その帯、解いていい?

桃まめきなこ

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第十二話

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第十二話


布が擦れる音がして、意識がうかび上がる。
一晩中離れなかった温もりが、そっと離れていく。引き留めたい想いを押し殺し、眠っているフリをした。
そっと髪をなで、名残惜しそうに唇に触れた柔らかさが、胸を鷲掴む。

「伊織、愛してる‥‥だから、さよならは言いたくないんだ。最後まで、我儘でごめん。でもきっと、伊織なら「バカだな」って笑ってくれるよね‥‥」

ゆっくりと離れていく気配に、布団の中でシーツを掴んだ。
暫くして、玄関の戸を閉める音が聞こえてくる。伊織がゆっくりと起き上がると、体のあちこちが軋む。

「あのクソエロガキ‥‥少しは手加減しろってんだ‥‥」

自身を見下ろすと、無数に付けられた赤い跡に、耳まで赤くなる。昨夜の余韻と疲労感を全身で感じながら、何とか立ち上がる。脱ぎ棄てられた着物をなんとか拾い集め、適当に着ると、恐る恐る寝室を出た。よろけながら台所の前にたどり着くと、テーブルの上にメモが残されていた。そこには、たった一言―――

『愛してる』

待っていてとも、帰って来るからとも、そんな事は書いていない。残されたのは、たった一言だけ。
伊織の頬を滑り落ちた雫が、メモに吸い込まれていった。





ノアがいない春が来て、また夏になって‥‥季節は移ろい、生活が元に戻って行く。
作り過ぎた料理や、ノアが好きだった菓子を手に取って苦笑いする事も減って来た。
自身の描いた漫画の売れ行きが良く、翻訳されて海外にも出ると聞いた時は、「あいつが見るかもしれないな‥‥」なんて事も考えた。
アイツがいなくなった頃、商店街でもすっかり馴染んでいたノアの事を聞かれ、苦笑いしながら答えていた。見かける度にノアが追い掛け回していた焼き芋屋のオヤジも、寂しそうにしていたのを覚えている。

ノアが去ってから、三年が過ぎようとしていた。

住所も、携帯番号さえも知らない。もしかしたらと期待を込めて、家のポストを開けるのをやめたのは、つい最近だった。何度も外そうとした指輪は、相変わらず左手の薬指に我が物顔で居座っている。

「お、先生、まいど」

焼き芋屋のトラックを見つけ、つい引き留めてしまった。俺を小説家か何かと勘違いしているオヤジは、いつの間にか俺を「先生」と呼ぶようになっていた。

「あの金髪の兄ちゃん、今年も来ないんか?」
「‥‥さぁな」
「先生‥‥振られたんか。まぁ、俺の芋を食って元気だせよ!」
「うるせぇ、アホか」

そんな軽口を叩けるくらいには、常連になってしまっていた自分に苦笑いする。お節介にもおまけを入れられた紙袋を持ち、空を見上げる。

「そろそろ、クリスマスか‥‥」

空を見上げると、今にも雪が降り出しそうな、曇天の空。急いで家に帰り、台所のテーブルに袋を置いた。その瞬間、家のチャイムが鳴る。

「編集か? 来るのは来週だったはずだが‥‥」

何度も鳴らされるチャイムに苛立ち、速足で玄関に向かう。

「うるせぇ!」

怒鳴りながら、勢いよく戸を開けた。そこに立っていたのは編集者ではなく、自分よりも頭一つ分大きい、金髪碧眼の男だった。少しだけ大人になった顔に、あの時贈った緋色のマフラー。そして、左手の薬指には、伊織の物と同じリングが光る。

「‥‥ただいま」
「‥‥何が、ただいま、だ! このくそガキ!」

伊織が顔を背けた瞬間、ノアに力強く抱きしめられる。

「伊織‥‥会いたかった‥‥!」
「‥‥遅せぇよ、バカ‥‥」 

伊織の手がノアの背に回り、コートを掴んだ。
お互いの存在を確かめるように、二度と離れないように―――




ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
BL小説を書いたのは初めてで、右往左往しながら、なんとか完走できました(笑)
読んでくださった方々、お気に入りに入れてくださった方々、本当にありがとうございます。

実は、もう一話あるのですが‥‥ここで出すのはちょっと不安なため、「小説家になろう、ムーンライトノベルズ」の方で出す予定です。
二人が再会した後の、ちょっと濃いめのアレですので、ご興味のある方は探していただけると嬉しいです。

ありがとうございました!
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