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狭いベッドの上二人*
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きっと気持ちよくなるものではなくて我慢するものなんだろうとセヴランは判断した。女の子たちももしかしたら我慢してんのかな、などとも思ったりもした。
それでも覚悟は決まった。カイが相手ならば酷い目に遭うとは思えないから、ちょっと付き合ってやるんだとやはり年長者の――経験者ぶった姿勢で構えた。怯んでいる部分も結局あったし前回と違わず緊張したが、長い時間共に過ごせる予定への喜びのほうが断然上回った。
抱かれてもよい。いや、抱かれたい。その想いは変わっていなかった。
「はいはーい」
朝ではなく午後三時のノックに返事をする。急いでドアを開けて数日振りに顔を合わせるとふやけるように笑みが出た。
「お待たせ、……これ、適当に食べる物」
「わーい酒もある。俺も用意したけどね。まあ二人なら食えるだろ」
カイも笑った。いつもの重たい鞄とは真逆の雰囲気の手土産のバスケットを掲げるのを引き込んで――それっぽいやりとりを暫し。しかし二人とも間合いを測るように視線を交わし合って、キスをしてしまえばもう、そういう空気になる。
「部屋行こ」
軽食は後回しにまだ明るい部屋に入れば、ベッドのど真ん中に意気込むように置いた例の品が目に入る。セヴランはそこに自身を加えるような気分で、まず羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。何かよい雰囲気を演出したい気もしたが、そこまでの余裕はなく勢いが必要だった。下も、下着ごと雑に脱いで放り出す。そうして相手の目を見て緊張してしまうより先に横たわる。
「今日は、多分できるからさ」
手解きどおり洗って少し解してある。盛った童貞にがっつかれたって平気なように、万端の心持ちだった。今日は以前のように動揺したりしない。むしろ自分から言い出す。
「……抱いてよ、カイ」
一人でやったときのように白い足を抱えて、そこを晒す――差し出す。
セヴランが耳鳴りするほどの緊張を感じている間に、カイはゆらりと引き寄せられた。
細く貧弱な体に覆いかぶさる。何度も仕事の為に見て、その度に邪な思いを振り払っていた。それがこんな風に許されている。秘所を曝しての直球の誘い文句はとんでもない威力があった。
堂々としたようで、距離を縮めればすぐ怯んで縮こまるのがまた可愛らしく思えた。頬にキスして囁いた。
「……優しくするから」
欲の滾った熱っぽい声で、しかし心底、自身にも言い聞かせる。
「窓の外でも見てろって言わないんだね」
「……俺を見ててほしい」
緊張を紛らわすべく精一杯茶化したところで返ってくる声もまた揺らぎなく真剣で、セヴランはときめいた。伏せていた視線を上げると好みの顔が必死な表情をしていて、青い瞳が自分だけを映しているのが分かり熱が上がった。顎にキスを返してゆると腰を撫でる。
カイは鷲掴むチューブを絞り、指に潤滑剤の軟膏を乗せる。よく濡らすべきだと聞いたので――これは二人とも共通の見解としてあった――零れそうなほどたっぷりと。
「っ……」
指を柔い肉の谷間へと滑らせる。ひく、とそこが窄まる。
撫で、塗りこめるように往復するだけでも抱えた膝が緊張する。その様を目に焼きつけるように見つめながらカイは手を動かした。宣言どおり優しくゆっくりと触れたいが、自制が効くかは怪しいところだ。余裕なく、薄い皮膚を撫でまわし濡らして指を沈めた。
セヴランの努力もあってぬるりと滑った先端は簡単に潜り込んだが、すぐ締めつけられる。熱い、体内の温度、柔な肉の抵抗感が触れる。そんなところに指が入っていくのが全部見えた。心臓が煩いほどの興奮をどうにか押さえつけながら、慎重に押し込んだ。
――なんか全然、違わない?
