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番外 大は兼ねないこともある*
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いつかこういう日が来るとは思っていたのだ。――というと大袈裟だが。まあ、来るだろうと思って、変な覚悟はしていた。
シーツの上に置いたそれを睨んでクノギは溜息を吐く。向かい合っているスイの目は一層気まずく泳いだ。
「もう使った?」
「うん……」
「……よかったか?」
「……うん……」
「やっぱりでかいほうがいい、と」
「いやっ……そうとは言えないというか……!」
どんと鎮座しているのは、男根を模した張り形である。ただでも存在感を放つそれは、大きかった。
太くて、長さもあって、これをぶら下げている男がいれば一目置いてしまうだろうな、と同性目線で思うような逸物だった。もっと具体的な表現をすると、スイの物より比べて大きいクノギの物より、立派だった。
つまりはそういう話である。今日は道具も使って楽しもうかな、というときにこれを見つけて、クノギは一旦欲を横に置いてしまった。
最中に使ってみることがあるくらいクノギはこういった道具に寛大な男だ。張り形に嫉妬もないもんだと思う。
スイが長さのある玩具で腹を埋めるのが好きなのも知っていたし、大体尻を使う者たちというのは段々大きい物に手を出してしまいがちだ。快楽に貪欲な人が、次の段階があれば挑戦してしまうのは想像に易かった。
だからいつかはこんな展開になるとクノギも思っていたのだ。だが案外早かったし、実際目の当たりにすると結構効いた。
多分、有体なかたちをしているのがいけなかった。どうしても自分の持ち物と比べてしまう。
「まあいつかやるとは思ってた。……いや別に責めたいわけじゃねえよ。ちょっとなんていうか、あれなだけで……」
「責めてるじゃないか」
歯切れ悪く額を掻くクノギに、スイは肩を竦めて唇を尖らせた。今日も仲良くそういう流れになったのに待ったをかけられ、新入りの張り形を前に置かれてこれはどうしたと訊かれるのは、責めでなければなんだというのか。
まあ同じ男として、言われてみれば、相手の感覚も分かったので謹んで聞く態度だが。
しかし十日も前にこれを購入したときには、こんな反応は考えもしなかった。行きつけの界隈で商品を吟味したときは、ただ楽しみたいという欲求と――
「……初めは貴方の――に似たやつを探そうと思ってたんだけど」
もごもごと色んな意味で言いづらそうにしながらもスイは告げる。大変恥ずかしい告白だった。そもそもこの状況もかなり恥ずかしいが。
最初に買った小さい張り形もそれはそれでよいところには当たるが大きさがまるで違う。二本目は丈は近いが、近いだけに径が足りないのや形の違いが気になる。一人遊びはやめられそうにないし楽しいが、それらでは物足りずクノギが恋しくなってしまうときもあるのが、スイのここ暫らくの悩みだった。そして。
「でも似てるのだと結局貴方じゃないのが際立って駄目なんじゃないかと考え直して、それで、あえて大きいのにしてみたというか」
――張り形ではクノギに敵うまいから、似せるのではなく別方向にアプローチするのがよいのではなかろうか。例えばこの大きいの。
検討を重ねてのそんな判断は、大真面目にしたものである。
「悪かったよ、貴方が嫌ならもう使わないって。ごめん」
相変わらず突っ走るがそっちの方面には自重ができる男が詫びるのも聞いて、クノギは顎を撫でた。
「うー……んー……」
