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第1話 全方位殺人事件
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「この中に殺人犯がいる!」と迷探偵は言った。殺人姫は冷や汗をかいた。もし言い当てられたら、ここにいる全員を殺して逃走しようと決めた。
場所は結婚披露宴の会場。レストランウェディングで、今日は貸し切りになっていた。いつまで経っても新郎新婦が入場してこないので、母親が控室にようすを見に行ったら、ふたりが刃物でめった刺しにされて殺されていた。
新郎新婦はふたりとも警察官で、新郎は柔道2段、新婦は剣道3段の腕前だった。その夫婦が惨殺された。もちろんすぐに110番通報され、多くの警察官がやってきた。現場は封鎖された。
招待客の中には新郎新婦と懇意にしていた私立探偵がいた。名探偵との評判があったが、偶然うまく解決できちゃった事件をふたつ持っているだけで、実は迷探偵だった。本人には迷う探偵との自覚はなく、自分はすごい探偵だと勘違いしている。
そして、招待客の中に、殺人姫がいた。新郎新婦の幼馴染で、普通の人間のような外見をしているが、実は人外だった。父は吸血鬼、母は宇宙人の美しい女性。超常の力を持つ殺人マニア。新郎のことを横恋慕していて、他人のものになるぐらいなら、と思い余ってふたりとも超能力で作った透明な刃物で殺したのだった。
「ここは貸し切りのレストラン! 言わば密室と同じ! この中に犯人がいる!」と迷探偵がまた言った。
よく考えたら全然密室ではないのだが、みんなから名探偵と思われているので、誰も突っ込まず、耳を傾けている。
招待客は全部で50人ほど。新郎新婦の親戚、友人、職場の上司や同僚などだ。その他、レストランの従業員がいる。
「しかし、新郎新婦はめった刺しにされていたのに、誰も返り血を浴びている者がいない。犯人は外部の者ではないか?」と新郎の上司の刑事Aが言った。
殺人姫は喜んだ。超能力で殺したから返り血を浴びていないのだが、そんなことは人間にはわからない。ふふふふふ。
「怪しい! 怪しいですよ、A刑事。あなたが犯人ではないのですか?」と迷探偵が言う。
「何を言う! 私が犯人の筈がないだろう? 新郎は優秀な警察官で、私は頼りにしていたんだ!」
「その定型的な反論、ますます怪しいですね。新郎に弱みでも握られていたのではないですか?」
虫眼鏡を持った迷探偵がじりっと刑事Aに歩み寄った。会場の人々全員がそのようすを見守っていた。殺人姫は微笑みながら見ていた。
「Aさんは犯人ではないよ。彼はずっと私と話していた。アリバイがある」と警察署長が言った。
ちっ、と殺人姫は舌打ちした。
「ふたりは共犯ですね? 口裏を合わせているに違いない」と迷探偵が追求した。
あはははは、と殺人姫は内心で大笑いした。こんな面白い見ものはめったにない。いいぞ迷探偵、もっとやれ!
「署長もA刑事も犯人ではありません。ふたりがずっと話していたのを私も見ていました」と彼らと同じテーブルを囲んでいた警察官Bが証言した。
「わかりましたよ! ここにいる警察関係者全員がグルです。犯人は10人! 警察署長、刑事A、警察官B、C、D、E、F、G、H、Iが犯人です!」
「馬鹿を言うな! そんな筈がないだろう? 常識で考えろ!」と警察署長が叫んだ。
「殺人現場で常識が通用するとあなたは言うのですか? これで決まった! この人たちを逮捕してください!」と迷探偵は通報後に結婚披露宴の会場に来た警察官たちに向かって言った。
「いや、証拠もないし、動機もないですよ」と刑事Jが困惑して言った。
「警察官同士がかばい合っている! 由々しき問題だ! Jさん、あなたも共犯ですね!」
「おまえ、馬鹿じゃないのか!」
ついに署長は迷探偵を罵倒した。
「あははははは!」殺人姫は声を出して笑った。面白すぎて、我慢できなかったのだ。
会場にいる全員が殺人姫に注目した。
彼女はやっちまったと思ったが、笑いは止まらなかった。面白すぎる!
「あはははははははは! ひーっ、苦しい! うひひひひ!」
「なぜ笑うのですか?」
迷探偵が怪訝そうに殺人姫に訊いた。
「いや、別に」と殺人姫は答えた。
「おまえが犯人なんだな!」と刑事Aが叫んだ。
「冤罪です。ぷくく」
「あなたが、真犯人なのですか?」
迷探偵の視線が完全に殺人姫に向いた。
殺人姫は透明なナイフを無数に作り出した。それは彼女の周りに浮かび、この場にいる全員の心臓に向けられていた。
全員殺そう、と殺人姫は思っていた。全方位殺人だ!
