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第一章
1-5 徳の消費にご用心
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長い指が綺麗にならんだ手のひらが私の秘密に触れて、呆気なく取り上げられてしまった。
何をする気なのだろうか。最近だと応募者のSNSでの活動を事前に調べたりすると何かで見たことがある。私は流行りものは入れてあるが、全て見る専用で私から何かを発信したことなど若気の至りですら経験がない。私のことなんて誰も興味ないだろうし、発信するほどの出来事が何一つない。
あっ・・・、もしかして、よくある恋愛もののあれかしら。主人公のスマホを取り上げたオラオラ系男性が「俺の番号入れといたから。三コール以内に出ろよ」とか言って、何ぃこいつむかつくぅから始まる恋みたいなアレ。
「あの」
申し訳なさそうな男性の声に脳内会議から意識を戻すと、すっと両手で大事そうにスマホを差し出された。
「あ、ありが「これでネットサーフィンがしたいです」
返されると思って出た感謝の言葉に重なるように言われた言葉がなんとも奇妙で、スマホと彼の顔を交互に見る。視線が交わればさっと逸らされてしまうので、こちらは逆にまじまじと綺麗な顔を観察出来る絶好のチャンスなわけだ。
きゅっと結ばれた唇は何かを言いたげに少し震えていて、左右に動く視線に合わせて動くまつげも彼を彩る素敵な要素だ。なんだか、どうしようもなく母性がくすぐられてならない。子どもを生んだことはないのだけれど。
「ネットサーフィンというのは、つまり何か調べたいことがあるということですか?」
今時『ネットサーフィン』なんて表現をする人がいることがまず珍しい。まるで教科書に載っているような表現だ。どう見ても私よりも若そうな人が言うのが違和感に感じるだけかもしれないけれど。
「覗いてみたいんです。色んなものを。今の流行とか、人とか音楽とか・・・とにかくたくさん」
そう言った彼の表情は楽しそうで、なのに何故か儚げで。こんな家に住んで何不自由もなく育ったであろう彼に何の事情があるのだろうか。交わした言葉は数える程度、過ごした時間は三十分にも満たないと思う。それなのに強く興味を惹かれるのは、彼の魅力が外見だけではないことがひしひしと伝わってくるからなんだろう。
「あ、えっと。YouTubeとか色んなものがありますけど、あ、でも私の趣味の物ばかりだから面白くないかもしれないです。インスタのほうが色んなのが流れてくるからいいかも?」
「インスタ・・・」
「初めてですか?これなんですけど」
テーブルの上に置いたスマホをいつも通り操作してアプリを開き、フォローではなくおすすめ欄を開いてさっとスクロールしてから視線をあげる。
その距離はおよそ十五センチ。彼に意図はない。彼の無垢な瞳に映っているのは煌びやかなSNSの世界で、私のことなんて視界にも入っていない。でもごめんなさい。私にとってはSNSよりもずっと、穢れを知らない貴方の眼差しの方が綺麗に見えます。
「これ、触ってもいいですか?」
テーブルに乗る勢いで身を乗り出している理人さんは、クリスマスの子どもみたいにわくわくして見える。あまりに微笑ましくて、ゆるんでしまう頬をそのままに「どうぞ」と返した。
両親にスマホの操作を教えたときを思い出してしまうほど、若者とは思えないぎこちない指さばきにスマホ歴の無さが伺える。変なとこを押してしまいそうになるときは止めたらいいから、今は好きなようにさせてあげたいと思ってしまう。
「なんか、角度によって液晶が暗いときがある気がして。僕が壊してしまいましたか?」
「あ、いえ。多分のぞき見防止フィルムのせいです。ほら、こうやって正面から見ると普通なので」
理人さんから見やすいように正面にスマホを掲げると、切れ長の目が驚いた猫のように真ん丸とした目に変わり「なるほど」と納得したようだ。
おもむろに立ち上がった理人さんは流れるように私の隣に座って、私の手ごとスマホを掴んで頷いた。
「こっちからだと見やすいですね」
お手本のように綺麗な笑顔を向けられて、時が止まってしまえと思った。触れられた肌から彼の熱が伝わり、何倍もの熱となって全身を駆け巡る。
こんな展開が嬉しくないわけがない。スクールカーストでは絶対に上位グループで、かつ先輩後輩関わらずなんなら先生からもモッテモテだったであろうこの人に笑いかけられて触れられて今は隣に座っているんだ。さっきまでは友達との距離。今は恋人との距離感だ。一体いつの間に徳を積んでしまっていたのだろうか。今、全部の徳を放出していいのだろうか。
そういえば良い匂いがする気がするし、髪もサラサラでお肌も綺麗。多分というか絶対お金持ちだし、それなのになんだか擦れてなくて性格も良さそうだし。声も低めで正直エロいし高身長だし首が長めで首筋もエロい。いや、なに興奮してるんだ私。
これがきっとヒロインだったら恋に落ちるんだろうな。
でも残念ながら私は売れ残りのありきたりなモブ女。今こうして彼の興味のついでの付属品なのに声をかけてもらっているだけでありがたいことなの。私がバクバク心臓を鳴らしていたって彼には聞こえないし、何かの物語がはじまるわけもない。
