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1話 転生した

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 もふもふは正義だ。
 誰が何を言おうとこれだけは譲らない。
 ふさふさな毛!ピクピク動く耳!ふぁさふぁさ動く尻尾!
 たまらん!!!!

 と考えながら俺は険しい顔のまま真剣に犬のトリミングをしていた。

 とあるペットサロンのトリマーとして働いている俺は氷室高雅《ヒムロコウガ》23歳独身、トリミング技術大会優勝の実力を持っている。
 なぜトリマーになったかというと、動物の耳や尻尾が好きだからだ。もちろん動物自体も好き。好きなことを仕事にしてお金を稼ぐ、良い人生だ……!
 後は好きな人と結ばれて幸せに暮らせたら……とは思うが俺の性癖が少しばかり特殊なのである。

 それは

 ケモミミと尻尾が好きすぎて普通の人を好きになれないのだ!!
 なんて残念な人なんだ……自分がだけど。

「先ぱーい!こっちのお客さん終わったっすよー、先ぱいの方はどうっすかー??」
「あぁ、こっちももうすぐ終わる!先に片付けを始めててくれー!」
「りょーかいっすー!」

 ~っすと少しチャラい喋り方をする後輩、言葉使いはあれだが仕事は良く出来るやつだ。

 もうすぐ閉店時間、疲れが出てきているがもう少しで終わりだ、頑張ろう。
 疲れてる中こうして頑張れるのはこうして来てくれる動物たちが可愛いからだ、癒しである。
 ちなみに最後のお客さんはご近所さんの梨沙さんであり、彼女の愛犬であるかえでは俺にもよく懐いている、休日に遊んであげたりもしている仲だ。
 仕事柄梨沙さんがこのお店に来るときは大体夜の閉店前になることが多い。

「よし、終わったぞかえでー」
「ワンワン!」

 ピョンピョンと飛び跳ねてながら俺の周りを走り回る。
 可愛いいなぁもう!
 ただ地面に落ちた毛が騒ぐ度に舞い上がる、掃除しなければ……

「ありがとうございましたー!梨沙さんまた来てくださいね」

 梨沙さんはまた来るわと言ってかえでと一緒に歩いて行った。

「さぁ掃除するぞー」
「手伝うっす」

 二人でさっさと掃除していく、今日は店長が出張で不在なので気が楽だ。それでなのか後輩がやたらと絡んでくる。

「先ぱい彼女作らないんすかー?動物好きで顔も良いんすから、女子には困らないと思うんすけど」
「お前も分かってんだろ?俺は獣耳や尻尾のようなもふもふが好きすぎて人を好きになりきれないんだよ」
「そうは言ってもっすよ?ずっとそのままだとまずくないっすか?まだ23だったっすよね、今は良くても30以上になってきたら後悔するっすよ?」
「うーん……まぁそれはそうなんだが……」

 まだ23だからとも思えるが、年を重ねる度に時間経過が早くなるともいうし、いつの間にか30になってしまうかもしれない……

「来週末に俺合コン予定してるんすよ、まだ人数が揃ってないんで先ぱいもどうっすか?動物好きいるかもしれないっすよ!」
「んー……まぁ考えておくよ、今週中に返事する」
「りょーかいっす、返事待ってるっすよー!先ぱい、じゃまた明日っすー!」
「おう、お疲れさん」

 合コンに誘われてしまった、さてどうしようか……人を好きになりきれないのは確かにまずいからなぁ……
 取り合えず帰りながら考えようか。

「さっぶ……」

 今の季節は冬、雪は降ってないが風がかなり冷たい、早く春にならないかなぁ……と思ってしまう。
 もうそろそろ渡る橋に差し掛かる、これを渡り切れば家はすぐそこなんだが……考え事をしていると帰る気になれない。少し橋の上から景色を眺めようか……

 人気のない橋の上、欄干に体を預け考え事しながら川を眺めているとよく知った声が下から聞こえてきた。

「かえでー帰るよー!」
「わぅ……」

 お、梨沙さんとかえでだ、あの後この散歩道を散歩していたのか。
 この散歩道は昼間だと人が多くなるからなぁ……人の少ない今の方がのびのび出来るのかもな、寒いけど。
 かえでが帰るのを渋ってるようだ、かなり遊びたがりだからなぁ……考え事ばかりしてても仕方ないし俺も行って少し遊んでやるか。
 そう思って移動しかけた瞬間、下方から何かが千切れる音が聞こえた。
 音のした方に振り向いてみると何かを追いかけたのだろうか、梨沙さんが持っていたリードが千切れていてかえでがそのまま川に落ちてしまった。

 かえでは確か泳げなかったはずだ……!まずい、あのままでは流されてしまう!