曖昧な声を出した。彼は寛大な男で――こんなことで心が狭いと思われたくなかった。今の申告は結構愛しかったし、スイの、大物に手を出してしまう好き者なところも受け入れたかった。そうやって改めて考えると、最初ショックは受けたが別に嫌というわけではないと思った。結局張り形は張り形だし、いやらしい恋人が嫌いな男はいない。
でかいのがいいのかよ、と思う気持ちもやっぱりあったが、こんなのを使うのか、と考えると興奮してきた。想像しかけて、そもそも今そういう流れだったと思い出す。スイは目の前にいる。張り形も此処にある。
クノギは張り形をスイの側へと押しやった。膝に当たる。やはりでかい。
「使ってるとこ見せろよ。したら許す」
急な方向転換にはスイも一転、じとりとした視線を返したが。その眼差しにも期待の色が宿ったのは否めない。
「……そういう魂胆か。すけべ」
「そりゃお前だろ、こんなの買って」
否定はまったくできなかった。形だけの反発であり、そんな風に少し強めに言われるのも実は好きだった。もう許す許さないの話ではなく、そういうプレイだ。結局二人していやらしいのだ。
スイはじっと張り形を見下ろし、唾を飲んで服へと手をかけた。
「全部脱げ」
「ん……」
言い、クノギの手は髪を解く。指どおりのよい黒髪を梳きながら肌を晒すのを待った。
すぐ、白い痩身が露わになる。下準備で布の敷かれていた上に寝そべり膝を曲げた。未だ寝台の端へと腰掛けるだけのクノギのほうに尻を晒して、触れ合いながらそうするのとはまた違う、見せることへの羞恥と――興奮に頬が染まる。
僅かな静寂。涼しさに粟立つ肌がより敏感になるのを、スイは感じた。
「ほら」
垂らされた油を慣れた所作で指に絡め、尻の谷間を撫でる。指先は臆さず埋もれた。クノギは瓶を置いた後は手を出さない。視線だけが寄り、行為はあくまで自慰になる。
「……」
いかに慣れた行為で普段から肌を重ねている者が相手であっても、見られるのはまた別で恥ずかしい。早く済ませてしまいたいが、大きい物を挿れるには準備が肝心だ。その間で指がうろつく。状況に興奮して快感を拾うより先に陰茎が勃ちあがる。隠すとむしろ目立ってしまいそうで、意識をしながらも空いた手はいつものように口元に置かれた。
慣れたもので、ペンだこのある指は僅かな時間ですっかり呑み込まれた。広げて、油を含ませて粘膜を潤す。熱い体内は刺激を欲して絡みつく。
まだと宥めて、それでも指を動かし続ける。
「クノギ、油、もっと――」
「ん」
小さく請えば咥えた襞に直接足される。垂れるのも構わず弄って、増すぬめりに増やした指を浸す。
依然外さず注がれる視線から逃れて目を伏せると何処を見ていたらよいのか分からなくなり、スイは瞼を下ろした。
つぷと小さく立つ濡れた音がやけに目立ち、高鳴る胸の音が響く。声を堪えても吐息が十分に艶めかしい。
その息も徐々に大きくなる。耽るのではなくあくまで解す為と思って快感を追うことを避けても、既にどうしようもなく気持ちよい。もどかしさまでよかった。
――もう濡れた。ちょっと早いが、もう挿れてもいい。――挿れたい。
やがて焦れた意識で思い、薄青の目が開けばクノギの視線とばちりとぶつかる。全部見られていたと再認識して体温が上がる。全身に広がる熱が絶頂と錯覚するほどだった。
「……もう挿れるか?」
だがまだ終わりではない。これからだ。クノギが低く擦れた声で訊ねるのに、スイは指を引き抜きながら長く息を吐いた。
差し出される張り形を掴む。立派に凹凸も再現された物の表面を油で濡らして、見せつけるように開いた足の間に持っていく。揺れた自身の陰茎より二回りは大きい。
もう一度、スイはクノギを見上げた。興奮した顔に見下ろされるのにドキドキする。宛がった物の重さと冷たさに身が竦む。怖じたのではなく期待に強張った。
