敗北勇者

1章:目覚めの刻

2度目の旅立ち

「...それでは勇者...
いえ、元勇者よ
この世界へ旅立つ覚悟はできましたか?」

元勇者

言葉とは不思議なものだ
単語の前に一文字つくだけで一気に印象が変化する

僕は元勇者だ
なにがあったか覚えていないけれど、100年前に魔王を打ち倒すことができていれば名誉な意味で『元勇者』になれていただろう
だが現実はそうでない
魔王に敗北して、今では負け犬の元『勇者』だ
不名誉な『元勇者』だ


元勇者になっても成し遂げるべきことは変わらない

『魔王を打ち倒す』

それだけだ


「覚悟はできたよ」
意を決して答える
「...フフッ」
「何かおかしいことを言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
「はぁ...」

どこかで聞いたことがあるような...
気のせいだろうか?

「あなたの故郷へ送りましょう
どうか、この地に平和を...」
そう声が言うと僕の身体は光で包まれていった...


「...ふぅ、終わったわ」
「勇者さん、100年経っても性格は変わっていませんね」
「そうね、もしこれで...」
一息ついて呟いた
「私の...
いや、私達のことを覚えていてくれたら完璧だったのにね...」
「...」



再び目が覚めた

起き上がる

周りを見渡す

森の中の集落の跡だった


おそらく100年前、僕が敗北したことでこの集落は滅んでしまったのだろう
あの時勝てれば...後悔が頭をよぎる

家の残骸を漁ることにした
もしかしたら役に立つものが落ちているかもしれない...


よく考えてみたら、何も武器を持っていない
服も質素なものだ

魔王が君臨している
それはつまり魔物も存在しているということだろう
もしこの状況で魔物に襲われたら...?

武器の調達が先決だ
何かあれば...そう祈りながら周りを掘り返したりした



最悪だ

ちょっとした食料は見つかった
しかし、武器なんてどこにも無かった
あるにはあったのだが、かなり風化しているせいで使い物にならない
持っただけでぼろぼろと崩れ落ちてしまった


あと1軒残っている
ほとんどが崩れている中でその1軒だけ原型をほとんど保っていた
そこに何かあれば...

賭けに近かった
この賭けに負ければ本当に何もない状況になる
何かあってくれ

そう願いながら家の扉を開いた...