東京都放浪記 ハンガリー→トルコ→ギリシア→イタリア→エジプト

みらいつりびと

文字の大きさ
15 / 29

パムッカレ

しおりを挟む
 ネヴシェヒルから長距離バスに乗り、例のトルコポップスに耐え、デニズリで降車した。
 ミニバスに乗り換え、パムッカレ村に到着したときには、すでに日が暮れていた。
 ネットでパムッカレの宿について調べると、過去に盗難事件や銃撃事件が起きたことがあり、宿泊をおすすめしないという記事を見つけた。
 えーっ、どうしよう?
 迷ったあげく、わたしは隣の温泉街カラハユットまで歩き、ペンションを見つけて泊まった。
 日本の温泉宿みたいな大浴場はないが、バスタブに温泉の湯をためることができた。
 ゆっくりと入浴した。ぬるくて気持ちいい。
 翌日、パムッカレの石灰棚へ向かった。
 がっかりスポットと言われている。期待してはいけない、と自分に言い聞かせる。
 近づくと、白い丘が見えてきた。
 草原に覆われた緑の丘でも、土や岩が剥き出しの茶色の丘でもないホワイトヒル。
 すごく奇妙なところだ。白い丘なんて初めて見る。
 石灰棚の入口で入場チケットを買った。
 中に入り、裸足になる。石灰棚を傷つけないよう、裸足で歩くのがここのルールだ。
 見上げると、白い石棚が段々畑のように上から下まで無数に連なっている。
 これが「綿の宮殿」か。かっこいいじゃないか。
 確かに石棚にお湯はたまっていなくて、観光写真のようなエメラルドグリーンの泉は見られなかったが、石灰棚は充分に見応えがあった。
 いいじゃないか、パムッカレ!
 期待しなければ、がっかりもない。
 なかなかよいところだと思える。
 あたりまえだが、石灰棚は硬い。綿ではない。裸足で歩いて、突起を踏んずけたりすると、少し痛い。
 ゆっくりと歩こう。
「綿の宮殿」と呼ばれるのは、昔からこの地方が綿花の生産地であるかららしい。でも棚の連なりが綿みたいにもこもこしているから、という理由でもいいんじゃないか。そう思って見た方が、この景色に風情を感じられる。
 不思議な光景を眺めながら、丘を登る。
 温泉に含まれる炭酸カルシウムが丘を覆って、純白の棚をつくり出したそうだ。
 パムッカレにはカッパドキアのような広大さはない。ひとつの白い丘の遊歩道を歩いておしまいだ。
 丘を登り切ると、その先にヒエラポリス遺跡がある。
 スニーカーを履いて、そちらも見物した。
 ヒエラポリスはローマ帝国の温泉保養地であったが、1354年の大地震で廃墟となり、再建されなかった。
 元の用途がなんだったかわからない半壊したり、ほぼ全壊したりした建物群が残っていて、儚い美を感じた。
 わたしは人工建築物にはさほど心を動かされないが、廃墟は好きだ。
 人間の営みなど所詮虚しいものだ。人工物はいつか壊れる。
 人工建築物が人に捨てられ、大自然に帰っていく過程にわたしは美を見い出す。
 この感覚を理解してくれる人が多いのか少ないのか、友達がいないわたしにはわからない。
 かなり保存状態のよい古代の劇場が残っていた。
 立派なものだ。観客席はかなり大きくて、千人以上収容できそう。
 舞台にペルガモンの王、アッタロス3世が立っていた。
「女神よ、ローマは強大で、我がペルガモンは弱小です」
 女神って誰よ、と思って左右を見回したが、誰もいない。アッタロス3世はわたしに目を合わせていた。
「力をお与えください。女神よ、道をお示しください」
 この王は「我が王国をローマに委ねる」という遺書を残す。その遺志のとおり、彼の死後ほどなくしてペルガモン王国はローマに併呑され、パムッカレはローマ人の保養地となる。
「戦争はやめよう。長い物には巻かれよう」とわたしは言った。
「女神よ、仰せのとおりにいたします」
 アッタロス3世が煙のように消えた。
 わたしはヒエラポリス遺跡を後にし、カラハユットの宿に帰った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

BODY SWAP

廣瀬純七
大衆娯楽
ある日突然に体が入れ替わった純と拓也の話

処理中です...