「っは……」
一度は使っていても未だ慣れない太さが、そこを開く。
丸い先端が油の滑りでぬぷりと呑み込まれる。――そのまま押し込まれた。
「ぁ、はい、る……っ」
思わずと声に出してしまってそれにまた昂る。待ち望んだ圧迫感に薄い腹部が揺らぎ、陰茎の先に先走りが滲み出る。
「っ、――ん」
眉は寄ったが苦痛の気配はなかった。太い物を受け入れて襞は広がる。出し入れして馴染ませ奥へと進める動きは手慣れて、得る充足に恍惚の息が抜ける。
見届け、クノギははっと笑った。張り形を咥えこんだ孔から熱を孕んだ顔までじっくりと眼で撫でて、身を乗り出す。
彼にも完全に欲が戻ってきていた。見ているだけでは足らず前を寛げて、半分勃ちあがった物をスイの顔へと近づける。
喘ぐ息を零す唇が先端を食んで含む。回数を重ねて幾らか上達した舌遣いが亀頭を辿る。
「ん……」
尻に咥えこみながら口でもしゃぶる倒錯に、スイはくらくらとした。
ゆると手が動く。張り形を揺すって拡げた孔を擦り、犯す。そうすると口元が疎かになるのを自覚して今度は舌を動かす。するとまた欲しくなって張り形を動かす。繰り返しだ。
「全部入んの?」
降ってくる問いかけに差し込みはより深くなる。奥まったところを突いて漏れる声に喉が震える。
クノギの物は一層に膨らんだ。刺激は緩いが、淫らな姿が堪らなかった。さっき想像したよりずっと鮮明ではしたない。愛おしげにスイの頬を擽って、その自慰の動きに合わせるように緩慢に腰を揺らした。
張り形をぐいぐいと押しつけて、スイはまた呻いた。
「……も、欲しい……」
程無くして音を上げ、口を離して見上げてねだる。
大きすぎる玩具は圧迫感と一種の達成感をくれるが、今日は完全に前座だった。快感に滲む意識がずっと違うものを欲している。太く拡げるよりももっと良いところを突いてほしい。
中に収めた物より間近でそそり立つ物のほうが魅力的で堪らない。これで穿たれる気持ちよさをスイはよく知っている。目の前にあるのにおあずけなんてあんまりだ。
「尻にはもう入ってるだろ」
「これじゃない……」
「イくまでやんなくていいのか?」
「クノギ」
焦らす揶揄に少し苛立って睨む。クノギだって分かっているし、もうそのつもりでいる癖に言わせたいのだ。
「抱いてくれ、早く」
些か乱雑でさえある懇願にクノギの目が細められる。大きいモノより自分のほうが優位に立った満足感で気分がよい。――結局言葉だけでなく、これをやって安心しておきたかったのかもしれない。
ようやく覆いかぶさり、彼はスイの手首を撫でた。まだ勿体つけるように押さえる手を辿り、退け、張り形をゆっくりと抜き取って放り出す。油で光ったそれはやはり視界に主張する大きさだったが、興味はもう呑み込んでいた体のほうにしかなかった。
代わり、喪失にひくつくそこに宛てがうだけでスイは快感の予感に身じろぎした。
張り形ほどではなくとも十分大きい部類の性器が突き上げる。細い腰が跳ねた。
「っんう――っあ」
よく解れた中がきゅうと吸いついてクノギの形になる。間を空けず揺すられ甘い声が上がった。張り形で満たすのとは別物の熱、意図せぬ動きにすぐ翻弄される。
「あ、っあ……!」
「どこ、奥か?」
前立腺を押し上げて、雁首まで引き抜き、打ちつける。反応のよい責め方を心得ているクノギは何処がよいのかと聞きながらも返事は待たない。敏感な粘膜を擦り、一気に貫く。
張り形を掴んでいた手は腰を捉えたクノギの腕を掴んだ。縋って引き寄せ、そうするまでもなく与えられる衝撃に力が籠もる。
「んんっ――あ、……あぅ、あっ――ああっ……!」
