劉禅が勝つ三国志

みらいつりびと

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第2部最終回 蜀

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 建安十八年冬、劉備玄徳と諸葛亮孔明が、荊州の公安から益州の成都へやってきた。
 私と龐統が出迎えて、成都城内にある益州刺史室へ案内した。

「禅よ、よくやった。漢中郡攻撃、益州成都攻略、ともに見事であった」と父は私を褒めてくれた。
「龐統や魏延など、家臣がよく働いてくれたから、成し遂げることができました」
「あたりまえじゃ。えらいのは家臣だ。わしやおまえは、彼らの働きの上に乗っかっておるにすぎぬ。今後も、それを絶対に忘れるな」
「はい。肝に銘じておきます」
「それでよい」

 父は、私と諸葛亮、龐統を見回しながら言った。
「今後は、荊州と益州を合わせて、蜀と呼ぶことにする。我らの領土は、蜀じゃ」
「蜀……」
 私は胸が熱くなった。
 いまはまだ帝国ではないが、蜀が生まれたのだ。 

「今後もわしは公安を本拠地にするつもりじゃ。荊州が性に合っておる。禅は成都にいて、益州を治めよ」
「はい」
「蜀の主はわしであるが、益州のことは、禅が決めてよい。重大なことのみ、わしに相談せよ。ときどき益州のことを報告しろ」
「承知しました、父上」

「重大なことの最たるものは、曹操との対決です。魏との戦争です」と諸葛亮が言った。
「そうですね。我らの悲願は、漢の帝室の再興。そのためには、曹操を倒さねばなりません。荊州、益州、呉からの魏への同時攻撃。これこそが魏滅の戦略です」と私は言った。
「呉との関係は、どうなっておりますか」と龐統がたずねた。

「呉とは同盟を結んでいます。しかし……」
 諸葛亮は浮かぬ顔だった。
「孫権はひと筋縄ではいかぬ男じゃ。わしと同盟を結びながら、曹操の顔色もうかがっておる。あやつは、天下統一には興味がないのかもしれん。天下三分のまま、呉が繁栄すればそれでよいと考えているのかもしれん」
「魏は強大です。呉も駆り立てて対決しなければ、対等には戦えません。なんとか、呉に北伐をさせられませんか」
「孫権殿は江水北岸の合肥にはこだわりがあり、そこは自分の領土にしたいようです。江水下流域を完全に呉のものとしたいのでしょう。しかし、それ以上の野心は感じられません」
「そこを、なんとか……」
「呂蒙や陸遜などの将軍たちは、北伐積極派です。しかし、張昭や魯粛といった文官たちは、北伐に消極的な穏健派です。孫権は、高い確率で曹操に勝てる見込みがなければ、本格的な北伐には動かないでしょう」
「荊州軍、益州軍、呉軍の三軍が同時に攻撃すれば、勝率は高いです」
「わかっています。これからも、外交努力をつづけます」
 諸葛亮は、羽毛扇を握りしめて言った。

「さて、話を蜀内部のことに戻そう。わしと孔明で、人事案をつくった。禅と龐統にも見てもらおう」
 諸葛亮が、紙を広げた。

 蜀総帥荊州刺史 劉備
 蜀副総帥益州刺史 劉禅
 荊州行政長官 諸葛亮
 益州行政長官 龐統
 荊州軍師 関羽
 益州軍師 魏延
 荊州大将軍 張飛
 益州大将軍 趙雲
 益州大将軍 馬超
 荊州行政官 糜竺、糜芳、孫乾、簡雍、伊籍、劉巴、馬良
 益州行政官 法正、張松、蔣琬、董允、費禕
 荊州将軍 馬謖、劉封、関平、楊儀
 益州将軍 李厳、孟達、王平、馬忠、馬岱

 私はそれをじっと見た。
「張飛殿が荊州大将軍ということは、父上のもとに返すということですか」
「そうだ。当然のことであろう。わしと関羽、張飛はともに戦う」
「わかりました。張飛殿も喜ぶでしょう」
 わたしはかなり残念だった。張飛ともっと一緒にいたかった。だが、仕方がない。劉備、関羽、張飛は義兄弟なのだ。
「趙雲は引きつづき、おまえのもとに残してやる。馬超も得たのだ。戦力としては、十分であろう」
「はい。この人事案に、不服はありません」
「では、この人事を公にするぞ」

「ひとつだけ、たずねたいことがあるのですが」と龐統が言った。
「なんじゃ、言ってみよ」
「諸葛亮殿は、行政長官なのですか。軍師だとばかり思っておりました」
「孔明には、内治に専念してもらう。内治と軍事の両方を担当するのは、無理がある。よって、孔明と龐統は行政長官で、関羽と魏延を軍師とした」
 父はそう答えて、さらに言葉をつづけた。
「行政長官は兵站の責任者でもあるので、軍事と無縁ではない。そして、行政官は郡太守となる場合がある。太守はその郡の防衛をになうから、やはり軍事に関係がある。なお、将軍を郡太守としてもよいこととする」
「はい。納得しました」
「この人事案を関羽に示したら、軍師という仕事に燃えておった。我が義弟は、軍事の天才であると思っておる。戦いに専念させれば、すさまじい力を発揮するであろうよ」
 確かに、と私は思った。
 劉備、関羽、張飛が十万の兵を率いて北伐を敢行すれば、すごいことになりそうだ。

 新たな人事が発表され、新体制が発足した。
 魏滅の戦略が、机上の空論ではなくなりつつある、と私は感じていた。
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