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神崎藍翔×瑞樹冬愛 藍翔さんの誕生日
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「にゃあ」
道端の草が揺れる。普段なら素通りしてしまうのだけれど唯一好きだと言える動物の声に惹かれ、足を止めた。
草むらから顔を出したのは真っ黒な猫だった。体は痩せ細っていて毛もお世辞にも綺麗とは言えない。首元には何もついていないけれど、毛についた癖からは少し前まで首輪なるものがついていたと見受けられる。きっと、みすぼらしい首輪だったんだろうと僕は想像力を働かせた。
「僕のところにおいで」
気がつけば僕は、後先考えずその猫を抱き上げていた。猫の爪が腕の皮膚をえぐる。傷がつくことなんて今更どうでもいいけれど、助けてくれる人を傷つけるなんて行為が酷く滑稽に思え、同時に懐かしく思った。
「もう大丈夫だよ」
「ただいま」
「おかえり、冬愛。あれ、なしたんその子」
家に入ると当たり前ながら家主は目を丸めた。最初は自分の家に連れ帰ろうと思ったのだけれど、自分は最近こっちにいることの方が多いし、それに、こっちの方がたくさんの人から愛を注いで貰えるだろう。しかし。迷惑だっただろうか。そんなことが頭をよぎるが、それは無駄な心配だったようだ。
「めっちゃ可愛いやん」
丸くなった目は、直ぐに優しく細められる。この人のこんな表情が僕は好きだ。誤解されがちな彼だけれど、優しさが伝わってくる気がする。そしてその優しさは猫にも伝わったのだろう。彼が伸ばした手は、引っかかれることなく猫に届いた。
「にゃあ」と嬉しそうに猫がなく。
この猫、こんなに人懐っこかっただろうか。僕はなんとなく寂しさを覚えながら、ぼうっとそれを眺めた。
藍翔さんは凄かった。すぐに仲良くなってしまうし猫じゃらしも上手いし、それに。何時どうやって指示を出したのかは知らないけれど数分後には組員の方がエサとミルクを持ってやってきた。拾ってきた本人が何もやらないなんて無責任かもしれないけれど、それ以前に手を出す隙がなかった。それなら、お僕は声をかける。
「僕、少し出かけてきますね」
藍翔さんはお世話で忙しいだろうに、わざわざこっちを向いて「気をつけてね」と言った。けれどやっぱり、すぐに猫に向き直ってしまったのに寂しさを覚えるのは、もしかしたら僕は嫉妬をしているからかもしれない。本当に、バカみたいだ。
外に出た理由は、別に拗ねた訳では無い。猫を拾って果たせなくなってしまった用事を果たすためだ。家へ忘れ物を取りに帰る、というシンプルなものだけれど。というのも、明日は藍翔さんの誕生日なのだ。だから、どうしても今日取りに行かなければならなかった。しかし、それは不思議と面倒くさくなく、寧ろ考えるだけで上機嫌になれる。早く、日付が変わらないかなぁ。
しばらくして、プレゼントをもって藍翔さんの家へ帰る。そして、そのウキウキ気分は地に落ちた。
僕の瞳に映ったのはお世話で疲れてしまったのかすややと寝息を立てる藍翔さんと、その隣で丸くなる見覚えのない白い猫だった。あの猫が寝ている場所は、いつも僕が寝ている場所だ。それが何より悔しかった。しかし、仮にもその相手は動物で。嫉妬なんて惨めな真似は認めたくなくて、僕は気にしない振りをしてソファーへ腰を下ろした。
ポケットへ手が伸びる。いつも持ち歩いているカッターは変わらずそこにあった。これを使ったらまた、藍翔さんが悲しむんだろうなぁ、と思った。
それからどれほど時間が経ったのだろうか。気がついたら僕は眠っていて、そして目の前には毛の塊が動いている。
「うわ!」
と声を上げて飛び起きた。時計の針は0時を大幅に過ぎている。やってしまった。
「藍翔さん!」
慌てて彼を起こそうと声を上げる。猫は嘲るように大きくあくびをした。
「起きたんだ。おはよう」
藍翔さんは、大きな声に驚いてこちらへ目をやりつつも、やっぱり優しげに微笑んだ。僕は驚いた。その手には僕が抱えて眠っていたはずのプレゼントがあったから。
「用意してくれたん?」
僕は小さく頷く。顔が真っ赤になるのがわかった。藍翔さんはそんな僕の顔をみてくすりと笑ったあと、プレゼントを開封する。そして、とても嬉しそうに目を細めた。サプライズは失敗してしまったけれど、こんな顔が見れたので僕は満足だ。
「おめでとう、藍翔さん」
「ありがとう、冬愛」
藍翔さんが優しく抱きしめてくれる。さっきまで猫に嫉妬したいた自分が恥ずかしくなった。ちらりと猫へ目をやる。彼はやっぱり眠たそうにおおきく欠伸をしていた。
「あ、そういえば」と藍翔さんは言う。「猫、洗ったら白くなったよ」
「そうですね。わたあめみたい」と僕は笑う。
「俺は冬愛みたいで可愛いと思ったよ」
彼はなんでもないように言ってのけた。頬が熱を持つ。心臓がうるさくなる。こんなに喜んでいるのがバレたら、何だか恥ずかしいと思った。
「これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろん」
そう答える彼の表情は、どんな紙ペラでの大層な契約よりも信頼出来る気がした。