スイは呆気なく達した。既に体が昂っていた分大きく押し寄せた射精を伴わない深い快感に裸体を撓らせ顔を覆って、なおも止まらない腰を受け止める。途切れ途切れの声はもう抑えておけず、うねる中への突き入れにまた容易く追いやられた。眼前が白む。
堪能して、クノギも腰を押しつけて精液を注ぎ、息を吐いた。唇を重ねて戯れ、蕩けた顔を見下ろし呟く。
「……でかいので遊ぶのは程々にしとけよ。俺のじゃ満足できなくなるぞ」
「それは嫌だけど」
ぼやけていても忠告への答えはすぐだ。尻の中で柔くなりつつある陰茎を意識して、腹がまだ疼くのを感じながらスイは応じた。
「大きいのにしても比例して気持ちいいとは限らないみたいだし……これは貴方が居ないときだけで十分だよ、多分」
「多分かよ」
「絶対」
自慰をやめる気は微塵も無いが、それはそれ。クノギが居るなら絶対にクノギがよいに決まっている。挿入する物に限った話ではなく、スイはクノギにされるのが好きなのだ。自分だけでは届かない快楽と、何より愛しさが、腹を満たす。
余韻にくんと喉が鳴る。
建前などではなくクノギが一番だ。一人でするときに物足りない問題が解決しなさそうなのは悩ましいが、悪い結論ではない。
「……な、もっかいしたい」
一応照れた素振りを挟みながらもはっきり求め腕を擦る彼に、クノギは笑った。呆れも混ざってはいたがまあ嬉しい。やはりいやらしい恋人は可愛いものだ。
――さすがに持久力は負けるが。全然、やりようはある。
たまには道具を使って場をもたせるのがいいな、と判断しつつも今日はもう譲る気がなく、張り形は横に放置された。なるべく早く二度目を奮起させるべく今度は積極的に触れて、触れさせる。まだ肌寒い空気の中、互いの体温が心地よい。
抱き合うのもキスも一人ではできないことだ。二人ともそれをよく分かっていた。
シーツの上に置いたそれを睨んでクノギは溜息を吐く。向かい合っているスイの目は一層気まずく泳いだ。
「もう使った?」
「うん……」
「……よかったか?」
「……うん……」
「やっぱりでかいほうがいい、と」
「いやっ……そうとは言えないというか……!」
どんと鎮座しているのは、男根を模した張り形である。ただでも存在感を放つそれは、大きかった。
太くて、長さもあって、これをぶら下げている男がいれば一目置いてしまうだろうな、と同性目線で思うような逸物だった。もっと具体的な表現をすると、スイの物より比べて大きいクノギの物より、立派だった。
つまりはそういう話である。今日は道具も使って楽しもうかな、というときにこれを見つけて、クノギは一旦欲を横に置いてしまった。
最中に使ってみることがあるくらいクノギはこういった道具に寛大な男だ。張り形に嫉妬もないもんだと思う。
スイが長さのある玩具で腹を埋めるのが好きなのも知っていたし、大体尻を使う者たちというのは段々大きい物に手を出してしまいがちだ。快楽に貪欲な人が、次の段階があれば挑戦してしまうのは想像に易かった。
だからいつかはこんな展開になるとクノギも思っていたのだ。だが案外早かったし、実際目の当たりにすると結構効いた。
多分、有体なかたちをしているのがいけなかった。どうしても自分の持ち物と比べてしまう。
「まあいつかやるとは思ってた。……いや別に責めたいわけじゃねえよ。ちょっとなんていうか、あれなだけで……」
「責めてるじゃないか」
歯切れ悪く額を掻くクノギに、スイは肩を竦めて唇を尖らせた。今日も仲良くそういう流れになったのに待ったをかけられ、新入りの張り形を前に置かれてこれはどうしたと訊かれるのは、責めでなければなんだというのか。
まあ同じ男として、言われてみれば、相手の感覚も分かったので謹んで聞く態度だが。
