曹操桜【曹操孟徳の伝記 彼はなぜ天下を統一できなかったのか】

みらいつりびと

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袁術公路

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 献帝と董承の曹操暗殺計画は、王子服、呉碩、呉子蘭、种輯らを加えて進行した。計画は劉備が予測したように、まもなく露見した。
 曹操は関係者を処刑した。
 献帝は、関わりのなかったことにされた。曹操の政治的判断である。廃位し、別の皇族を傀儡にしても、利用しようとする者は必ず現れる。それよりも献帝に、おれに反逆する者は容赦しない、と思い知らせる方がよい。
 献帝の目の前で、長い時間をかけて、首謀者の董承を惨殺した。一族は皆殺し。

 その頃、劉備は許都にいない。
 袁術と戦うため、軍旅を催した。仲の国の首都、寿春への途上にある。が、その歩みは遅く、進路はあやしい。
 徐州へ向かっている。

「兄者、なぜ徐州へ」
「兵力が足りないからなあ。徐州で集めようぜ」
「朱霊殿の兵と合わせれば、十分だと思いますが」
「自前の兵が欲しいじゃねえか」

 劉備は関羽にも本音を言わない。
 彼は曹操のもとから逃げ出したかっただけで、袁術と戦争したいとは少しも思っていない。
 馴染みのない揚州九江郡なんていらない。どちらかと言うと、縁のある徐州が欲しい。
 劉備軍はもたもたと徐州に滞在しつづけた。
 別動隊の朱霊軍も、付き合うような形で、下邳に駐屯した。

 仲の皇帝、袁術は弱り切っていた。
 かつて、勢力を広げようとして徐州を攻めたが、劉備軍に侵攻を止められ、うまくいかなかった。
 豫州陳国も攻めたが、そこでは大敗してしまった。
 とどめは飢饉だ。
 袁術は長年贅沢な暮らしをしてきた。民に重税を課している。離散する農民が増え、多くの田畑が放棄され、雑草が生えるだけの荒地と化した。飢饉は、旱魃や蝗害による天災ではなく、失政による人災であった。

 袁術公路は155年生まれ、汝南郡汝陽県出身。
 名門袁氏の代表の座を、従兄の袁紹と争うようにして生きてきた。
 袁紹は北方四州を制し、成功しているが、袁術の人生はいまひとつぱっとしない。

 若い頃は、官僚として順調に出世していた。
 董卓政権時代、荊州に進出し、南陽郡を支配した。そのあたりまではよかった。
 過酷な徴税をし、税で放逸な生活をするようになってから、あまり楽しくなくなった。うまいものを食い、美しい女を抱いているのに、心は苦しい。袁紹に差をつけられているという焦りばかりがつのる。
 民が逃散し、郡の力が弱まっていく。それはわかっているが、贅沢はやめられない。
 残っている民にさらなる重税を課す。領地の疲弊は加速する。悪循環。
 
 戦争に勝てば、略奪により財貨を得ることができる。
 兗州陳留郡を攻撃したが、負けた。
 南陽郡を維持することができなくなり、揚州に転戦した。九江郡で運よく勝利を得ることができて、寿春県を拠点とした。
 そこでも重税を課すことはやめられなかった。
 袁紹に対抗したいという望みは消えていないのだが、奢侈の欲望も止められない。簡単にできるのは、目先の贅沢である。

 孫策から伝国の玉璽を贈られた。
 皇帝の印である。
 それを首飾りにして暮らした。
 おれは皇帝になるべくして生まれたのだ。早く皇帝にならなければ、と思った。
 即位なさいませ、と言う家臣がいた。もっともなことだ。
 反対する家来がいた。「天の声が聴こえないのか!」と怒った。しつこく逆らう者は、首を斬った。
 そして、袁術は仲の皇帝になった。
 帝になったからには、それにふさわしい生活をせねばならぬ。天下一豪華な生活を。

 仲の飢饉は深刻だったが、袁術は甘い蜜を吸い、深酒をし、山海の珍味を食い、女色に耽った。
 栄華なのは宮殿の中だけで、国中に怨嗟の声が満ちていた。
 199年、皇帝は突然重い病に罹り、一斗余りの血を吐いて死んだ。享年四十五。
 仲は一代限りで滅びた。蜂蜜と牛乳を混ぜた飲み物が大好きな皇帝であった。

 劉備は徐州で兵を集めているときに、袁術の死を聞いた。
「ははあ、敵がいなくなったか」
「兄者、これからどうします? 許都に戻りますか」
「うーん、せっかくだから、徴兵をつづけよう」
 なんのために、とは関羽は訊かない。わかり切っている。自立のためだ。

 朱霊は攻撃目標を失って、首都へ帰還した。曹操の臣下として、当然の行動。
 劉備にも帰還命令が出ていたが、無視した。
 手元に三万の兵がいる。
「関羽さん、張飛ちゃん、やるぞ」
 劉備は義兄弟に新たな敵を教えた。
 徐州刺史の車冑を殺し、劉備は再び徐州の主となった。 
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