セヴランは息さえ堪えて枕を握った。自分でしたときも半泣きだったが、これはまるで感じが違う。まず恥ずかしくて、死にそうだった。自分でも碌々知らない場所を人に見られて、触れられて、酷く追いつめられている。同時に興奮もしている。カイの指をいつよりはっきりと感じた。自分の指の異物感とはなんだか別物だった。
ぎゅうと締めつけた中により深く沈む。体温で油が溶けていくのは、自分の身を溶かされているようにも思われた。
「っあ……!?」
指先が当たる。さらにはっきり内側から生じる何かに、声が出る。
「待っ……変なとこある、」
「ここ?」
「っん」
「精嚢とか前立腺に触れる、から、気持ちよくなれるらしい」
慌てた訴えにまた確かめるように触れ、どことなく手応えがあるのに頷くカイが何を言っているのか、セヴランにはよく分からない。これが気持ちよいのかも正直分からなかった。それはツェツィちゃんは教えてくれなかった。男だけの性感帯だ。そこを、カイが暴いていく。
「っあぅ、」
腹の側を意識して撫ではじめた指先に身悶えする。膝を擦り合わせて堪える。声が堪えきれない。
カイのほうも初めてで探り探りに触れるので、愛撫はもどかしい。異物感と、変な感じと、物足りない快感めいたものが重なっていく。感じると反射で締めつけて一層に尻に物が入っているのを実感させられる。
セヴランの性器は触れていないのに擡げてきた。そういう行為をしているとはいえ、尻を弄られて勃起している事実があまりに恥ずかしく顔が火照った。体がおかしくなったと思った。
しかし、ちらと見上げるカイの息も荒い。彼のほうは未だ身に着けたままのズボンを突っ張らせているのも見えたから、自分だけじゃない、と思えばどうにか気が保てた。
「っはは、やば、自分でしたときと全然違う……」
けれどもやはり恥ずかしく。誤魔化しに呟く声に、カイの手が止まる。
「自分でしたのか」
問いかけに、セヴランは自分が余計なことを言ったと気づいた。ただでもいっぱいいっぱいなのに、別のところから追い詰められて喉から呻き声が漏れた。
「……――だっ、て……入らなかったら困るだろ……!」
「ん、まあ、困るな。……そうか」
こうなったら滅茶苦茶頑張ったんだぞと主張して褒めてもらいたかったが、羞恥が勝って二の句は継げない。眉を下げて笑ったカイがまた指を動かし始めたのもあり、ぐっと唇を噤んだ。
――今日はできる、ってそういう意味か。
慎重に進めていた指はすっかり根まで浸る。思えば、手にしたチューブの中身は減っていた。その分、今日の為に頑張ってくれたのだと分かってカイはじんと来ていた。怯えて放りだしそうなセヴランの性格を知っているから尚更。
したいのは自分だけじゃなかったとここに来て実感した。嬉しくて堪らなかった。興奮して、それを抑えるのに必死になる。この男を絶対に傷つけたくなかった。
そうして甘く撫でる指がやはり気持ちよすぎるので、本当に昨日までの苦心はなんだったのかとセヴランは思った。カイの為に我慢して終えるつもりでいたのに、今や全然違うものを我慢している。一人で試したときのようにもう止めようとはならない。むしろもっと触ってほしくなっている。――思考が緩むほどにそこも緩んだ。
指が増やされる。咥えた縁が広げられ、丹念に、体の内側を捏ね開いていく。他人の指が体内をとろとろに溶かしていく。そう意識するとまた肌が粟立つような快感があった。
セヴランはひたすら堪えて、もっと別の場所も触ってほしいのも我慢した。キスが欲しい唇を擦って、熱い息を零す。
カイはたっぷり時間をかけた。ぐらぐらと沸く欲を堪えて、きつかったそこが指二本咥えるまで待った。部屋は薄暗くなり、そして少し冷えていた。体が火照っている分ひやりと感じられる。