しかし十日も前にこれを購入したときには、こんな反応は考えもしなかった。行きつけの界隈で商品を吟味したときは、ただ楽しみたいという欲求と――
「……初めは貴方の――に似たやつを探そうと思ってたんだけど」
もごもごと色んな意味で言いづらそうにしながらもスイは告げる。大変恥ずかしい告白だった。そもそもこの状況もかなり恥ずかしいが。
最初に買った小さい張り形もそれはそれでよいところには当たるが大きさがまるで違う。二本目は丈は近いが、近いだけに径が足りないのや形の違いが気になる。一人遊びはやめられそうにないし楽しいが、それらでは物足りずクノギが恋しくなってしまうときもあるのが、スイのここ暫らくの悩みだった。そして。
「でも似てるのだと結局貴方じゃないのが際立って駄目なんじゃないかと考え直して、それで、あえて大きいのにしてみたというか」
――張り形ではクノギに敵うまいから、似せるのではなく別方向にアプローチするのがよいのではなかろうか。例えばこの大きいの。
検討を重ねてのそんな判断は、大真面目にしたものである。
「悪かったよ、貴方が嫌ならもう使わないって。ごめん」
相変わらず突っ走るがそっちの方面には自重ができる男が詫びるのも聞いて、クノギは顎を撫でた。
「うー……んー……」
曖昧な声を出した。彼は寛大な男で――こんなことで心が狭いと思われたくなかった。今の申告は結構愛しかったし、スイの、大物に手を出してしまう好き者なところも受け入れたかった。そうやって改めて考えると、最初ショックは受けたが別に嫌というわけではないと思った。結局張り形は張り形だし、いやらしい恋人が嫌いな男はいない。
でかいのがいいのかよ、と思う気持ちもやっぱりあったが、こんなのを使うのか、と考えると興奮してきた。想像しかけて、そもそも今そういう流れだったと思い出す。スイは目の前にいる。張り形も此処にある。
クノギは張り形をスイの側へと押しやった。膝に当たる。やはりでかい。
「使ってるとこ見せろよ。したら許す」
急な方向転換にはスイも一転、じとりとした視線を返したが。その眼差しにも期待の色が宿ったのは否めない。
「……そういう魂胆か。すけべ」
「そりゃお前だろ、こんなの買って」
否定はまったくできなかった。形だけの反発であり、そんな風に少し強めに言われるのも実は好きだった。もう許す許さないの話ではなく、そういうプレイだ。結局二人していやらしいのだ。
スイはじっと張り形を見下ろし、唾を飲んで服へと手をかけた。
「全部脱げ」
「ん……」
言い、クノギの手は髪を解く。指どおりのよい黒髪を梳きながら肌を晒すのを待った。
すぐ、白い痩身が露わになる。下準備で布の敷かれていた上に寝そべり膝を曲げた。未だ寝台の端へと腰掛けるだけのクノギのほうに尻を晒して、触れ合いながらそうするのとはまた違う、見せることへの羞恥と――興奮に頬が染まる。
僅かな静寂。涼しさに粟立つ肌がより敏感になるのを、スイは感じた。
「ほら」
垂らされた油を慣れた所作で指に絡め、尻の谷間を撫でる。指先は臆さず埋もれた。クノギは瓶を置いた後は手を出さない。視線だけが寄り、行為はあくまで自慰になる。
「……」
いかに慣れた行為で普段から肌を重ねている者が相手であっても、見られるのはまた別で恥ずかしい。早く済ませてしまいたいが、大きい物を挿れるには準備が肝心だ。その間で指がうろつく。状況に興奮して快感を拾うより先に陰茎が勃ちあがる。隠すとむしろ目立ってしまいそうで、意識をしながらも空いた手はいつものように口元に置かれた。
慣れたもので、ペンだこのある指は僅かな時間ですっかり呑み込まれた。広げて、油を含ませて粘膜を潤す。熱い体内は刺激を欲して絡みつく。
まだと宥めて、それでも指を動かし続ける。
