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私は知りたい。
虹山さんのように美人で部活に打ち込んでいる人が、なぜ万引きをしたのか。満ち足りていたら万引きなんてしないのではないか。
「ねえ、私からもセンシティブなことを訊いていい?」
「いいよ」
「どうしてリップを万引きしたの?」
答えるのに少し間があった。
「あたし、先輩にいじめられてるの。囲まれて、万引きしろって命令されたのよ」
「いじめ?」
虹山さんのような人でもいじめられることがあるのか。意外だ。
「面白そうな話だ。なんでいじめられていたか話せ」
スピーカーから男の声が流れた。
癪な話題を提供してしまったと悔やんだが、私も興味があった。虹山さんの人格を知る大きな手かがりになりそうだ。
彼女はため息をついてから話した。
「私をいじめているのはバレーボール部の一部の先輩よ。あたしが1年生なのにレギュラーになったから、妬まれたんだと思う。部活を続けたければ万引きしろって命令されたのよ」
「命令されてやったとしても、万引きは犯罪だ。おまえは拒否するべきだった」
「そんなのできるわけないじゃん。部内で居場所がなくなる。いじめはエスカレートする」
「だとしても万引きは正当化されることはない」
「正当化しようなんて思ってない。悪かったと思ってるわよ。それでも仕方なかったの」
「たかが部活だ。退部すればよかった」
「あたしにはたかがじゃないの!」
「ねえ、万引きした店は中央2丁目のコンビニ?」と私は訊いた。
「そうよ。ラーメン屋の隣にある店」
私と同じ店だ。
犯人が中央2丁目のコンビニの関係者である可能性は限りなく高まった。
しかしさっきから聞いている声は店長と同じではない。どことなく似ているような気はするが、同一人物のものではなさそうだ。
「犯人さん、あなた捕まるわよ。中央2丁目のコンビニで万引きした女子をふたりも誘拐した。警察は捜査してる。あなたは近いうちに逮捕される」
「俺は捕まらない。俺は完全犯罪を実行し、今も実行中だ」
「完全なんてない。この犯罪ではことにそう言える。中央2丁目のコンビニ関係者は絶対に疑われる」
「俺はそこで働いてはいない」
声にわずかな動揺がある。
「働いていなくてもなんらかの関係者なんでしょう? 必ず逮捕される。私たちを今すぐ釈放した方がいいんじゃない? 今なら誘拐犯であっても、殺人犯ではない。私たちのうちのどちらかが死んだら、あなたは殺人犯になる。女子高生誘拐殺人事件の犯人。死刑になるわよ」
「俺は捕まらない」
男は言い張った。動揺は消えている。虚勢なのか自信があるのか判断できなかった。
「たとえ俺がいつか捕まるとしても、おまえたちがふたりとも釈放されることはない」
男は話し続けた。
「俺は覚悟を持って誘拐を実行した。その結果、美人女子高生ふたりが俺の支配下にある。こんなことは人生で2度とないかもしれない。俺はおまえらを存分にいたぶって楽しむ。ひとりは死ね」
「変態!」と虹山さんが叫んだ。
「どうとでも言え。おまえらは俺を楽しませるための道具にすぎない。道具がなんと言おうと、俺は笑うだけだ。おまえらが嫌がれば嫌がるほど、苦しめば苦しむほど俺は楽しい」
「キチガイ……」と私はつぶやいた。母親と同じくらい狂っている。
私はついてない。
ろくでもない両親のもとで生まれ、どうしようもない男に捕まった。
「細川さん、水を飲もう。あいつと話すのはやめよう」
「うん」
私は虹山さんと水を分け合った。ペットボトルの中の水は半分ほどに減った。
喉は渇き、お腹も空いていた。
私は自分の分のゼリー飲料をひと口飲んだ。虹山さんも私と同じようなペースでゼリーを摂取した。
「このゼリー飲料、そこそこ美味しい」と彼女は明るく言った。
私に好運があるとしたら、この部屋に一緒に囚われているのが悪くない人物らしいということだけだ。
私は推理した。
この男のねちっこい性格、店長と似ている。粘っこい説教をした店長と声も似ている。
犯人は店長の血縁者なのではないか。父親とか兄弟とか。
だとしたら、こいつは必ず捕まる。
私たちはできるだけ長くサバイバルすればいい。きっとここから出られる。
「サバイバルのコツのひとつは、希望を失わないことなの」
「そうなの?」
「絶対にそう。希望を失わなければ気力も維持できるし、生きるために努力することができる」
「じゃあ希望を持つことにするわ」
「俺は希望を打ち砕くことにした」と男は言った。