「いれてみていいか」
熱に浮かされきった声が問うのにセヴランはむず痒くなった。別に訊かなくても流れでよかったのに、訊いて、返事まで我慢している律儀さが本当に好きだった。訊かれてしまったので恥ずかしくとも、うん、とはっきり頷くしかなかった。
散々触れた肉の柔さに欲を滾らせたカイの陰茎は擦らずとも反り返るほどで、そのままのしかかりそうになって慌ててサックを身に着ける。その締まらなさも興奮しきった二人には気にならなかった。潤滑剤を塗りたくって、ようやくカイはセヴランの足を開く。
「……っ」
緩く勃った物をも晒す姿勢がまたさらに恥ずかしかったが、セヴランがそれを感じていられるのも束の間だった。指とは違う熱が据えられ、押し入る。
「っあ」
揺らいだ薄い腹の、その内へと進む。少しは慣れたつもりで意識して受け入れるが広がる圧迫感は質が違った。苦しいその重さが、中を擦って進んでくる。
「ぅあ、あ――は」
押し出されるように声が溢れて、埋められる。二人の身が重なる。
――はいっちゃった、カイの。
その事実だけでちょっと呆けて痺れるように気持ちよかった。見上げた顔も感極まったように見え、セヴランの頬は緩んだ。
「どお、きもちい?」
「あつい、とけそう」
素直な感想にんふと笑いが漏れて、その端が引き攣れて喘ぎになる。
「待っ、動くとやば……っあ――!」
カイの身動きが如実に伝わってくる。少し揺れただけでも堪らないのに、引き抜かれる動きで敏感になった粘膜のすべてが擦られるのには背が撓った。
「待ってってば!」
「無理、悪い、無理」
セヴランは喚いたが、カイは止まらなかった。もう待てるかとむしろごつりと突き上げて、先程まで指で触れていた蕩けた熱に浸る。そこは想像以上に気持ちよくて、身を繋げられたことへの嬉しさと相まって最高だった。動く度にあがる上擦る声、髪を乱し身を捩る姿、揺らぎシーツを掻く足にも、すべてに興奮して止まれない。
「セヴラン、」
「っ、あぁ……あっ! ……っん!」
女みたいな喘ぎ方していると恥じて口元を押さえるのも、突き上げる動きに崩れていく。激しく腰を打ちつけてカイは熱い息を吐いた。
必死になって動いた。優しくしたいとか、上手く、気持ちよくしたいと思っていたものも全部纏めてぶつけた。ただ必死だった。セヴランはそれをどうにか受け止めて喘いだ。逃げられはしなかったともいう。
「っく、ぅ」
呻き、眉を寄せたカイの動きが止まる。ぐっと押しつけられる腰に、セヴランは自分の中で出されていることを悟った。自分が達したわけでもないのにぞくぞくと広がる快感に意識が焼けた。搾り取るように締めつけてしまう。
同時に、ちゃんとできたじゃん、とほっとした。
「っんぁ……!」
息を整える間にずるりと抜け出ていくのにまた声を上げ――これで元に戻ったはずなのに出ていったところが寂しいような感じがするのがおかしくて、口の端が上がる。
そうして、カイがもう一つサックを取り出すのを見た。呆けて見ていた。出来た、済んだのに、何故かまた出てくる物に困惑する余地もなかった。
汚れたものが取り外されて、また硬さを取り戻したものに被せられる。
「あう……っ!」
換えたや否や、カイは再びセヴランに身を寄せた。もう一度突き入れる。最初より楽に、より深く入った。
は、と吐息が落ちる。
ぐっと押し上げて口づけをする。組み伏せた男を恍惚と見下ろし、もう一度。擦り寄るように。
「ごめん、一回じゃ治まらなかった……」
「……しかたないなぁ……っん」
それから詫びる声が本当に心底申し訳なさそうではあって、顔も可愛いかったので。後は自分も別に嫌ではなかったので、セヴランは許した。さっきは体内に触れていた手が柔く項垂れた陰茎を握り揉んでくるので、さらになし崩しだった。