「クノギ、油、もっと――」
「ん」
小さく請えば咥えた襞に直接足される。垂れるのも構わず弄って、増すぬめりに増やした指を浸す。
依然外さず注がれる視線から逃れて目を伏せると何処を見ていたらよいのか分からなくなり、スイは瞼を下ろした。
つぷと小さく立つ濡れた音がやけに目立ち、高鳴る胸の音が響く。声を堪えても吐息が十分に艶めかしい。
その息も徐々に大きくなる。耽るのではなくあくまで解す為と思って快感を追うことを避けても、既にどうしようもなく気持ちよい。もどかしさまでよかった。
――もう濡れた。ちょっと早いが、もう挿れてもいい。――挿れたい。
やがて焦れた意識で思い、薄青の目が開けばクノギの視線とばちりとぶつかる。全部見られていたと再認識して体温が上がる。全身に広がる熱が絶頂と錯覚するほどだった。
「……もう挿れるか?」
だがまだ終わりではない。これからだ。クノギが低く擦れた声で訊ねるのに、スイは指を引き抜きながら長く息を吐いた。
差し出される張り形を掴む。立派に凹凸も再現された物の表面を油で濡らして、見せつけるように開いた足の間に持っていく。揺れた自身の陰茎より二回りは大きい。
もう一度、スイはクノギを見上げた。興奮した顔に見下ろされるのにドキドキする。宛がった物の重さと冷たさに身が竦む。怖じたのではなく期待に強張った。
「っは……」
一度は使っていても未だ慣れない太さが、そこを開く。
丸い先端が油の滑りでぬぷりと呑み込まれる。――そのまま押し込まれた。
「ぁ、はい、る……っ」
思わずと声に出してしまってそれにまた昂る。待ち望んだ圧迫感に薄い腹部が揺らぎ、陰茎の先に先走りが滲み出る。
「っ、――ん」
眉は寄ったが苦痛の気配はなかった。太い物を受け入れて襞は広がる。出し入れして馴染ませ奥へと進める動きは手慣れて、得る充足に恍惚の息が抜ける。
見届け、クノギははっと笑った。張り形を咥えこんだ孔から熱を孕んだ顔までじっくりと眼で撫でて、身を乗り出す。
彼にも完全に欲が戻ってきていた。見ているだけでは足らず前を寛げて、半分勃ちあがった物をスイの顔へと近づける。
喘ぐ息を零す唇が先端を食んで含む。回数を重ねて幾らか上達した舌遣いが亀頭を辿る。
「ん……」
尻に咥えこみながら口でもしゃぶる倒錯に、スイはくらくらとした。
ゆると手が動く。張り形を揺すって拡げた孔を擦り、犯す。そうすると口元が疎かになるのを自覚して今度は舌を動かす。するとまた欲しくなって張り形を動かす。繰り返しだ。
「全部入んの?」
降ってくる問いかけに差し込みはより深くなる。奥まったところを突いて漏れる声に喉が震える。
クノギの物は一層に膨らんだ。刺激は緩いが、淫らな姿が堪らなかった。さっき想像したよりずっと鮮明ではしたない。愛おしげにスイの頬を擽って、その自慰の動きに合わせるように緩慢に腰を揺らした。
張り形をぐいぐいと押しつけて、スイはまた呻いた。
「……も、欲しい……」
程無くして音を上げ、口を離して見上げてねだる。
大きすぎる玩具は圧迫感と一種の達成感をくれるが、今日は完全に前座だった。快感に滲む意識がずっと違うものを欲している。太く拡げるよりももっと良いところを突いてほしい。
中に収めた物より間近でそそり立つ物のほうが魅力的で堪らない。これで穿たれる気持ちよさをスイはよく知っている。目の前にあるのにおあずけなんてあんまりだ。
「尻にはもう入ってるだろ」
「これじゃない……」
「イくまでやんなくていいのか?」
「クノギ」
焦らす揶揄に少し苛立って睨む。クノギだって分かっているし、もうそのつもりでいる癖に言わせたいのだ。
「抱いてくれ、早く」
