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49話 流れ者ミツキ

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 ノイシュ観光に乗り出した俺達4人とシェミィ、そこにサリーナさんも加わり5人+1匹の大世帯で移動する。
 宿から出る時にサリーナさんがこちらに付いてくると言い出したので、カリオンさん夫婦は2人で宿に居るのでサリーナをよろしく頼むと言われている。
 きっと大人の時間だろう、暫くサリーナさんを返す訳にはいかないな、うん。

 ノイシュを観光する男1人と女性4人にストームキャットという組み合わせ、やはり目立つのか凄く見られてるなぁ……それに狼人族だからなのかコソコソ話がチラホラと聞こえてくる、人族より耳が良いのかもしれない。

「おい、ストームキャットがテイムされてるぞ」
「嘘!ストームキャットって確か危険度Bランクよね!?誰がテイムしたんだろう!?」
「あの真ん中にいる男じゃないか?ハーレムとか羨まし過ぎるぞけしからん」
「妬みが漏れ出てんぞお前、てかよく見たら男と1人の女除いて全員奴隷じゃねぇか、あの男が無理矢理くっつかせてるんじゃね?」
「やだー卑猥な事もされてるんじゃない?」
「ハッ!良い身分だよなぁ!」

 言いたい放題されてんなぁ、男2人と女1人の3人PTで男2人が人族、女が鬼のような角がある……恐らく鬼人族?そのような種族があるのか分からないが鬼っぽい。

「ご主人、気にしない方がいいっす。自分達は自分の意思でここに居るっすから」
「そうね、だからコウガ様は堂々としてればいいのよ。それとは別にアイツら叩き潰してやろうかしら……」
「メイラン、我慢我慢っす!」
「フーーー!」
「カエデも我慢、ダメだよ」

 殺意を放つメイランをなだめるソルト、そして毛並みを逆立てて威嚇するカエデをなだめるサリーナさん。
 あの3人組も冒険者みたいだし、もしかしたら武闘会の団体戦に出るかもしれないな。

「気にせず行くぞ、観光なんだから楽しまなきゃな」
「っすね、ほらメイラン行くっすよー」
「カエデも行くよ」
「うにゅ、分かった……」

 カエデは素直に従ったが、メイランは怒りが抑えきれないようで、ソルトが背中を押してアイツらから引き離してくれた。
 実の所、俺も心の内では怒りを覚えている。
 しかし、奴隷というのはそういう扱いにされることも珍しくないので、そう思われても仕方ない部分はある……

「カエデ、メイラン、ありがとうな怒ってくれて」
「だって……ご主人様何も悪くないのに、あんなに言われるなんて許せないもん」
「悪く言う奴は排除よ排除!」
「メイラン我慢っす……ここで問題起こしたら武闘会も出れなくなるかもしれないっすよ」
「ソルトの言う通りだ、言わせておけばいいさ」
「もしアイツら武闘会に出てきたらボコボコにしてやるわ……」

 ボコボコにすると誓った所でようやく怒りを沈めたメイラン、あんなに怒るの初めてかもしれない……

「それよりノイシュを楽しもうか、昼飯もまだだし何か食べよう!サリーナさん、この辺りに美味しい飯食べられる所ある?」
「ん?なら冒険者ギルドの横に酒場とか、武闘会会場近くには食事処がいっぱい並んでるよ!どっちか見に行く?」
「なら食事処にしようか、案内頼めるか?」
「いいよ!こっちね」

 サリーナさんの案内で食事処へ向かう、道中もカエデとソルトとサリーナさんが一緒になってワイワイ話している。
 俺は少し後ろの方でメイランと話しながらその光景をみていた。

「こうして、みんなでワイワイして旅をするのも悪くないわね」
「だな、フードを追い掛ける使命はあるとはいえ、旅を楽しむくらいはしなきゃな」
「そうね、ん?ねぇコウガ様、ソルトの尻尾……」
「ん?ソルトの尻尾?」