「っは、ぁ、カイ……」
自分の欲を追ってしまった一度目の分、カイは気遣いセヴランの身へと尽くした。悦い場所を訊ねながら動いて、じっくりと責める。セヴランはよく鳴いた。
中を小突かれながら握った手も揺すられる。刺激に尻のほうが締まってさらに感じる。単調に擦られるだけでも、内と外と両方からの快感は初めての身には過ぎたものだった。
「っ、あ、いく、いっちゃう、あ――ッ」
しがみついての訴えに扱く手が早くなる。セヴランが思い浮かべていたとおり少し強いくらいの動きで、亀頭も揉んで促す。体に溜まりきっていた熱が弾けるかの絶頂に締めつけて身震いする中で、カイも二度目を放った。
体拭いて――やっぱり恥ずかしいから自分でする、喉渇いた、お腹も減った、というセヴランの我儘は全て叶えられた。ベッドの上で待つ彼にカイは甲斐甲斐しく尽くした。甘やかすのはよくないと思いながらも今日ばかりは、優しくしたつもりではあるが同時に追い詰め貪った実感もあったので。それになんだかんだ、そうして許してやると嬉しそうで可愛いので、つい。
これまで知っていた事後とは違うくたびれた重い体で寝そべったまま、セヴランは座るカイの腰元に懐いて、勝手に膝枕を試みる。元々会えなかった数日分はべっとり甘えるつもりだったが、完全にそういう気分になっていた。触れていたかった。
「カイはさぁ、なんで童貞だったの?」
「は?」
「どっかでチャンスあっただろ、あとそーゆー店行くとか……捨ててやろうと思わなかったの?」
贔屓目でもなく顔などよく女の一人二人には惚れられていそうで、堅物寄りだが、特段潔癖というわけでもない。話を聞くに学校や軍で男友達とわいわいしていた時期も長い。押したときの反応が奥手だったので童貞だと判断したけれど、外見だけならそうとは思えなかった。
それでなくとも、セヴランとしては格好がつかないのでさっさと捨てるもんじゃないかという気がしていた。
――性欲もめっちゃあったしな……
だから単純に不思議で、事後のピロートークというよりも男同士の雑談のノリで訊いた。今しがた無事自分で捨てさせたという余裕も確かにあったが、気負いのない問いかけだった。
膝に乗った頭を見下ろし眉を寄せていたカイは、悩むほどの時間は作らずにその理由を導いた。彼もまた事を終えて気が緩んでいた。考えたままに答えた。
「別に……そういうことは好きな人とするものだから」
セヴランはあまりに真面目で、幼気でさえある返答にまず驚き照れくさくなって――今まさにその位置にいるのが自分だと数秒後に気づいて一気に、一瞬前どころではない熱に意識が持っていかれた。
こんな真面目な青年の、好きな人は自分なのだ。他の人間とはしなかったのに、自分とはこうなっている。勢いなどではなく自分が選ばれた。ぐっと幸せがせり上がってきた。堪らなかった。
「俺も好き」
それはもう、大変に甘ったるい声が出た。キスがしたいと顔を呼ぶ手に、カイははっとして狼狽える。
「いや違、わないが、今のは」
「じゃあちゃんと言ってよ」
ちょいと頬を擽っての要求に詰まる。一旦、青い目は逸らされた。
抱かれたいな、とセヴランは思った。一回済ませたばかりで動けなくなっているくらいだったが、きゅんとした胸と共にその鈍さのある尻というか腹というか、そのへんが疼いた。
全然、我慢してやるものではなかった。ちゃんと気持ちよい行為だった。元々快感には弱い男であるが、こうして心身愛情で満たされるのは別格の幸福感だった。
少しの攻防の後に小さく返事が聞こえて唇も触れ合ったので、セヴランは大満足だった。――勿論カイも。