些か乱雑でさえある懇願にクノギの目が細められる。大きいモノより自分のほうが優位に立った満足感で気分がよい。――結局言葉だけでなく、これをやって安心しておきたかったのかもしれない。
ようやく覆いかぶさり、彼はスイの手首を撫でた。まだ勿体つけるように押さえる手を辿り、退け、張り形をゆっくりと抜き取って放り出す。油で光ったそれはやはり視界に主張する大きさだったが、興味はもう呑み込んでいた体のほうにしかなかった。
代わり、喪失にひくつくそこに宛てがうだけでスイは快感の予感に身じろぎした。
張り形ほどではなくとも十分大きい部類の性器が突き上げる。細い腰が跳ねた。
「っんう――っあ」
よく解れた中がきゅうと吸いついてクノギの形になる。間を空けず揺すられ甘い声が上がった。張り形で満たすのとは別物の熱、意図せぬ動きにすぐ翻弄される。
「あ、っあ……!」
「どこ、奥か?」
前立腺を押し上げて、雁首まで引き抜き、打ちつける。反応のよい責め方を心得ているクノギは何処がよいのかと聞きながらも返事は待たない。敏感な粘膜を擦り、一気に貫く。
張り形を掴んでいた手は腰を捉えたクノギの腕を掴んだ。縋って引き寄せ、そうするまでもなく与えられる衝撃に力が籠もる。
「んんっ――あ、……あぅ、あっ――ああっ……!」
スイは呆気なく達した。既に体が昂っていた分大きく押し寄せた射精を伴わない深い快感に裸体を撓らせ顔を覆って、なおも止まらない腰を受け止める。途切れ途切れの声はもう抑えておけず、うねる中への突き入れにまた容易く追いやられた。眼前が白む。
堪能して、クノギも腰を押しつけて精液を注ぎ、息を吐いた。唇を重ねて戯れ、蕩けた顔を見下ろし呟く。
「……でかいので遊ぶのは程々にしとけよ。俺のじゃ満足できなくなるぞ」
「それは嫌だけど」
ぼやけていても忠告への答えはすぐだ。尻の中で柔くなりつつある陰茎を意識して、腹がまだ疼くのを感じながらスイは応じた。
「大きいのにしても比例して気持ちいいとは限らないみたいだし……これは貴方が居ないときだけで十分だよ、多分」
「多分かよ」
「絶対」
自慰をやめる気は微塵も無いが、それはそれ。クノギが居るなら絶対にクノギがよいに決まっている。挿入する物に限った話ではなく、スイはクノギにされるのが好きなのだ。自分だけでは届かない快楽と、何より愛しさが、腹を満たす。
余韻にくんと喉が鳴る。
建前などではなくクノギが一番だ。一人でするときに物足りない問題が解決しなさそうなのは悩ましいが、悪い結論ではない。
「……な、もっかいしたい」
一応照れた素振りを挟みながらもはっきり求め腕を擦る彼に、クノギは笑った。呆れも混ざってはいたがまあ嬉しい。やはりいやらしい恋人は可愛いものだ。
――さすがに持久力は負けるが。全然、やりようはある。
たまには道具を使って場をもたせるのがいいな、と判断しつつも今日はもう譲る気がなく、張り形は横に放置された。なるべく早く二度目を奮起させるべく今度は積極的に触れて、触れさせる。まだ肌寒い空気の中、互いの体温が心地よい。
抱き合うのもキスも一人ではできないことだ。二人ともそれをよく分かっていた。
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後悔とブチギレしてる話がなきゃ掃除と洗濯できない😭😭』
という自分の愚痴から始まったツイノベもどきを、再構成と校正しました。
「番」とは何かも知らされず、
選択肢すら与えられなかった人間リオと、
大切にしている“つもり”だった竜人のナガレ。
ちゃんとハッピーエンドです。
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