「明日から援助物資のゼリー飲料はひとつ減らして、2個にする」
虹山さんのように美人で部活に打ち込んでいる人が、なぜ万引きをしたのか。満ち足りていたら万引きなんてしないのではないか。
「ねえ、私からもセンシティブなことを訊いていい?」
「いいよ」
「どうしてリップを万引きしたの?」
答えるのに少し間があった。
「あたし、先輩にいじめられてるの。囲まれて、万引きしろって命令されたのよ」
「いじめ?」
虹山さんのような人でもいじめられることがあるのか。意外だ。
「面白そうな話だ。なんでいじめられていたか話せ」
スピーカーから男の声が流れた。
癪な話題を提供してしまったと悔やんだが、私も興味があった。虹山さんの人格を知る大きな手かがりになりそうだ。
彼女はため息をついてから話した。
「私をいじめているのはバレーボール部の一部の先輩よ。あたしが1年生なのにレギュラーになったから、妬まれたんだと思う。部活を続けたければ万引きしろって命令されたのよ」
「命令されてやったとしても、万引きは犯罪だ。おまえは拒否するべきだった」
「そんなのできるわけないじゃん。部内で居場所がなくなる。いじめはエスカレートする」
「だとしても万引きは正当化されることはない」
「正当化しようなんて思ってない。悪かったと思ってるわよ。それでも仕方なかったの」
「たかが部活だ。退部すればよかった」
「あたしにはたかがじゃないの!」
「ねえ、万引きした店は中央2丁目のコンビニ?」と私は訊いた。
「そうよ。ラーメン屋の隣にある店」
私と同じ店だ。
犯人が中央2丁目のコンビニの関係者である可能性は限りなく高まった。
しかしさっきから聞いている声は店長と同じではない。どことなく似ているような気はするが、同一人物のものではなさそうだ。
「犯人さん、あなた捕まるわよ。中央2丁目のコンビニで万引きした女子をふたりも誘拐した。警察は捜査してる。あなたは近いうちに逮捕される」
「俺は捕まらない。俺は完全犯罪を実行し、今も実行中だ」
「完全なんてない。この犯罪ではことにそう言える。中央2丁目のコンビニ関係者は絶対に疑われる」
「俺はそこで働いてはいない」
声にわずかな動揺がある。
「働いていなくてもなんらかの関係者なんでしょう? 必ず逮捕される。私たちを今すぐ釈放した方がいいんじゃない? 今なら誘拐犯であっても、殺人犯ではない。私たちのうちのどちらかが死んだら、あなたは殺人犯になる。女子高生誘拐殺人事件の犯人。死刑になるわよ」
「俺は捕まらない」
男は言い張った。動揺は消えている。虚勢なのか自信があるのか判断できなかった。
「たとえ俺がいつか捕まるとしても、おまえたちがふたりとも釈放されることはない」
男は話し続けた。
「俺は覚悟を持って誘拐を実行した。その結果、美人女子高生ふたりが俺の支配下にある。こんなことは人生で2度とないかもしれない。俺はおまえらを存分にいたぶって楽しむ。ひとりは死ね」
「変態!」と虹山さんが叫んだ。
「どうとでも言え。おまえらは俺を楽しませるための道具にすぎない。道具がなんと言おうと、俺は笑うだけだ。おまえらが嫌がれば嫌がるほど、苦しめば苦しむほど俺は楽しい」
「キチガイ……」と私はつぶやいた。母親と同じくらい狂っている。
私はついてない。
ろくでもない両親のもとで生まれ、どうしようもない男に捕まった。
「細川さん、水を飲もう。あいつと話すのはやめよう」
「うん」
私は虹山さんと水を分け合った。ペットボトルの中の水は半分ほどに減った。
喉は渇き、お腹も空いていた。
私は自分の分のゼリー飲料をひと口飲んだ。虹山さんも私と同じようなペースでゼリーを摂取した。
「このゼリー飲料、そこそこ美味しい」と彼女は明るく言った。
私に好運があるとしたら、この部屋に一緒に囚われているのが悪くない人物らしいということだけだ。
私は推理した。
この男のねちっこい性格、店長と似ている。粘っこい説教をした店長と声も似ている。
犯人は店長の血縁者なのではないか。父親とか兄弟とか。
だとしたら、こいつは必ず捕まる。
私たちはできるだけ長くサバイバルすればいい。きっとここから出られる。
「サバイバルのコツのひとつは、希望を失わないことなの」
「そうなの?」
「絶対にそう。希望を失わなければ気力も維持できるし、生きるために努力することができる」
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