そっと、頬へキスをする。その肌は、思ったよりも熱を持っていて、ちょっぴり赤らんでいた。
道端の草が揺れる。普段なら素通りしてしまうのだけれど唯一好きだと言える動物の声に惹かれ、足を止めた。
草むらから顔を出したのは真っ黒な猫だった。体は痩せ細っていて毛もお世辞にも綺麗とは言えない。首元には何もついていないけれど、毛についた癖からは少し前まで首輪なるものがついていたと見受けられる。きっと、みすぼらしい首輪だったんだろうと僕は想像力を働かせた。
「僕のところにおいで」
気がつけば僕は、後先考えずその猫を抱き上げていた。猫の爪が腕の皮膚をえぐる。傷がつくことなんて今更どうでもいいけれど、助けてくれる人を傷つけるなんて行為が酷く滑稽に思え、同時に懐かしく思った。
「もう大丈夫だよ」
「ただいま」
「おかえり、冬愛。あれ、なしたんその子」
家に入ると当たり前ながら家主は目を丸めた。最初は自分の家に連れ帰ろうと思ったのだけれど、自分は最近こっちにいることの方が多いし、それに、こっちの方がたくさんの人から愛を注いで貰えるだろう。しかし。迷惑だっただろうか。そんなことが頭をよぎるが、それは無駄な心配だったようだ。
「めっちゃ可愛いやん」
丸くなった目は、直ぐに優しく細められる。この人のこんな表情が僕は好きだ。誤解されがちな彼だけれど、優しさが伝わってくる気がする。そしてその優しさは猫にも伝わったのだろう。彼が伸ばした手は、引っかかれることなく猫に届いた。
「にゃあ」と嬉しそうに猫がなく。
この猫、こんなに人懐っこかっただろうか。僕はなんとなく寂しさを覚えながら、ぼうっとそれを眺めた。
藍翔さんは凄かった。すぐに仲良くなってしまうし猫じゃらしも上手いし、それに。何時どうやって指示を出したのかは知らないけれど数分後には組員の方がエサとミルクを持ってやってきた。拾ってきた本人が何もやらないなんて無責任かもしれないけれど、それ以前に手を出す隙がなかった。それなら、お僕は声をかける。
「僕、少し出かけてきますね」
藍翔さんはお世話で忙しいだろうに、わざわざこっちを向いて「気をつけてね」と言った。けれどやっぱり、すぐに猫に向き直ってしまったのに寂しさを覚えるのは、もしかしたら僕は嫉妬をしているからかもしれない。本当に、バカみたいだ。
外に出た理由は、別に拗ねた訳では無い。猫を拾って果たせなくなってしまった用事を果たすためだ。家へ忘れ物を取りに帰る、というシンプルなものだけれど。というのも、明日は藍翔さんの誕生日なのだ。だから、どうしても今日取りに行かなければならなかった。しかし、それは不思議と面倒くさくなく、寧ろ考えるだけで上機嫌になれる。早く、日付が変わらないかなぁ。
しばらくして、プレゼントをもって藍翔さんの家へ帰る。そして、そのウキウキ気分は地に落ちた。
僕の瞳に映ったのはお世話で疲れてしまったのかすややと寝息を立てる藍翔さんと、その隣で丸くなる見覚えのない白い猫だった。あの猫が寝ている場所は、いつも僕が寝ている場所だ。それが何より悔しかった。しかし、仮にもその相手は動物で。嫉妬なんて惨めな真似は認めたくなくて、僕は気にしない振りをしてソファーへ腰を下ろした。
ポケットへ手が伸びる。いつも持ち歩いているカッターは変わらずそこにあった。これを使ったらまた、藍翔さんが悲しむんだろうなぁ、と思った。
それからどれほど時間が経ったのだろうか。気がついたら僕は眠っていて、そして目の前には毛の塊が動いている。
「うわ!」
と声を上げて飛び起きた。時計の針は0時を大幅に過ぎている。やってしまった。
「藍翔さん!」
慌てて彼を起こそうと声を上げる。猫は嘲るように大きくあくびをした。
「起きたんだ。おはよう」
藍翔さんは、大きな声に驚いてこちらへ目をやりつつも、やっぱり優しげに微笑んだ。僕は驚いた。その手には僕が抱えて眠っていたはずのプレゼントがあったから。
「用意してくれたん?」
僕は小さく頷く。顔が真っ赤になるのがわかった。藍翔さんはそんな僕の顔をみてくすりと笑ったあと、プレゼントを開封する。そして、とても嬉しそうに目を細めた。サプライズは失敗してしまったけれど、こんな顔が見れたので僕は満足だ。
「おめでとう、藍翔さん」
「ありがとう、冬愛」
藍翔さんが優しく抱きしめてくれる。さっきまで猫に嫉妬したいた自分が恥ずかしくなった。ちらりと猫へ目をやる。彼はやっぱり眠たそうにおおきく欠伸をしていた。
「あ、そういえば」と藍翔さんは言う。「猫、洗ったら白くなったよ」
「そうですね。わたあめみたい」と僕は笑う。
「俺は冬愛みたいで可愛いと思ったよ」
彼はなんでもないように言ってのけた。頬が熱を持つ。心臓がうるさくなる。こんなに喜んでいるのがバレたら、何だか恥ずかしいと思った。
「これからも、ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろん」
そう答える彼の表情は、どんな紙ペラでの大層な契約よりも信頼出来る気がした。
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