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第5章
ついに頂上へ
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「スイちゃん!」
セーターと半ズボン、それに花柄のスカート姿の双子が声をかけてきた。
「スピちゃん! それにオポちゃん! どうなったのか、心配していたのよ」
「それは、こっちのセリフさ。なあ?」
「そうよ。心配ご無用」
双子の向こうから、強そうな体操服姿の大きな男の子も話しかけてきた。
「おいおい。僕の心配はしてくれないのかい?」
「キューちゃん! あなたなら大丈夫だと思っていたし……」
「そりゃあ、喜んでいいのかな? まあ、褒められたと思っておくよ」
キュリオは少し不満げな口調で笑いかけてくれた。
スイちゃんはパーシーの背中から飛び降りた。何だか歩きたくなってきたからだ。
「もういいのかい? 頂上まで背負って行くけど?」
「うん、ありがとう。ここからは、自分で歩いて登りたいの」
賑やかな四人に囲まれて、すっかり元気を取り戻したスイちゃんは、ゆっくりと確かな足取りで登り続ける。やっと火星修学旅行らしくなってきたな、と思えた。
もう不安はない。皆がしっかりと背中を押してくれたし、励ましてくれるからだ。
前を歩くオポちゃんが叫んだ。
「ほら、ついに頂上が見えてきたよ!」
隣のスピちゃんが手を引いてくれた。
「もう少しだから、がんばって!」
反対側のキュリオは慌てた。
「こらこら、そんな急に引っ張ったら、転んじゃうだろ!」
後ろを行くパーシーは、「ははは」と楽しそうに笑うのだ。
そしてついにスイちゃんは、オリンポス山の頂上に着いたのだ。山のてっぺんは思ったより平らで、周りには何もなかった。それだけに火星の大地を好きなだけ見渡せる。
「わあ~。ここが、これが頂上なの? 感動したけど、本当に何もないね」
パーシーによると、大きく山頂がへこんでいるのは、カルデラと呼ばれる地形らしい。
キュリオは鞄から赤い火星グミキャンディを取り出して言う。
「さあ、せっかくだし、ここで休憩していこうよ」
スピちゃんとオポちゃんもレジャーシートを広げ、楽しそうに座る準備をしている。
パーシーの隣に座ったら、「目標達成おめでとう」と言われた。ぜんぜん実感が、わかないけど。
火星グミキャンディは、宇宙服を着たまま食べるのは面倒だったが、噛むと不思議な味がした。
「そうだ、この風景を写真に撮りたいのだけど、カメラを持ってくるのを忘れちゃった」
するとキュリオがグミキャンディをモグモグさせながら言った。
「写真になんか撮らなくても、鮮やかな思い出の一ページになるものさ」
「何それ? ちょっとキューちゃん、格好つけすぎじゃない?」
スイちゃんの言葉に、ほっぺたを膨らませたキュリオに代わり、オポちゃんがスベスベした綺麗な赤い石をくれた。
「ここには何もあげる物がないけど、記念に持っていって。これを見てたまに火星のことや、私達のことを思い出してね」
宇宙服のポケットに石をしまうと、スピちゃんは笑顔のような、それでいて寂しそうな表情で続けた。
「僕達四人もスイちゃんと同じように、地球からはるばる火星まで旅して来たんだけど、もうずっとここにいるんだ」
「えっ! そうなの? あなた達、やっぱり地球からここに来たの? でもどうして戻れないのかな?」
火星の四人は顔を見合わせた。その中でも元気なキュリオが言う。
「それは仕方のないことなんだ。だから地球の人が懐かしくなって、君を火星登山に招待したって訳さ」
「そうだったの……。そう言えば、私って修学旅行の最中だったんじゃないの? クラスのみんなは?」