横着して寝転がったまま酒を飲もうとするのを窘めて、肴を食べさせてもらいたがるのにはちょっとだけ付き合って、飲み過ぎそうなのはまた窘めて代わりに茶を淹れにいく。まったく手がかかる、と思えど、確かにそれも幸せだった。
それでも覚悟は決まった。カイが相手ならば酷い目に遭うとは思えないから、ちょっと付き合ってやるんだとやはり年長者の――経験者ぶった姿勢で構えた。怯んでいる部分も結局あったし前回と違わず緊張したが、長い時間共に過ごせる予定への喜びのほうが断然上回った。
抱かれてもよい。いや、抱かれたい。その想いは変わっていなかった。
「はいはーい」
朝ではなく午後三時のノックに返事をする。急いでドアを開けて数日振りに顔を合わせるとふやけるように笑みが出た。
「お待たせ、……これ、適当に食べる物」
「わーい酒もある。俺も用意したけどね。まあ二人なら食えるだろ」
カイも笑った。いつもの重たい鞄とは真逆の雰囲気の手土産のバスケットを掲げるのを引き込んで――それっぽいやりとりを暫し。しかし二人とも間合いを測るように視線を交わし合って、キスをしてしまえばもう、そういう空気になる。
「部屋行こ」
軽食は後回しにまだ明るい部屋に入れば、ベッドのど真ん中に意気込むように置いた例の品が目に入る。セヴランはそこに自身を加えるような気分で、まず羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。何かよい雰囲気を演出したい気もしたが、そこまでの余裕はなく勢いが必要だった。下も、下着ごと雑に脱いで放り出す。そうして相手の目を見て緊張してしまうより先に横たわる。
「今日は、多分できるからさ」
手解きどおり洗って少し解してある。盛った童貞にがっつかれたって平気なように、万端の心持ちだった。今日は以前のように動揺したりしない。むしろ自分から言い出す。
「……抱いてよ、カイ」
一人でやったときのように白い足を抱えて、そこを晒す――差し出す。
セヴランが耳鳴りするほどの緊張を感じている間に、カイはゆらりと引き寄せられた。
細く貧弱な体に覆いかぶさる。何度も仕事の為に見て、その度に邪な思いを振り払っていた。それがこんな風に許されている。秘所を曝しての直球の誘い文句はとんでもない威力があった。
堂々としたようで、距離を縮めればすぐ怯んで縮こまるのがまた可愛らしく思えた。頬にキスして囁いた。
「……優しくするから」
欲の滾った熱っぽい声で、しかし心底、自身にも言い聞かせる。
「窓の外でも見てろって言わないんだね」
「……俺を見ててほしい」
緊張を紛らわすべく精一杯茶化したところで返ってくる声もまた揺らぎなく真剣で、セヴランはときめいた。伏せていた視線を上げると好みの顔が必死な表情をしていて、青い瞳が自分だけを映しているのが分かり熱が上がった。顎にキスを返してゆると腰を撫でる。
カイは鷲掴むチューブを絞り、指に潤滑剤の軟膏を乗せる。よく濡らすべきだと聞いたので――これは二人とも共通の見解としてあった――零れそうなほどたっぷりと。
「っ……」
指を柔い肉の谷間へと滑らせる。ひく、とそこが窄まる。
撫で、塗りこめるように往復するだけでも抱えた膝が緊張する。その様を目に焼きつけるように見つめながらカイは手を動かした。宣言どおり優しくゆっくりと触れたいが、自制が効くかは怪しいところだ。余裕なく、薄い皮膚を撫でまわし濡らして指を沈めた。
セヴランの努力もあってぬるりと滑った先端は簡単に潜り込んだが、すぐ締めつけられる。熱い、体内の温度、柔な肉の抵抗感が触れる。そんなところに指が入っていくのが全部見えた。心臓が煩いほどの興奮をどうにか押さえつけながら、慎重に押し込んだ。
――なんか全然、違わない?