「かえでっ!!誰か!誰か助けて!!!」

 梨沙さんの声が聞こえるのと同時くらいに俺は欄干を乗り越えて、川へ飛び込んだ。

「えっ……こ、高雅くん!?」

 俺は必死になって泳いだ、まだ間に合う!間に合ってくれ!
 かえでとの距離が少しずつ縮まっていき、ようやくかえでに手が届いた、お互い体が冷えてしまっている、全身の感覚もなくなってきた。

「間に合った……後は川から上がるだけ……」

 と思っていた矢先、ふくらはぎが攣ってしまった。

「……っ!?」

 冷えきった脚を急に動かしたからか、まずい、脚に力が入れられない……
 痛みで力が入らない脚に鞭打って必死に泳ぐ、川岸まであと10m程くらいか、もう少しだ。
 痛みと寒さで意識もうろうとする中ギリギリ泳ぎ切った、川の中から梨沙さんにかえでを手渡し、川から上がろうとするも力が入らずに川の流れに飲み込まれてしまう。
 
 もう力が入らない……
 

 意識が……
 

 もうダメだ……



「高雅君!高雅君!!!!!!」

 梨沙さんの声が微かに聞こえた所で、俺は意識を失った。





「……ん、ここは……?」

 真っ白の空間に俺は漂っていた、見渡しても何も見あたらない、自分の体すらも。

「俺は……死んだのか?」

 恐らくそうだろう、体が見えないので魂の状態なのだと把握した所に。

「そうです、あなたは川に流された動物を助けた後に流されて死んでしまったのです」

 声のした方に振り向いてみると、そこにはギリシャ神話の神様が着ているような白い服……なんだっけ、キトン……だったかな、のような服を着ている女性が立っていた。

「そうだったんですね……そうだ、かえでは……かえではどうなりましたか!?まさか死んで……!?」
「お、落ち着いてください!大丈夫です……安心してください、無事に助かってますよ、コウガさんのおかげです」
「そ、そっか……助かったんだな……すみません取り乱してしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ。気持ちはわかりますから」
「ありがとうございます、ところであなたは……?」

 大体予想は付くがこのパターンはきっと転生……そしてこの女性は女神かなにかだろうな。

「あなたの言語では聞き取れない名前ですので、レアと呼んでください、色んな世界の管理をやっている神の一人です」

 予想は当たっていたみたいだ。

「俺はこれからどうなるんでしょうか?」
「その先を貴方に尋ねようと思いここに呼び寄せたのです、動物を愛する者よ、もう一度動物たちに愛される人生を送ってみませんか?私の世界で!」

 ビンゴ、やっぱり異世界転生か……!いつも読んでた小説みたいな流れだな、異世界に行ってまた動物たちと触れ合えるのか……!
 死んではしまったが、先があると思うと安心した。
 前の世界にも未練がないといえば嘘になるが、それよりも動物たちと触れ合えるという期待感の方が勝っている、少しわくわくしてきた。

「どのような世界なんですか?動物に愛されるってことは動物は居るんでしょうが……剣と魔法の世界だったり?」
「そうですね、その通りです。ちなみに、あなたは獣耳や尻尾、もふもふを愛するあまり恋人が出来なかったようですね?安心してください、獣人族が居る世界ですよ!!」
「……ッ」

 いっやっほおおおおおおおおおおおおおおおお!獣耳!尻尾だああああああああああああああああ!もふもふだあああああああああああああああああああああ!
 さっきまで取り乱してたのは何だったのか、表には出さないが心の中で叫んでしまっていた。

「お喜びのようでよかったです」

 魂の状態なのにバレてしまった、なんで分かったのだろう……恐るべし。

「そんなあなたに動物に愛される加護がある称号を贈ります、あと向こうで暮らしていくのに役に立つ魔術も付けておきます」

 ありがとう!あなたが神か!……間違えた本物の神だった……

「色々ありがとうございます、なぜこんなに良くしてくれるんですか?」
「んーまぁ私は動物が好きなので、それにあなたは変態ですが優しい心を持っています、それが決め手ですかね」

 変態とは失礼な!好きな物が獣耳や尻尾、もふもふなだけだ!……だよな?
 しかし、俺と同志とは!気が合いそうだ。

「レア様も動物が好きなんですね、同志が居てうれしいです!いつか語り合いましょう!!」
「……そうですね、もし再会できたならいいですよ、語り合いましょう。さて、そろそろ出発しないと魂の維持が難しくなりそうですので異世界へ落とします、よいセカンドライフを」

 異空間へ落ちていく俺の魂、俺のもふもふ生活が……今始まる。






「また……会いましょうね、コウガさん」
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