オポちゃんとスピちゃんが順番に答えた。
「一緒にここまで来たじゃない。これがスイちゃんの修学旅行! でもクラスの人達とも会いたいよね」
「それに家族の人達とも……。そろそろ心配をし始めている頃かな?」
忘れていたことを思い出し、スイちゃんは悲しげな表情となった。それを宇宙服のガラスごしでも見逃さなかったパーシーが言う。
「君は充分がんばったよ。そうだね、そろそろ戻る準備でも始めようか」
パーシーが指笛を鳴らすと、どこからともなく黒い鳥が山の頂上に現れたのだ。見上げると暗い空の上で、ゆっくりと円を描いて回るのが見えた。
「インジェニュイティ! スイちゃんを案内してやってくれ」
高らかな鳴き声で答えてくれたような気がした。
「さあ! スイちゃん、あの鳥を今すぐ追いかけるんだ」
「え、えっ? でも~……」
言われた通り鳥を追いかけ始めると、四人から励ましの言葉が届いた。もう誰の声なのか、さっぱり分からない。
「さようなら、スイちゃん。本当に楽しかったよ」
「残念だけど、僕達はもう地球に帰れないんだ」
「気をつけてね。まあ、あなたなら大丈夫だと思うけど」
「火星で再会できるといいね。僕達は信じているから」
山のてっぺんから鳥を追いかけていると、坂を下って行くことになり、だんだん走る速さが増してくる。
「さようなら~! いつかまた、ここまで会いに来てね~!」
「み、みんな~!」
思ったより、かなりスピードが出てきて、あっと言う間に頂上も見えなくなってきた。
それでも鳥はスイちゃんを気にすることもなく、風に乗って飛び続けている。
岩の割れ目から、二匹の赤いカニの化け物が見えた。ハサミをふってバイバイしている。
「わ、わあああ!」
ついに足がもつれて、坂を転がり始めた。
「目が回るよおおお!」
宇宙服を着ていたので、全然痛くはなかったが、しだいに前後左右も分からなくなってきた。
「スピちゃん、オポちゃん、キューちゃん、それにパーシー!」
大きな塊のように坂を転げ落ちていると、いつしかスイちゃんは、また気を失ってしまったのだ。
セーターと半ズボン、それに花柄のスカート姿の双子が声をかけてきた。
「スピちゃん! それにオポちゃん! どうなったのか、心配していたのよ」
「それは、こっちのセリフさ。なあ?」
「そうよ。心配ご無用」
双子の向こうから、強そうな体操服姿の大きな男の子も話しかけてきた。
「おいおい。僕の心配はしてくれないのかい?」
「キューちゃん! あなたなら大丈夫だと思っていたし……」
「そりゃあ、喜んでいいのかな? まあ、褒められたと思っておくよ」
キュリオは少し不満げな口調で笑いかけてくれた。
スイちゃんはパーシーの背中から飛び降りた。何だか歩きたくなってきたからだ。
「もういいのかい? 頂上まで背負って行くけど?」
「うん、ありがとう。ここからは、自分で歩いて登りたいの」
賑やかな四人に囲まれて、すっかり元気を取り戻したスイちゃんは、ゆっくりと確かな足取りで登り続ける。やっと火星修学旅行らしくなってきたな、と思えた。
もう不安はない。皆がしっかりと背中を押してくれたし、励ましてくれるからだ。
前を歩くオポちゃんが叫んだ。
「ほら、ついに頂上が見えてきたよ!」
隣のスピちゃんが手を引いてくれた。
「もう少しだから、がんばって!」
反対側のキュリオは慌てた。
「こらこら、そんな急に引っ張ったら、転んじゃうだろ!」
後ろを行くパーシーは、「ははは」と楽しそうに笑うのだ。
そしてついにスイちゃんは、オリンポス山の頂上に着いたのだ。山のてっぺんは思ったより平らで、周りには何もなかった。それだけに火星の大地を好きなだけ見渡せる。
「わあ~。ここが、これが頂上なの? 感動したけど、本当に何もないね」
