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そうして一月後には、バジルは真新しく体に合うシャツを身に着けていた。シャツだけではない。瞳に合わせた淡いブルーのスリーピースはオーダーメイドだ。髪も撫でつけ着飾っている。
「服買ってくれるって言ったけど、こういう服とは思わなかった」
冗談めかしてジュースを飲む。細いグラスを扱う所作は少しぎこちない。
嫌がってはいないが。フィルマンの職場の懇親会で、同じように正装したフィルマンにパートナーとして連れられた彼はずっとこんな感じだった。
「似合ってる」
「俺場違いじゃない?」
「ない。平気だ」
何度目かの確認には明確な答えが返る。
ちゃんと自分の隣なのだから何も違っていない。フィルマンは断言する。彼はそれなりに、周囲と話すときなどは離れるが、またさりげなくバジルの腰を抱える位置に戻ってくる。知り合いもいない環境でパーティーに不慣れな人を放っておくわけにはいかなかった。
バジルがかなり年若いのでフィルマンがまだ三十前なことを差し引いてさえもお偉いが連れる愛人のような雰囲気もあったが――フィルマンの気分としては若妻である。同僚たちにもそう紹介して、多少驚かれはしたが受け入れられている。皆、彼が以前より元気になったことを知っていたので、よい人でも出来たのではと噂していたのだ。
自慢もしたし。場に合わせて不慣れに敬語なんか使って慎ましそうにしてるとこがまたそれっぽくてよいので、フィルマンはご機嫌だった。
なんなら、今後はもっとしっかりお嫁さん感を出す為に愛の証の指輪を用意してあるくらいには、最近の彼はちゃんとしていた。家事もイイこともこなしてくれる働き者の指に嵌めるとき、婚姻届けにサインを貰えば完璧である。
「フィフィもちゃんとしてると結構カッコイイから釣り合いとれてるか心配だよー……」
そう呟くくらいにはバジルもフィルマンを意識しているので、完璧である。
フィルマンはワインを傾けた。今日はまだ飲めそうだ。
「服買ってくれるって言ったけど、こういう服とは思わなかった」
冗談めかしてジュースを飲む。細いグラスを扱う所作は少しぎこちない。
嫌がってはいないが。フィルマンの職場の懇親会で、同じように正装したフィルマンにパートナーとして連れられた彼はずっとこんな感じだった。
「似合ってる」
「俺場違いじゃない?」
「ない。平気だ」
何度目かの確認には明確な答えが返る。
ちゃんと自分の隣なのだから何も違っていない。フィルマンは断言する。彼はそれなりに、周囲と話すときなどは離れるが、またさりげなくバジルの腰を抱える位置に戻ってくる。知り合いもいない環境でパーティーに不慣れな人を放っておくわけにはいかなかった。
バジルがかなり年若いのでフィルマンがまだ三十前なことを差し引いてさえもお偉いが連れる愛人のような雰囲気もあったが――フィルマンの気分としては若妻である。同僚たちにもそう紹介して、多少驚かれはしたが受け入れられている。皆、彼が以前より元気になったことを知っていたので、よい人でも出来たのではと噂していたのだ。
自慢もしたし。場に合わせて不慣れに敬語なんか使って慎ましそうにしてるとこがまたそれっぽくてよいので、フィルマンはご機嫌だった。
なんなら、今後はもっとしっかりお嫁さん感を出す為に愛の証の指輪を用意してあるくらいには、最近の彼はちゃんとしていた。家事もイイこともこなしてくれる働き者の指に嵌めるとき、婚姻届けにサインを貰えば完璧である。
「フィフィもちゃんとしてると結構カッコイイから釣り合いとれてるか心配だよー……」
そう呟くくらいにはバジルもフィルマンを意識しているので、完璧である。
フィルマンはワインを傾けた。今日はまだ飲めそうだ。
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