セヴランは息さえ堪えて枕を握った。自分でしたときも半泣きだったが、これはまるで感じが違う。まず恥ずかしくて、死にそうだった。自分でも碌々知らない場所を人に見られて、触れられて、酷く追いつめられている。同時に興奮もしている。カイの指をいつよりはっきりと感じた。自分の指の異物感とはなんだか別物だった。
ぎゅうと締めつけた中により深く沈む。体温で油が溶けていくのは、自分の身を溶かされているようにも思われた。
「っあ……!?」
指先が当たる。さらにはっきり内側から生じる何かに、声が出る。
「待っ……変なとこある、」
「ここ?」
「っん」
「精嚢とか前立腺に触れる、から、気持ちよくなれるらしい」
慌てた訴えにまた確かめるように触れ、どことなく手応えがあるのに頷くカイが何を言っているのか、セヴランにはよく分からない。これが気持ちよいのかも正直分からなかった。それはツェツィちゃんは教えてくれなかった。男だけの性感帯だ。そこを、カイが暴いていく。
「っあぅ、」
腹の側を意識して撫ではじめた指先に身悶えする。膝を擦り合わせて堪える。声が堪えきれない。
カイのほうも初めてで探り探りに触れるので、愛撫はもどかしい。異物感と、変な感じと、物足りない快感めいたものが重なっていく。感じると反射で締めつけて一層に尻に物が入っているのを実感させられる。
セヴランの性器は触れていないのに擡げてきた。そういう行為をしているとはいえ、尻を弄られて勃起している事実があまりに恥ずかしく顔が火照った。体がおかしくなったと思った。
しかし、ちらと見上げるカイの息も荒い。彼のほうは未だ身に着けたままのズボンを突っ張らせているのも見えたから、自分だけじゃない、と思えばどうにか気が保てた。
「っはは、やば、自分でしたときと全然違う……」
けれどもやはり恥ずかしく。誤魔化しに呟く声に、カイの手が止まる。
「自分でしたのか」
問いかけに、セヴランは自分が余計なことを言ったと気づいた。ただでもいっぱいいっぱいなのに、別のところから追い詰められて喉から呻き声が漏れた。
「……――だっ、て……入らなかったら困るだろ……!」
「ん、まあ、困るな。……そうか」
こうなったら滅茶苦茶頑張ったんだぞと主張して褒めてもらいたかったが、羞恥が勝って二の句は継げない。眉を下げて笑ったカイがまた指を動かし始めたのもあり、ぐっと唇を噤んだ。
――今日はできる、ってそういう意味か。
慎重に進めていた指はすっかり根まで浸る。思えば、手にしたチューブの中身は減っていた。その分、今日の為に頑張ってくれたのだと分かってカイはじんと来ていた。怯えて放りだしそうなセヴランの性格を知っているから尚更。
したいのは自分だけじゃなかったとここに来て実感した。嬉しくて堪らなかった。興奮して、それを抑えるのに必死になる。この男を絶対に傷つけたくなかった。
そうして甘く撫でる指がやはり気持ちよすぎるので、本当に昨日までの苦心はなんだったのかとセヴランは思った。カイの為に我慢して終えるつもりでいたのに、今や全然違うものを我慢している。一人で試したときのようにもう止めようとはならない。むしろもっと触ってほしくなっている。――思考が緩むほどにそこも緩んだ。
指が増やされる。咥えた縁が広げられ、丹念に、体の内側を捏ね開いていく。他人の指が体内をとろとろに溶かしていく。そう意識するとまた肌が粟立つような快感があった。
セヴランはひたすら堪えて、もっと別の場所も触ってほしいのも我慢した。キスが欲しい唇を擦って、熱い息を零す。
カイはたっぷり時間をかけた。ぐらぐらと沸く欲を堪えて、きつかったそこが指二本咥えるまで待った。部屋は薄暗くなり、そして少し冷えていた。体が火照っている分ひやりと感じられる。