期待しそうになってしまった。私が主人公のラブストーリーだなんて、そんなのあるわけないのに。
何をする気なのだろうか。最近だと応募者のSNSでの活動を事前に調べたりすると何かで見たことがある。私は流行りものは入れてあるが、全て見る専用で私から何かを発信したことなど若気の至りですら経験がない。私のことなんて誰も興味ないだろうし、発信するほどの出来事が何一つない。
あっ・・・、もしかして、よくある恋愛もののあれかしら。主人公のスマホを取り上げたオラオラ系男性が「俺の番号入れといたから。三コール以内に出ろよ」とか言って、何ぃこいつむかつくぅから始まる恋みたいなアレ。
「あの」
申し訳なさそうな男性の声に脳内会議から意識を戻すと、すっと両手で大事そうにスマホを差し出された。
「あ、ありが「これでネットサーフィンがしたいです」
返されると思って出た感謝の言葉に重なるように言われた言葉がなんとも奇妙で、スマホと彼の顔を交互に見る。視線が交わればさっと逸らされてしまうので、こちらは逆にまじまじと綺麗な顔を観察出来る絶好のチャンスなわけだ。
きゅっと結ばれた唇は何かを言いたげに少し震えていて、左右に動く視線に合わせて動くまつげも彼を彩る素敵な要素だ。なんだか、どうしようもなく母性がくすぐられてならない。子どもを生んだことはないのだけれど。
「ネットサーフィンというのは、つまり何か調べたいことがあるということですか?」
今時『ネットサーフィン』なんて表現をする人がいることがまず珍しい。まるで教科書に載っているような表現だ。どう見ても私よりも若そうな人が言うのが違和感に感じるだけかもしれないけれど。
「覗いてみたいんです。色んなものを。今の流行とか、人とか音楽とか・・・とにかくたくさん」
そう言った彼の表情は楽しそうで、なのに何故か儚げで。こんな家に住んで何不自由もなく育ったであろう彼に何の事情があるのだろうか。交わした言葉は数える程度、過ごした時間は三十分にも満たないと思う。それなのに強く興味を惹かれるのは、彼の魅力が外見だけではないことがひしひしと伝わってくるからなんだろう。
「あ、えっと。YouTubeとか色んなものがありますけど、あ、でも私の趣味の物ばかりだから面白くないかもしれないです。インスタのほうが色んなのが流れてくるからいいかも?」
「インスタ・・・」
「初めてですか?これなんですけど」
テーブルの上に置いたスマホをいつも通り操作してアプリを開き、フォローではなくおすすめ欄を開いてさっとスクロールしてから視線をあげる。
その距離はおよそ十五センチ。彼に意図はない。彼の無垢な瞳に映っているのは煌びやかなSNSの世界で、私のことなんて視界にも入っていない。でもごめんなさい。私にとってはSNSよりもずっと、穢れを知らない貴方の眼差しの方が綺麗に見えます。
「これ、触ってもいいですか?」
テーブルに乗る勢いで身を乗り出している理人さんは、クリスマスの子どもみたいにわくわくして見える。あまりに微笑ましくて、ゆるんでしまう頬をそのままに「どうぞ」と返した。
両親にスマホの操作を教えたときを思い出してしまうほど、若者とは思えないぎこちない指さばきにスマホ歴の無さが伺える。変なとこを押してしまいそうになるときは止めたらいいから、今は好きなようにさせてあげたいと思ってしまう。
「なんか、角度によって液晶が暗いときがある気がして。僕が壊してしまいましたか?」
「あ、いえ。多分のぞき見防止フィルムのせいです。ほら、こうやって正面から見ると普通なので」
理人さんから見やすいように正面にスマホを掲げると、切れ長の目が驚いた猫のように真ん丸とした目に変わり「なるほど」と納得したようだ。
おもむろに立ち上がった理人さんは流れるように私の隣に座って、私の手ごとスマホを掴んで頷いた。
「こっちからだと見やすいですね」
お手本のように綺麗な笑顔を向けられて、時が止まってしまえと思った。触れられた肌から彼の熱が伝わり、何倍もの熱となって全身を駆け巡る。
こんな展開が嬉しくないわけがない。スクールカーストでは絶対に上位グループで、かつ先輩後輩関わらずなんなら先生からもモッテモテだったであろうこの人に笑いかけられて触れられて今は隣に座っているんだ。さっきまでは友達との距離。今は恋人との距離感だ。一体いつの間に徳を積んでしまっていたのだろうか。今、全部の徳を放出していいのだろうか。
そういえば良い匂いがする気がするし、髪もサラサラでお肌も綺麗。多分というか絶対お金持ちだし、それなのになんだか擦れてなくて性格も良さそうだし。声も低めで正直エロいし高身長だし首が長めで首筋もエロい。いや、なに興奮してるんだ私。
これがきっとヒロインだったら恋に落ちるんだろうな。
でも残念ながら私は売れ残りのありきたりなモブ女。今こうして彼の興味のついでの付属品なのに声をかけてもらっているだけでありがたいことなの。私がバクバク心臓を鳴らしていたって彼には聞こえないし、何かの物語がはじまるわけもない。
期待しそうになってしまった。私が主人公のラブストーリーだなんて、そんなのあるわけないのに。
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