敗北勇者

DAI999

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序章:死闘、そして、敗北

決戦

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互いに向かい合い、それぞれの武器を構える

張り詰めた緊張感

その空間には、『安らぎ』なんて甘い言葉は存在しない

仲間の狂戦士バーサーカーが一歩前に出てヤツに対して言い放った
「魔王っ!
俺は...は...
お前を倒して世界に平和と調和をもたらす!」
続いて魔法使いと僧侶が同時に一歩前へ出た
「私だってこの日のために魔法を練習してきたのよ!
絶対にブッ飛ばす!」
「ダメダメだった僕を拾ってくれた勇者さんとの別れは惜しいけれど...
お前を倒さなければいけない理由がある!
勇者さんと別れることになっても倒すしか道はないんだ!」
最後に僕が一歩前へ出る
「みんな...
...行こう!」
「おうっ!!」
3人が同時に力強い返事を返した



一旦緊張を解そうとまぶたを閉じる

神殿で抜いた伝説の剣
火山の奥底に隠された伝説の盾
魔王軍から奪還した伝説の鎧
その3つが今、自らの手にある

世界中を周って沢山の経験をしてきた
それがあって今の僕がいる
それのない僕は想像できない

...大丈夫、僕ならできる

そう言い聞かせてまぶたを開いた


戦いは進んで、全員に疲れが見え始めた
「くらえ魔王!『全身全霊の炎ギガンティック•フレイム』!」
魔法使いの杖の前で巨大な火球が現れる
そして、それを魔王に向けて射出した
魔法使いもフルパワーで呪文を放っているように見える
...しかし、これまでの冒険で彼女の本気を見ているから分かる
炎の威力が弱まっている...!
「...その程度か」
まともにくらったのに、魔王はまだ涼しい顔をしている
...何故だ、全員の総攻撃を受けて多少は体力が削れていてもおかしくはない筈だ
「少しは期待していたが...
ガッカリだな」
...何かが来る!
直感的にそう感じた
「これで終わりだ...
破壊と滅亡の一撃アンリミテッドブレイク』...!」
魔王が掲げた右手に紫色の巨大な球が形成されていく
全てを飲み込みようなその色は、狂気を放った
「死ねぃ!勇者共よ!」
そう叫んで狂気の球を投げつけた
範囲が広い!これを避けるのは...
そう思って覚悟を決めたとき

僧侶が前へ飛び出した

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま僧侶の体が狂気へ飲み込まれていった
「おい...」
叫ぶ間もなく、僧侶を飲み込んだ狂気は、威力を弱めて僕らのもとへ飛んでいった

一瞬意識が途切れた

気がつくと、僧侶の姿はそこになく、狂戦士と魔法使いがその場に倒れていた
そして、その奥には...
「...まだ生きていたか」
当たり前のように魔王が構えていた
「もう戦い続けることは無理ね...」
起き上がりながら魔法使いは呟いた
「俺ももう何もできない...」
倒れ込んだまま、狂戦士は呟いた
魔法使いと狂戦士の目は、何かを決意したように感じた
「アンタ1人ならきっと、魔王を倒せるわ
この体が果てる前に、私は一矢報いる...!」
足が震えている
そんな中でも魔法使いは杖を自分の前に構え、全身から振り絞るように唱えた
「...私の最後の魔法
しっかりと見ててね...
...『全開放フルバースト』...!」
それを唱えると、杖から白銀の球が現れ、どんどん広がっていった
やがて魔法使いの全身を包むと、魔王へ向って飛んでいった
「ぬうっ!」
ようやく有効打を与えられたように感じた
魔王にぶつかった白銀の球は、その場で消えた

その球の中から魔法使いが出てくることは無かった

これで二人の仲間が散った
必死に魔法使いの名を叫んだ
しかし、それは声にならなかった...

「二人とも、カッコつけて死にやがって...」
狂戦士が立ち上がった
しかし、彼の右腕は欠けていた
「俺もカッコつけなきゃ死ねないなぁ...!」
狂戦士は魔王へ突っ込んだ
しかし、その速度は余りにも遅く、魔王が腕を振り払っただけで吹っ飛ばされてしまった
「ぐはぁっ!」
こういう時に限って声が出ない...何故だ...

「...勇者サンよぉ...
いいことを教えてやるぜ...」
諦めたかのような声で僕に語り始めた
「狂戦士は呪文が使えない、と前に言ったな...」
そうだったな、と僕は頷く
「実は...
に限って使える呪文がある」
僕は驚いたような反応をした
「俺の力を全てお前さんに預けるぜ...
あとは任せた...」
おい!そんなことするな!
必死で叫ぶ
声にならなかった
「...」
とてつもなく小さい声で狂戦士は何かを唱えた
「俺の役目はこれまでだ...
じゃあな、またどこかで...」
そう言って静かに目を閉じた

全身に力がみなぎった
狂戦士が分け与えてくれた力だろうか

即座に立ち上がって魔王の方を向く
「魔王っ!」自分でも驚くくらい覇気が籠もった声
「散っていった全ての仲間たちの雪辱を晴らすためにも...
お前を倒す...!」
「フッ...
無駄なことよ!」
「うおおおおおおお!!」
叫びながら魔王へ突っ込んでいった


僕の記憶はここで途絶えている
全力で戦ったからか、死んでしまったからか
原因は分からない

ただ1つ、はっきり言えることがある


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