ああ、面白かったと思いながら、殺人姫は超能力を発揮した。
場所は結婚披露宴の会場。レストランウェディングで、今日は貸し切りになっていた。いつまで経っても新郎新婦が入場してこないので、母親が控室にようすを見に行ったら、ふたりが刃物でめった刺しにされて殺されていた。
新郎新婦はふたりとも警察官で、新郎は柔道2段、新婦は剣道3段の腕前だった。その夫婦が惨殺された。もちろんすぐに110番通報され、多くの警察官がやってきた。現場は封鎖された。
招待客の中には新郎新婦と懇意にしていた私立探偵がいた。名探偵との評判があったが、偶然うまく解決できちゃった事件をふたつ持っているだけで、実は迷探偵だった。本人には迷う探偵との自覚はなく、自分はすごい探偵だと勘違いしている。
そして、招待客の中に、殺人姫がいた。新郎新婦の幼馴染で、普通の人間のような外見をしているが、実は人外だった。父は吸血鬼、母は宇宙人の美しい女性。超常の力を持つ殺人マニア。新郎のことを横恋慕していて、他人のものになるぐらいなら、と思い余ってふたりとも超能力で作った透明な刃物で殺したのだった。
「ここは貸し切りのレストラン! 言わば密室と同じ! この中に犯人がいる!」と迷探偵がまた言った。
よく考えたら全然密室ではないのだが、みんなから名探偵と思われているので、誰も突っ込まず、耳を傾けている。
招待客は全部で50人ほど。新郎新婦の親戚、友人、職場の上司や同僚などだ。その他、レストランの従業員がいる。
「しかし、新郎新婦はめった刺しにされていたのに、誰も返り血を浴びている者がいない。犯人は外部の者ではないか?」と新郎の上司の刑事Aが言った。
殺人姫は喜んだ。超能力で殺したから返り血を浴びていないのだが、そんなことは人間にはわからない。ふふふふふ。
「怪しい! 怪しいですよ、A刑事。あなたが犯人ではないのですか?」と迷探偵が言う。
「何を言う! 私が犯人の筈がないだろう? 新郎は優秀な警察官で、私は頼りにしていたんだ!」
「その定型的な反論、ますます怪しいですね。新郎に弱みでも握られていたのではないですか?」
虫眼鏡を持った迷探偵がじりっと刑事Aに歩み寄った。会場の人々全員がそのようすを見守っていた。殺人姫は微笑みながら見ていた。
「Aさんは犯人ではないよ。彼はずっと私と話していた。アリバイがある」と警察署長が言った。
ちっ、と殺人姫は舌打ちした。
「ふたりは共犯ですね? 口裏を合わせているに違いない」と迷探偵が追求した。
あはははは、と殺人姫は内心で大笑いした。こんな面白い見ものはめったにない。いいぞ迷探偵、もっとやれ!
「署長もA刑事も犯人ではありません。ふたりがずっと話していたのを私も見ていました」と彼らと同じテーブルを囲んでいた警察官Bが証言した。
「わかりましたよ! ここにいる警察関係者全員がグルです。犯人は10人! 警察署長、刑事A、警察官B、C、D、E、F、G、H、Iが犯人です!」
「馬鹿を言うな! そんな筈がないだろう? 常識で考えろ!」と警察署長が叫んだ。
「殺人現場で常識が通用するとあなたは言うのですか? これで決まった! この人たちを逮捕してください!」と迷探偵は通報後に結婚披露宴の会場に来た警察官たちに向かって言った。
「いや、証拠もないし、動機もないですよ」と刑事Jが困惑して言った。
「警察官同士がかばい合っている! 由々しき問題だ! Jさん、あなたも共犯ですね!」
「おまえ、馬鹿じゃないのか!」
ついに署長は迷探偵を罵倒した。
「あははははは!」殺人姫は声を出して笑った。面白すぎて、我慢できなかったのだ。
会場にいる全員が殺人姫に注目した。
彼女はやっちまったと思ったが、笑いは止まらなかった。面白すぎる!
「あはははははははは! ひーっ、苦しい! うひひひひ!」
「なぜ笑うのですか?」
迷探偵が怪訝そうに殺人姫に訊いた。
「いや、別に」と殺人姫は答えた。
「おまえが犯人なんだな!」と刑事Aが叫んだ。
「冤罪です。ぷくく」
「あなたが、真犯人なのですか?」
迷探偵の視線が完全に殺人姫に向いた。
殺人姫は透明なナイフを無数に作り出した。それは彼女の周りに浮かび、この場にいる全員の心臓に向けられていた。
全員殺そう、と殺人姫は思っていた。全方位殺人だ!
ああ、面白かったと思いながら、殺人姫は超能力を発揮した。
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