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第2話 全白衣殺人事件
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迷探偵は目を開き、知らない天井を見た。
消毒液の匂いがする。それだけではなく、血の匂いも濃厚に混ざっていた。
「気がついたようだね」と殺人姫が言った。
「わたしの透明なナイフが肺に刺さったのに、よく生き延びたねえ。まあ、心臓をはずしてしまったから、きみだけ生きているわけなんだけれど」
迷探偵は結婚披露宴会場の惨劇を思い出した。招待客と従業員が全員、胸から鮮血をほとばしらせて倒れた。自分も胸に激痛を感じて気を失ったはずだ。死んだと思ったが、生きているのか。
殺人姫は病室のベッドの隣に椅子を置いて座っていた。若く美しい女性の外見をしているが、人間ではない。吸血鬼と宇宙人のハーフだ。室内には頸動脈が切れた医師と看護師が倒れていた。すでに死亡している。
「ここは総合病院の病室だよ。うふふふふ」
「あなたは大量殺人犯だね。おとなしく自首するんだ……」と迷探偵が言った。しゃべるだけで息苦しい。彼の左肺は大きく傷ついているのだった。
「面白いことを言うね。自首? するわけがない。わたしは殺人姫だよ。これからも人を殺しまくるんだ。それがわたしの唯一の趣味なんだから」
「趣味……だと……?」
「でもきみは殺さない。探偵さん、わたしを追ってみなよ。追われるというのも、面白そうだ」
「ぼくを生かしておいたら、モンタージュ写真をつくるよ。あなたは必ず逮捕される」
「どうかな。わたしは高貴な存在だからねえ。人間に捕まえられるかな?」
「この病院からだって逃げられないよ」
迷探偵は左腕から点滴をされていた。彼は右手でナースコールを押した。
「さあ、これであなたの罪は露見する」
「あはははは。探偵さん、きみのことを迷える探偵さんと呼ぼう。きみはわたしの力を知っているはずだよ。結婚披露宴会場で起きたことを忘れたのかい? あれはわたしがやったんだ。ここへ看護師が入ってきたらどうなるのか、想像もできないのかい? きみは大馬鹿者だ」
「あ……」
女性看護師が病室に入ってきた。その直後、彼女は頭から血を噴き出し、「ぎゃああああ!」と叫びながら倒れた。
「やってしまったねえ。きみの愚かさが、このかわいい看護師さんを早死にさせた」
「何者なんだ、あなたは?」
「殺人姫と呼んでくれたまえ。あ、きは鬼ではなくて、姫だからね。そこんとこ、よろしく」
迷探偵はようやく容易ならざる敵と対面していることを実感した。何か、超常的な力を持っているようだ。まったく動かずに殺人を犯した。超能力者か?
「さて、きみは殺さないが、この総合病院で白衣を着ている者を全員殺すよ」
「なんだと? やめろ! やめてくれ!」
「やめないよ。殺人が趣味だと言っただろう? 医師と看護師が全員死んだ病院で、きみは生き延びられるかな? 今度こそ死んでしまうかな? うふふふふ」
「鬼め!」
「姫だよ、迷える探偵さん」
「殺人姫! あなたは人間じゃない!」
「そのとおり。わたしは下等な人間などではないよ、ふふふ。わたしは全白衣殺人をしてから、家へ帰るとするよ。吸血鬼の父と宇宙人の母が待っている」
殺人姫が立ち上がった。
片肺が破れている迷探偵は起き上がることができなかった。
迷探偵はその後、あちらこちらから上がる断末魔の悲鳴を聞きつづけなければならなかった。
消毒液の匂いがする。それだけではなく、血の匂いも濃厚に混ざっていた。
「気がついたようだね」と殺人姫が言った。
「わたしの透明なナイフが肺に刺さったのに、よく生き延びたねえ。まあ、心臓をはずしてしまったから、きみだけ生きているわけなんだけれど」
迷探偵は結婚披露宴会場の惨劇を思い出した。招待客と従業員が全員、胸から鮮血をほとばしらせて倒れた。自分も胸に激痛を感じて気を失ったはずだ。死んだと思ったが、生きているのか。
殺人姫は病室のベッドの隣に椅子を置いて座っていた。若く美しい女性の外見をしているが、人間ではない。吸血鬼と宇宙人のハーフだ。室内には頸動脈が切れた医師と看護師が倒れていた。すでに死亡している。
「ここは総合病院の病室だよ。うふふふふ」
「あなたは大量殺人犯だね。おとなしく自首するんだ……」と迷探偵が言った。しゃべるだけで息苦しい。彼の左肺は大きく傷ついているのだった。
「面白いことを言うね。自首? するわけがない。わたしは殺人姫だよ。これからも人を殺しまくるんだ。それがわたしの唯一の趣味なんだから」
「趣味……だと……?」
「でもきみは殺さない。探偵さん、わたしを追ってみなよ。追われるというのも、面白そうだ」
「ぼくを生かしておいたら、モンタージュ写真をつくるよ。あなたは必ず逮捕される」
「どうかな。わたしは高貴な存在だからねえ。人間に捕まえられるかな?」
「この病院からだって逃げられないよ」
迷探偵は左腕から点滴をされていた。彼は右手でナースコールを押した。
「さあ、これであなたの罪は露見する」
「あはははは。探偵さん、きみのことを迷える探偵さんと呼ぼう。きみはわたしの力を知っているはずだよ。結婚披露宴会場で起きたことを忘れたのかい? あれはわたしがやったんだ。ここへ看護師が入ってきたらどうなるのか、想像もできないのかい? きみは大馬鹿者だ」
「あ……」
女性看護師が病室に入ってきた。その直後、彼女は頭から血を噴き出し、「ぎゃああああ!」と叫びながら倒れた。
「やってしまったねえ。きみの愚かさが、このかわいい看護師さんを早死にさせた」
「何者なんだ、あなたは?」
「殺人姫と呼んでくれたまえ。あ、きは鬼ではなくて、姫だからね。そこんとこ、よろしく」
迷探偵はようやく容易ならざる敵と対面していることを実感した。何か、超常的な力を持っているようだ。まったく動かずに殺人を犯した。超能力者か?
「さて、きみは殺さないが、この総合病院で白衣を着ている者を全員殺すよ」
「なんだと? やめろ! やめてくれ!」
「やめないよ。殺人が趣味だと言っただろう? 医師と看護師が全員死んだ病院で、きみは生き延びられるかな? 今度こそ死んでしまうかな? うふふふふ」
「鬼め!」
「姫だよ、迷える探偵さん」
「殺人姫! あなたは人間じゃない!」
「そのとおり。わたしは下等な人間などではないよ、ふふふ。わたしは全白衣殺人をしてから、家へ帰るとするよ。吸血鬼の父と宇宙人の母が待っている」
殺人姫が立ち上がった。
片肺が破れている迷探偵は起き上がることができなかった。
迷探偵はその後、あちらこちらから上がる断末魔の悲鳴を聞きつづけなければならなかった。
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