 ソルトの尻尾を見ると、カエデと比べて艶がなくなって少しごわっとしている、そして少し汚れてしまっていた。

「ソルトの尻尾の手入れってまだしてやれてないからな……俺が買ってからまだ3日目で、それまでは奴隷商館に居たからな、仕方ないさ」
「今日の寝る前にしてあげたらどうかしら?コウガ様だってしたいでしょう?」
「そうだな、初日でいきなりやる訳にはいかなかったし……昨日も野営でやれる環境じゃなかったからな、今日はたっぷり可愛がってやろうじゃないか……ふははは!」
「コウガ様、急に人が変わるのやめてもらえないかしら……ちょっと引くわよ……」

 前にバレない程度に性癖を解放する俺、それにドン引きするメイラン。
 その気持ち悪さを少し感じたのか、ソルトが身震いする。

「ううっ、寒気がしたっす……嫌な予感が」
「ソルトちゃん大丈夫?」
「大丈夫っす、多分ご主人が何か企んでるっすね」

 ソルトが後ろを振り向きそうになったので、顔を横に向けて口笛をする。

「やっぱりっすね、ご主人の顔が悪巧みの顔っす」
「コウガ様、バレてるわよ」
「何!?何故バレたし!?」
「バレて当たり前よ……コウガ様って、もふもふの事になると急におバカになるのは何なのかしら?」
「バカじゃない!もふもふにご執心なだけだ!」
「行き過ぎておバカになってる事に気付きなさいおバカ」
「なにおう!?」

 俺とメイランが漫才のようなやり取りをしているのを見て、笑い出す前を歩いていた3人。
 こういうほのぼのした日がたまにあっていいよな。

 食事処で、ノイシュ名物の大食いチャレンジとやらをやっていた。
 コッケイ鳥という鶏に近いような鶏肉を揚げた料理、要するに唐揚げ的な物の大食いチャレンジをする事にした。
 チャレンジするのは俺とカエデ、30分以内に4kgある唐揚げを食べ切れたら成功、成功すればタダ!失敗したら4kg分の料金を支払う事になる。
 内容は割愛するが、成功したのはカエデのみだった、俺は3kg食べた地点でギブアップしたが、カエデは残り2分残して完食。
 カエデのお腹が見事に膨れていた、丸々になったカエデも可愛いな……うぷ。
 カエデが大食い成功したので、魔法で写真を取られて店に飾られる事になったのだった。

 思い出が出来た所で、食事処から出て武闘会会場近くにある土産物屋を回ることにした。
 ノイシュは比較的、イベントがある時に周辺から集まる冒険者から利益をあげるような街で、その為の土産物屋が多いのだそう。
 なので土産物屋を作る施設や、冒険者もよく集まるのでそれに従って鍛冶屋が多いのが特徴だ。

「色んな土産物があるな、この彫刻なんか見事なもんだ」

 俺が目を付けたのは、クマが鮭を咥えてる姿を彫った彫刻だ。
 ……てか、こんなクマや鮭なんてこの世界にはないよな?まさか日本人か!?

「お、お客さんお目が高いね!これはとある錬金術師が作った一点物だよ!」

 店主が錬金術師の一点物だと言った、覚えがある……きっとあの人の作品だ。

「もしかして、錬金術師のミツキ・ミコシバじゃないですか?」
「お客さんよく知ってるな!そうさ、これは錬金術師ミツキ氏の作品だ!ミツキ氏はここで活動してる有名な錬金術師なのさ!俺はミツキ氏と契約しててな、こうして作品を代理販売してたりするのさ」

 なんと!俺が1番最初に知った流れ者がここで活動していたとは!是非会ってみたいものだな……

「店主さん、そのミツキ氏に会いたいのですが……難しかったりしますか?」
「聞いてやろうか?」
「良いんですか!?」
「あぁ、お前さん流れ者だな?黒髪に黒い目の人がミツキ氏に会いたいって言うのはほぼ流れ者だ。ミツキ氏は流れ者と交流したいと仰るお方だ、忙しくなければ会ってくれるだろう、少し待っててくれ」

