曹操桜【曹操孟徳の伝記 彼はなぜ天下を統一できなかったのか】

みらいつりびと

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黄巾の乱

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 三国志の幕開けを告げる黄巾の乱。
 いったいどれほどの大乱だったのか。
 太平道の教祖、張角を指導者とする宗教組織の乱。
 実態は、食えなくなった農民の反乱である。

 後漢末期、中央、地方の政治が大いに乱れていた。
 金で官職を買った役人が多い。
 高い金を出して、地位を手に入れた。
 元を取るために、賄賂を受け取る。民衆に高い税を課して、私腹を肥やす。儲けた金でもっと高い地位を手に入れ、さらなる大金を……。

 農民は収穫の大半を役所に持っていかれ、食い物をつくっているのに、ろくに食うことができない。
 不満を持って、宗教に救いを求める。

 栄養不足で病気になった者も多かった。それを癒やすのも、宗教家である。
 大賢良師と称した張角は、呪術治療を行った。
 病人に向かって言う。
「なんじの罪が、病となって現れておる。懺悔せよ」
「大賢良師様、私は罪を犯してなどおりませぬ」
「隠すと、治らぬぞ」
「今年の種籾がありませんでした。富農から少し盗みました……」
「よく言った。悪いのは世の中である。この符水を飲みなさい」
 張角は九節の杖をふるい、治癒を祈った。不思議と病気が治った。

 張角の弟、張宝と張梁も、宗教的医療行為をした。
 太平道の幹部たちは皆、符水を与えられ、呪術治癒の真似事をした。
 治る病人もあり、治らぬ病人もいた。
 宗教家は言う。 
「治らないのは、信仰心が不足しているからである」
 
 太平道は中国各地で多くの信者を得た。
 張角には、組織を運営する天賦の才があった。
 ゼロから出発して太平道を創始し、一代で巨大宗教組織をつくりあげた。

 張角は、地域別に「方」をつくり、信者をそこに所属させた。方の指導者を大方と呼び、その下に小方を置いた。ひとつの方には、約一万人もの信者がいた。
 184年には、方の数は三十六になっていた。
 信徒約三十六万人。
 官への不満のかたまりのような組織である。

 張角は皇帝になろうとした。
 彼は信者たちに言った。
「漢王朝はすでに腐り切っている。倒さねばならない」
 倒せる、と思っていたであろう。

 彼は自ら天公将軍と称し、張宝には地公将軍、張梁には人公将軍と称させた。
 そしてすべての方を軍事組織に転化した。
 一斉蜂起。
 武装した信徒の頭には、黄色い頭巾を巻かせた。太平道の反乱が、黄巾の乱と呼ばれるゆえんである。
 張角は、漢王朝が滅び、太平道の世が訪れることを願って、詩をつくった。

 蒼天すでに死す
 黄天まさに立つべし
 歳は甲子に在りて
 天下大吉

 信者たちはこの詩を歌い、進軍した。

 太平道軍の武装蜂起は二月。地方の官軍を圧倒する部隊もあった。
 張角の出身は冀州鉅鹿郡。張角軍は中国北部の冀州、幽州で暴れ回った。
 幽州刺史の郭勲と幽州広陽郡太守の劉衛を戦死させた。

 豫州では、波才が太平道軍を率いた。汝南郡太守の趙謙の軍を大破し、敗走させた。 
 波才は貧しい農民であった。張角の治療によって、奇跡的に肺病から救い出された。
「太平道を広めるよお。それがおらの天公将軍様への恩返しだあ」

 荊州においては、張曼成が黄巾軍を指揮し、南陽郡を攻め、太守の褚貢を殺した。
 張曼成は割と豊かな農民だった。野望を持ち、黄巾軍に身を投じた。
「張角様が天下を取る。わしは一州の主になりたい」
 彼は神上使と自称した。

 ここで、ひとつの疑問が生じる。
 太平道軍は強く、官軍は弱かったのか?
 そんなはずはない。
 張角たちは、公然と軍事訓練をすることはできなかった。農民に剣を渡した程度で、けっして強い軍ではなかった。
 官軍は、精鋭とまでは言えないにしろ、農民軍よりは強かった。
 太平道軍の中で、優秀な指揮官に率いられた部隊が奇襲に成功し、郡太守を撃破したのであろう。波才や張曼成は、軍事的才能を持った大方だった。
 太平道の信者は、中国全土にいた。乱が早期に鎮圧された地方もあったであろう。
 黄巾の乱が特に激しく燃え広がったのは、冀州、幽州、青州、豫州、荊州。

 漢王朝側から見ると、太平道軍は黄巾賊である。
 霊帝は三月に逆襲を開始した。
 後漢朝廷は乱れているといえども、なおも力を所持している。
 何進、皇甫嵩、朱儁、盧植らの良将がいて、約三十万人の動かせる部隊があった。

 霊帝は何進を大将軍に任じて、洛陽を守らせた。
 皇甫嵩は左中郎将となり、右中郎将の朱儁とともに豫洲潁川郡へ向かった。
 そこには波才黄巾軍が進出している。

 盧植は北中郎将に任命され、太平道発祥の地、冀州へと軍旅を発した。
 ちなみに盧植は、蜀漢の初代皇帝となった劉備の学問の師で、文武両道に秀でた将軍である。

 荊州へは、褚貢の後任の南陽郡太守に任じられた秦頡が、兵を率いて進発した。

 三国志の主役たちは、この頃まだ微力である。
 曹操は議郎から騎都尉に出世していた。
 騎都尉は、平時なら皇帝の侍従武官である。だが、乱が勃発したため、曹操は豫洲方面軍の一部隊の指揮を任された。
「初陣だ……」
 曹操は乱世が始まったことを、身にしみて感じていた。

 呉の初代皇帝の父も、戦乱に身を投じている。
 孫堅。
 彼は朱儁旗下の将校として出陣する。

 三国志演義の主人公、劉備は、関羽、張飛らとともに義勇軍を結成していた。

 三国志の巨悪として有名な董卓は、このとき司州河東郡太守であり、出番を待っていた。

 張角が起こした反乱は、彼らが歴史の表舞台に登場するきっかけをつくった。
 天才的な宗教家で、皇帝になろうとした張角。
 彼の野望は、巡り巡って、後漢末期の群雄割拠時代とその後の三国時代を招くことになる。 
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