これしか浮かばなかった。脱衣所の棚から、新品のローションのボトルを取り出す。誰も見ていないはずなのに、妙な羞恥心から辺りを見渡す。
そして―――
「‥‥昼間っから、俺は何をやってんだか‥‥」
ひとりで、真顔で下半身の解し作業に取り掛かっている自分が、あまりにも情けなくて思わず笑ってしまった。
(ノアの奴に知られたら、一生ネタにされるな‥‥)
真面目な顔で、丁寧に、奥まで指を入れて確認する。覚悟を決めたからには、準備くらいしておきたい。痛みで途中で止めたくない。何より、ノアに「無理させてる」なんて思わせたくない。ひとりで下に触れる事さえ、もう何年もなかったというのに。
「(‥‥もう少し、か?)んっ‥‥」
目を閉じて、浅く息を吐く。痛みを最小限にするため、ゆくっくり、深く。昨夜のノアとの事が脳裏に過り、下半身が反応する。
(ノアのため‥‥とか言いつつ、結局、俺がアイツに抱かれたいんじゃねぇか‥‥)
羞恥と諦めと、覚悟が入り混じった吐息を、湯気がそっと包んでいく。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
週一で更新予定です。続きも楽しんでいただけたら、嬉しいです。
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