「いれてみていいか」
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「……っ」
緩く勃った物をも晒す姿勢がまたさらに恥ずかしかったが、セヴランがそれを感じていられるのも束の間だった。指とは違う熱が据えられ、押し入る。
「っあ」
揺らいだ薄い腹の、その内へと進む。少しは慣れたつもりで意識して受け入れるが広がる圧迫感は質が違った。苦しいその重さが、中を擦って進んでくる。
「ぅあ、あ――は」
押し出されるように声が溢れて、埋められる。二人の身が重なる。
――はいっちゃった、カイの。
その事実だけでちょっと呆けて痺れるように気持ちよかった。見上げた顔も感極まったように見え、セヴランの頬は緩んだ。
「どお、きもちい?」
「あつい、とけそう」
素直な感想にんふと笑いが漏れて、その端が引き攣れて喘ぎになる。
「待っ、動くとやば……っあ――!」
カイの身動きが如実に伝わってくる。少し揺れただけでも堪らないのに、引き抜かれる動きで敏感になった粘膜のすべてが擦られるのには背が撓った。
「待ってってば!」
「無理、悪い、無理」
セヴランは喚いたが、カイは止まらなかった。もう待てるかとむしろごつりと突き上げて、先程まで指で触れていた蕩けた熱に浸る。そこは想像以上に気持ちよくて、身を繋げられたことへの嬉しさと相まって最高だった。動く度にあがる上擦る声、髪を乱し身を捩る姿、揺らぎシーツを掻く足にも、すべてに興奮して止まれない。
「セヴラン、」
「っ、あぁ……あっ! ……っん!」
女みたいな喘ぎ方していると恥じて口元を押さえるのも、突き上げる動きに崩れていく。激しく腰を打ちつけてカイは熱い息を吐いた。
必死になって動いた。優しくしたいとか、上手く、気持ちよくしたいと思っていたものも全部纏めてぶつけた。ただ必死だった。セヴランはそれをどうにか受け止めて喘いだ。逃げられはしなかったともいう。
「っく、ぅ」
呻き、眉を寄せたカイの動きが止まる。ぐっと押しつけられる腰に、セヴランは自分の中で出されていることを悟った。自分が達したわけでもないのにぞくぞくと広がる快感に意識が焼けた。搾り取るように締めつけてしまう。
同時に、ちゃんとできたじゃん、とほっとした。
「っんぁ……!」
息を整える間にずるりと抜け出ていくのにまた声を上げ――これで元に戻ったはずなのに出ていったところが寂しいような感じがするのがおかしくて、口の端が上がる。
そうして、カイがもう一つサックを取り出すのを見た。呆けて見ていた。出来た、済んだのに、何故かまた出てくる物に困惑する余地もなかった。
汚れたものが取り外されて、また硬さを取り戻したものに被せられる。
「あう……っ!」
換えたや否や、カイは再びセヴランに身を寄せた。もう一度突き入れる。最初より楽に、より深く入った。
は、と吐息が落ちる。
ぐっと押し上げて口づけをする。組み伏せた男を恍惚と見下ろし、もう一度。擦り寄るように。
「ごめん、一回じゃ治まらなかった……」
「……しかたないなぁ……っん」
それから詫びる声が本当に心底申し訳なさそうではあって、顔も可愛いかったので。後は自分も別に嫌ではなかったので、セヴランは許した。さっきは体内に触れていた手が柔く項垂れた陰茎を握り揉んでくるので、さらになし崩しだった。
「っは、ぁ、カイ……」
自分の欲を追ってしまった一度目の分、カイは気遣いセヴランの身へと尽くした。悦い場所を訊ねながら動いて、じっくりと責める。セヴランはよく鳴いた。