 店主は店の裏手へ、待ってると小さくだが店主の話し声が聞こえる。
 もしかして通話手段があるのか!?羨ましいもんだ……。

「ご主人様、ミツキ氏とは?」
「あぁ、みんなにプレゼントした装備品あるだろ?それを作った腕のいい錬金術師だ。俺と同じ流れ者なんだ」
「そうなんだ!そのミツキ氏がここに?」
「そうらしい、俺ってここに来てからまだ流れ者には会ってないからさ、1回会ってみたくて……もし会えるなら会っていいか?」
「もちろん!みんなも良いよね?」
「えぇ、良いわよ」
「自分も構わないっすよ」
「私もいいよー!お兄さんに任せるよ」
「ありがとうみんな」

 そうして話してる内に店主が帰ってくる、親指をサムズアップした。

「お客さん、許可が出たぞ。今からでも良いらしいが、どうする?」
「なら今から行きます!何処に向かえば?」
「ミツキ氏が直接来るらしいから、ここで待ってな」
「えっ!?わざわざ来てくれるんですか!?」
「あぁ、すぐ来ると思うぞ。ほら来た」

 店主が指さすと、その先には黒髪で作業着的な服装で歩いてくる人が居た、あれがミツキさんか。
 そして両脇には猫耳猫尻尾の黒くて小さな女の子と、狼人族の女の子が一緒に居るのが見える。
 2人とも奴隷だ、でも猫族?の女の子とミツキさんが手を繋いで歩いてきている、俺と似たような奴隷の扱いをしてるみたいだ。

「初めまして、俺は御子柴光希、錬金術師をしています。2人は家族で護衛してくれているクロエとレインです」
「クロエだよ」
「私がレインよ」

 向こう側から挨拶してくれた、よく見てみるとやっぱり日本人な見た目だな。

「初めまして、氷室高雅です。こっちではコウガで通してます。狼人族がカエデ、ドラゴン族がメイラン、砂狼族がソルト、人族のこの子が友達のサリーナさん、そしてカエデがテイムしたストームキャットがシェミィです、わざわざ御足労頂きありがとうございます」
「いえいえ、俺の魔法があればここまですぐですから、気にしないでください」

 初めて会った流れ者ミツキさん、やはり生まれが同じ世界なので、何となく親近感が湧いてくる。

「では俺の家に行きましょうか、少し細路地に入ってもらっていいですか?」
「分かりました」

 細路地に入って人気のない所に来た、これ騙されてたりしない……よな?

「すみません、この魔法はあまり他人には見せたくない物で」
「いえ、大丈夫です。しかし見られたくない魔法って……まさか」
「家に向かうと言って細路地に連れられて魔法を使う、コウガさんにはお察しかもしれませんね。転移魔法です」

 まさかの転移魔法だった!もしかして空間魔法を持ってるのか!?

「もしや……空間魔法ですか?」
「ご存知でしたか、そうですね。空間魔法のレベルが上がると習得します」
「マジですか!俺も空間魔法を持ってまして!」
「おお!仲間ですね!でも転移を詳しくは知らない様子……となれば空間魔法はまだレベルが3以下って事ですね」
「実はまだ1から上がらなくて……」
「なるほど、ならば家に着いてからその辺ゆっくり話しましょうか。皆さん!俺に掴まってください!俺に触れてないと転移出来ないので」

 ミツキさんが掴まってくださいと言うので、全員腕や身体に手をつく。
 シェミィが触れられない様子だった所をミツキさんが手を伸ばした。

「シェミィだったかな、この手に触れて貰えるかい?」
「にゃ」

 シェミィは素直に従ったみたいだ、シェミィは賢いし人の言葉を理解するからな。

「皆さん掴まりましたね?転移します!転移し損ねた人が居たらそのままここで待っててください、数秒で迎えにいきますので!では……転移!」

 視界がグワンと歪んだと思ったら、いつの間にか家の中のリビング的な所に居た。
 これが転移か!俺も早く覚えたいな……
 キョロキョロしていると、ミツキさんの家に住んでいるのであろうエプロン姿の美しい人族が、お茶を持って姿を表した。

「いらっしゃいませ、私はご主人様の家の家事をメインにやっておりますヴィーネです、お見知り置きを」
「ご丁寧にありがとうございます」

 ヴィーネに挨拶と自己紹介を済ませた後にソファーへ案内される。

「では、コウガさんには色々話したい事があるので、ゆっくり話しましょうか」

 俺も同じ流れ者の仲間として色々話したい事がある、これは話が長くなりそうだ。 
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