パーシーによると、大きく山頂がへこんでいるのは、カルデラと呼ばれる地形らしい。
キュリオは鞄から赤い火星グミキャンディを取り出して言う。
「さあ、せっかくだし、ここで休憩していこうよ」
スピちゃんとオポちゃんもレジャーシートを広げ、楽しそうに座る準備をしている。
パーシーの隣に座ったら、「目標達成おめでとう」と言われた。ぜんぜん実感が、わかないけど。
火星グミキャンディは、宇宙服を着たまま食べるのは面倒だったが、噛むと不思議な味がした。
「そうだ、この風景を写真に撮りたいのだけど、カメラを持ってくるのを忘れちゃった」
するとキュリオがグミキャンディをモグモグさせながら言った。
「写真になんか撮らなくても、鮮やかな思い出の一ページになるものさ」
「何それ? ちょっとキューちゃん、格好つけすぎじゃない?」
スイちゃんの言葉に、ほっぺたを膨らませたキュリオに代わり、オポちゃんがスベスベした綺麗な赤い石をくれた。
「ここには何もあげる物がないけど、記念に持っていって。これを見てたまに火星のことや、私達のことを思い出してね」
宇宙服のポケットに石をしまうと、スピちゃんは笑顔のような、それでいて寂しそうな表情で続けた。
「僕達四人もスイちゃんと同じように、地球からはるばる火星まで旅して来たんだけど、もうずっとここにいるんだ」
「えっ! そうなの? あなた達、やっぱり地球からここに来たの? でもどうして戻れないのかな?」
火星の四人は顔を見合わせた。その中でも元気なキュリオが言う。
「それは仕方のないことなんだ。だから地球の人が懐かしくなって、君を火星登山に招待したって訳さ」
「そうだったの……。そう言えば、私って修学旅行の最中だったんじゃないの? クラスのみんなは?」
オポちゃんとスピちゃんが順番に答えた。
「一緒にここまで来たじゃない。これがスイちゃんの修学旅行! でもクラスの人達とも会いたいよね」
「それに家族の人達とも……。そろそろ心配をし始めている頃かな?」
忘れていたことを思い出し、スイちゃんは悲しげな表情となった。それを宇宙服のガラスごしでも見逃さなかったパーシーが言う。
「君は充分がんばったよ。そうだね、そろそろ戻る準備でも始めようか」
パーシーが指笛を鳴らすと、どこからともなく黒い鳥が山の頂上に現れたのだ。見上げると暗い空の上で、ゆっくりと円を描いて回るのが見えた。
「インジェニュイティ! スイちゃんを案内してやってくれ」
高らかな鳴き声で答えてくれたような気がした。
「さあ! スイちゃん、あの鳥を今すぐ追いかけるんだ」
「え、えっ? でも~……」
言われた通り鳥を追いかけ始めると、四人から励ましの言葉が届いた。もう誰の声なのか、さっぱり分からない。
「さようなら、スイちゃん。本当に楽しかったよ」
「残念だけど、僕達はもう地球に帰れないんだ」
「気をつけてね。まあ、あなたなら大丈夫だと思うけど」
「火星で再会できるといいね。僕達は信じているから」
山のてっぺんから鳥を追いかけていると、坂を下って行くことになり、だんだん走る速さが増してくる。
「さようなら~! いつかまた、ここまで会いに来てね~!」
「み、みんな~!」
思ったより、かなりスピードが出てきて、あっと言う間に頂上も見えなくなってきた。
それでも鳥はスイちゃんを気にすることもなく、風に乗って飛び続けている。
岩の割れ目から、二匹の赤いカニの化け物が見えた。ハサミをふってバイバイしている。
「わ、わあああ!」
ついに足がもつれて、坂を転がり始めた。
「目が回るよおおお!」
宇宙服を着ていたので、全然痛くはなかったが、しだいに前後左右も分からなくなってきた。
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