中を小突かれながら握った手も揺すられる。刺激に尻のほうが締まってさらに感じる。単調に擦られるだけでも、内と外と両方からの快感は初めての身には過ぎたものだった。
「っ、あ、いく、いっちゃう、あ――ッ」
しがみついての訴えに扱く手が早くなる。セヴランが思い浮かべていたとおり少し強いくらいの動きで、亀頭も揉んで促す。体に溜まりきっていた熱が弾けるかの絶頂に締めつけて身震いする中で、カイも二度目を放った。
体拭いて――やっぱり恥ずかしいから自分でする、喉渇いた、お腹も減った、というセヴランの我儘は全て叶えられた。ベッドの上で待つ彼にカイは甲斐甲斐しく尽くした。甘やかすのはよくないと思いながらも今日ばかりは、優しくしたつもりではあるが同時に追い詰め貪った実感もあったので。それになんだかんだ、そうして許してやると嬉しそうで可愛いので、つい。
これまで知っていた事後とは違うくたびれた重い体で寝そべったまま、セヴランは座るカイの腰元に懐いて、勝手に膝枕を試みる。元々会えなかった数日分はべっとり甘えるつもりだったが、完全にそういう気分になっていた。触れていたかった。
「カイはさぁ、なんで童貞だったの?」
「は?」
「どっかでチャンスあっただろ、あとそーゆー店行くとか……捨ててやろうと思わなかったの?」
贔屓目でもなく顔などよく女の一人二人には惚れられていそうで、堅物寄りだが、特段潔癖というわけでもない。話を聞くに学校や軍で男友達とわいわいしていた時期も長い。押したときの反応が奥手だったので童貞だと判断したけれど、外見だけならそうとは思えなかった。
それでなくとも、セヴランとしては格好がつかないのでさっさと捨てるもんじゃないかという気がしていた。
――性欲もめっちゃあったしな……
だから単純に不思議で、事後のピロートークというよりも男同士の雑談のノリで訊いた。今しがた無事自分で捨てさせたという余裕も確かにあったが、気負いのない問いかけだった。
膝に乗った頭を見下ろし眉を寄せていたカイは、悩むほどの時間は作らずにその理由を導いた。彼もまた事を終えて気が緩んでいた。考えたままに答えた。
「別に……そういうことは好きな人とするものだから」
セヴランはあまりに真面目で、幼気でさえある返答にまず驚き照れくさくなって――今まさにその位置にいるのが自分だと数秒後に気づいて一気に、一瞬前どころではない熱に意識が持っていかれた。
こんな真面目な青年の、好きな人は自分なのだ。他の人間とはしなかったのに、自分とはこうなっている。勢いなどではなく自分が選ばれた。ぐっと幸せがせり上がってきた。堪らなかった。
「俺も好き」
それはもう、大変に甘ったるい声が出た。キスがしたいと顔を呼ぶ手に、カイははっとして狼狽える。
「いや違、わないが、今のは」
「じゃあちゃんと言ってよ」
ちょいと頬を擽っての要求に詰まる。一旦、青い目は逸らされた。
抱かれたいな、とセヴランは思った。一回済ませたばかりで動けなくなっているくらいだったが、きゅんとした胸と共にその鈍さのある尻というか腹というか、そのへんが疼いた。
全然、我慢してやるものではなかった。ちゃんと気持ちよい行為だった。元々快感には弱い男であるが、こうして心身愛情で満たされるのは別格の幸福感だった。
少しの攻防の後に小さく返事が聞こえて唇も触れ合ったので、セヴランは大満足だった。――勿論カイも。
横着して寝転がったまま酒を飲もうとするのを窘めて、肴を食べさせてもらいたがるのにはちょっとだけ付き合って、飲み過ぎそうなのはまた窘めて代わりに茶を淹れにいく。まったく手がかかる、と思えど、確かにそれも幸せだった。
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