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94話 それぞれのやりたいこと

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 カエデが手紙を飛ばして10分後、
 メイランがもぞもぞと動き出す。

「ん……」

 ゆっくりと目が開く、目覚めたみたいだ。

「起きたか」
「んっ……私、寝ちゃってたのね……ごめんなさいコウガ様」
「大丈夫だ」

 メイランは身体を起こす、頭が近くに来たので、そっと頭を撫でる。

「コウガ様、私……泣き始めてからあまり記憶がなくて、話はどうなったの……?」
「どの辺まで覚えてる?」
「えっと……操る魔法が完成したやらなんやらくらいまでなら何とか……」
「なるほど、分かった。あの後はな……」

 トレントの話や、操る魔法は完成しているのでは?等、あの時話した内容をゆっくり説明した。

「……」

 メイランは静かに俺の話を聞いてくれているが、その表情はずっと浮かない顔で俯いていた。

「という訳だ、だからメイランはこれからどうするのか、騎士団達に言わなきゃならない」
「……。私は……、お母さんや同胞を助けたい……でも、同じ所で育った私だから分かる……あれだけの数のドラゴンの相手なんて、とてもじゃ……」

 俯きながらそう答えたメイランの手は、布団を強く握り締めていた。

「俺達だけなら確かに難しいかもしれない。でも、俺達には頼りになる仲間がいる、言えば騎士団やミツキ達だって協力してくれるはずだ。騎士団も操られた人を無理やり殺生はしないだろうしな」
「そう……ね」

 コンコン

 ドアのノックが聞こえたので開けるとソルトとセシルとミツキが居た。

「ご主人、看病変わるっすよ。ご飯食べなきゃ倒れるっす」
「あぁ分かった、ただメイランもついさっき起きたから大丈夫だぞ」
「良かったっす……容態は?」
「大丈夫、取り敢えず落ち着いてはいるよ、落ち込んだままだけどな……取り敢えず入って」
「うっす」

 ソルトとセシルを部屋に入れて俺のPTが全員揃う。

「みんな……ごめんなさい、取り乱したりして……」
「大丈夫っす、逆の立場なら自分もそうなってたと思うっすよ」
「うむ、気に病む事はないぞ。母君の事は衝撃ではあったが……」
「そう、ね……私も思わなかった……まさかカエデの村を襲ったのが、私のお母さんだったなんて……」

 残酷な話だ、自分の親が仲間の親を手にかけていただなんて……

「ごめんなさい……カエデ、お母さんの意思ではないとはいえ、貴方の親を……」
「メイランちゃん、めっ!!」
「っ!」

 カエデがメイランの唇に人差し指を当てる。

「メイランちゃん、貴方のお母さんを操ったのは……誰?」

 カエデはメイランの唇から指を離し、喋れるようにする。

「……フードを被った男」
「だよね?だから、私の親を殺したのは、メイランちゃんの親じゃなくてその男、じゃない?」
「そ……それでも、直接手を下したのは……」
「それ以上言うと怒るよメイランちゃん!!」

 カエデはメイランの両肩をがしっと掴む。

「っ!」

 びっくりしてびくっと身体を震わせたメイラン。

「メイランちゃんは悪くない!メイランちゃんのお母さんだって、操られて嫌々ながらやってたかもしれない!!みんな被害者なの!!!」
「……!」

 カエデはメイランを抱き締めた。
 力強く……そして、包み込むように。
 そんなカエデの目から、涙が溢れて頬を伝う。

「だから!私はメイランちゃんと……みんなと一緒に、メイランちゃんの一族を助けたい!!メイランちゃんが私達と笑顔でいる為に!!だってメイランちゃんは……私と一緒に、ご主人様にずっとお仕えするって誓った、家族だもん!!!!」
「……っ!!」

 カエデは、俺達とずっと一緒にいる……要するに家族の為にメイランの一族を助けたいと言った。
 カエデは武闘会の時でも、俺に家族みたいな物だって言っていた……カエデからすれば、もう俺達は家族なんだ。
 世界平和の為に戦うだとか、そんなことを言うのは勇者や英雄……兵士の人達でいい。
 正義で助けるのではなく、家族を助ける……それで良いと思う。
 人を救うのは騎士団とかでいい、俺達は家族であるメイランと、そのメイランの一族を救うんだ。

「カエデ……カエデっ!!」

 メイランはカエデを抱き締め返す、お互いに涙を流しながら……



 それを見ていたソルトとセシルは、2人共内なる想いを胸に、話を聞いていた。

「……ご主人」
「ん……?どうした?ソルト」

 ソルトがこちらに近寄り、手を握ってくる。

「これから、メイランの件で忙しくなって言えなくなりそうっすから……今言っておきたい事があるんす」

 ソルトから握られている手に、少し力が入っているように感じた。

「ご主人に好きって言って、地の果てまでついていくって言ったの……覚えてるっすか?」
「あぁ、覚えてるぞ」
「それを……家族とシャーリィにきちんと伝えて、堂々とご主人にお仕えしたいんす……だから、メイランの件が片付いたら……シャイラまで一緒に来て貰えないっすか?」

 ソルトは手をギュッと握って、真剣な眼差しで俺を見る。

「なるほどな。でも、奴隷と言う立場とシャイラでのソルトの扱いを忘れた訳じゃないよな?」
「もちろんっす、でも……このまま放置する訳にはいかないって、思ったっすから」

 ソルトはカエデとメイランを見た。
 なるほどな……家族や国の事を放っておきたくない、って事か。

「分かった、これが解決したら行こうか」
「ありがとうっすご主人!」

 ソルトがギュッと俺を抱き締めた。
 ふと見ると、セシルもこちらの顔を見ていた……真剣な目だ。

「セシルも、何か言いたい事がありそうだな?」
「うむ、メイランやソルトの話を聞いているとな……私も家族の事を放っておくわけにはいかないな、と思ったんだ」

 セシルは刀に手を触れて、カチャリと音を鳴らした。

「私も、メイランとソルト2人の件が片付いたら……サクラビへ戻り、父と話し合いをしたい。マスター、一緒に来てはもらえないだろうか?」

 メイランとソルトの2人を見て、このままではいけないと思ったのだろう……家族の問題を解決したいんだな。
 その場合、クリスタから受けた冤罪や借金についても解決しないと難しい気がする。

「セシル、サクラビに行くのはいいが……クリスタだったか?から受けた冤罪と借金、呪いの件もどうにかしないといけないぞ、大丈夫か?」
「……確かに、借金は少しずつ返すとしても……冤罪や呪いは今すぐって訳にはいかないだろう。なので、それまでに1度協会にダメ元にでも行ってみたいんだ」
「協会……クリスタ達と繋がりがあるはずだが……いけるか?」
「うむ……何もしない訳にはいかないからな、私は呪いのせいで全力が出せない……でも、みんなの力になりたいんだ、だから頼む!」

 セシルが頭を下げて頼んできた。

「……覚悟は出来たんだな」
「もちろんだ」
「そうか……なら、いいだろう」
「っ!ありがとうマスター!」

 皆がやりたい事を見つけ、こうしたいと言ってくれる。
 俺はなるべく、みんなの願いを叶えてやりたい。
 だから、俺は……この家族やセシルの為に、全力を尽くそうと思う。
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