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第2章
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しおりを挟む貴臣の長くねっとりとした口付けは、激しく求められているのだと錯覚してしまいそうな程に熱く優しかった。全てを預けてしまいそうになるくらいに、口付けは麻薬の様に沙也加に沁み込んで思考を鈍らせていく。
「はあ・・・・ふっ、完全に女の顔だぞ。いやらしい女だ」
貴臣は鼻で笑いながら、瞳を潤ませている沙也加を見た。放された唇が恋しくて、伸ばしかけた舌を貴臣の親指で口内に押し込められた。指はそのまま抜かれる事なく舌を弄び、敏感な上顎を撫でられると無意識に太ももをすり合わせていた。貴臣は指が唾液で濡れることなど気にも留めずに、沙也加の反応を無表情で見つめていた。
「あっ、もう・・・、何故こんな事を私に?」
「お前は私の所有物だから・・・私の自由であろう?」
「___所有物」
指を甘噛みしてみても抜いてくれないので、沙也加は喋りづらそうにしながら聞いた。だが、聞かなければよかったと思った。
こんな一般人の私なんかを側に置いているのは何故なのか、仕事が出来るわけでもないし綺麗なわけでもない。彼にとって利点があるとは思えずに、惨めな気持ちになるだけだった。
しんと重苦しい沈黙が続き、貴臣は相変わらず読み取れない表情で沙也加を見つめている。沙也加は俯いていた。世界の違う彼にとっては、この時間はたかが一時の暇つぶしでしかないんだと。この胸の高鳴りは久しぶりに男性に触られているからであって、貴臣だからではないんだと言い聞かせた。空気に流されているだけなのだと。
「___はあ。興覚めだな。もう戻れ」
貴臣は簡単に腕を解き、沙也加を開放した。
「仕事に戻る。お前は好きなようにしていろ」
「あっ、あの・・・私に仕事を頂けないでしょうか?」
「___新しくスマホアプリを企画している。大人の女性をターゲットにしたものだが、つまらんストーリーばかりが上がってくる。・・・お前の思う理想のストーリーをまとめて企画書を作れ」
「きっ、キカクショですか? 私作った事「明日お前のパソコンを届けさせる」・・・はあ」
貴臣は器用にネクタイを結びながら、沙也加の意見など聞く耳を持たず捲くし立てた。
「お前の理想をまとめるんだぞ。期待している」
念を押すようにそう言って、右の口角だけを不敵に上げて笑い出て行った。
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