両隣の幼馴染が交代で家に来る

みらいつりびと

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鉢合わせ

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「お邪魔しまーす」
 あかりちゃんは無邪気にそう言って、俺の家に入ってきた。
 彼女は小学生のときみたいに遠慮なくリビングまで歩いていって、くるりと周りを見渡した。
「この家に来るの久しぶりだなー。変わってないね」とにっこり笑いながら言った。
 これはマズい展開じゃないか、と思った。
 このままでは空とあかりちゃんが家の中で鉢合わせしてしまう。
 ふたりは仲があまりよくない。
 気まずい雰囲気になりそうで怖い。

「これからは毎日来て、世話してあげるね」
 可愛らしい童顔と破壊力抜群のスタイルを持つあかりちゃんが、あっけらかんとそんなことを言う。
「毎日?」
 俺はかなり驚いた。
「あかりちゃん、毎日来るつもりなの?」
「うん。おばさんに頼まれたからね」
 彼女はにこにこと笑いつづけていた。

 あかりちゃんが会いに来てくれるのは、正直言って嬉しい。
 校内でトップクラスの綺麗な女の子が訪問してくれて、嬉しくない高校生男子なんていないだろう。
 でも、どうして俺なんかのところに、という疑問で頭の中がいっぱいになった。しかも毎日?

 俺は平凡な男子だ。読書が趣味の地味で目立たない高校生。平穏に学校生活を送ることができればそれでよいと思っている帰宅部の学生。少数の友人とだけ親しくしている。
 あかりちゃんは俺とは真逆で、スクールカーストの頂点にいる女子だ。友だちは美人揃い。男子から告白されること数知れず、というような子だ。ことごとく振っているという噂だけれど。
 空も注目度の高い女生徒だ。彼女はあまりつるまないタイプで、友だちは少ないようだが、抜群の美貌を持ち、成績は常に10位以内の優等生で、誰もが一目置いている。

 俺はその他大勢のひとり。
 空とあかりちゃんは、いるだけで男子の視線を集める存在で、高校のヒエラルキーの頂点にいる。
 それなのにいま、あかりちゃんはうちのリビングで嬉しそうに笑っていて、空は俺のために買い物に行っている。
 なんなんだ、この状況は?

「なにから世話をしようかなー。ふゆっちの部屋の掃除をしてあげようか?」
 あかりちゃんが高く澄んだ声で楽しげに言う。
 俺はヤバい、と思った。

 俺の部屋には女の子には見せられないものがある。
 エロ本だ。
 俺はまだ16歳だが、18禁の本を持っている。
 10冊くらい押し入れに隠してある。

 ターミナル駅前の繁華街の片隅に、エロ本多めの本屋さんがある。
 初めてその書店に入ったとき、ほの暗い店内にいかがわしい本がいっぱいあるのに気づいて、息を飲んだ。
 いけないとわかっていても、本棚を物色せずにはいられなかった。
 可愛い女の子たちの裸の写真集を思いきってレジに出したら、断られることなく買えた。

 俺はたまに立ち寄るようになって、その後も何冊か成人向けの本を買った。
 表紙に目を奪われ、絶対に手に入れたいと思って購入した2冊の本がある。
 それだけはなにがあっても絶対に、ふたりの幼馴染に見られてはならない。
 空とあかりちゃんにそっくりな女の子のエロ本。

 1冊は、あかりちゃんに似た巨乳女性の本だ。
 もう1冊は、空に瓜ふたつのスレンダーな女の子のヌード写真集。
 それが彼女たちに発見されたら、とてつもなく気まずくなるにちがいない。きっと恥ずかしくて死にたくなるだろう。

「部屋の掃除はいいよ」
 俺は挙動不審にならないように気をつけて、さらっと言った。
「あれ~、なんか見られて困るものでもあるのかな~」
 あかりちゃんが絡んできた。変なところで勘のいい子だ。
「別に」
「怪しいなあ~。高校生男子の部屋って、入ったことないんだよね。なにがあるのかなあ~。小学生のときのふゆっちが持っていなかったものがあったりするのかなあ~。エロいものとかあったりする?」
 俺に近寄って、めちゃくちゃ絡んでくる。やめてくれ。
「美少女フィギュアがふたつあるんだ。それを見られるのはちょっと恥ずかしいかな」
 懸命にごまかした。
「フィギュアだけえ~? もっとヤバいブツはないのかなあ~」
「ウザ絡みやめて!」
 俺は声を大きくして、少し怒った顔を見せた。
 すると彼女はすっと引き、「ごめ~ん。悪ノリしちゃった」と素直にあやまった。

「じゃあ料理でもしてあげるね。冷蔵庫を見せてもらうよ~」
 あかりちゃんはキッチンへ行き、冷蔵庫を開けた。
 いくつかの調味料とスポーツドリンクのペットボトルと卵くらいしかない。
「これじゃあ目玉焼きくらいしかつくれないなあ」
「卵焼きはつくれないかな? 好きなんだけど」と俺は言ってみた。
「あれは難易度が高いなあ。きれいに巻くのがむずかしいんだよね。てへ」
 自分の頭をこつんと叩いてぺろっと舌を出し、しなをつくる彼女を見て、心臓が飛び出しそうになった。
 なんだこのエロ可愛い生き物は!

 思わずあかりちゃんに見惚れてしまったとき、ドアホンが鳴った。空が帰ってきたのだろうと思って、急いで玄関を開けた。思ったとおり、彼女がエコバッグを持って立っていた。
「ただいま」
「おかえり」
 空と俺のやりとりを、あかりちゃんはキッチンから身を乗り出してのぞいていた。彼女は急に目を剥き、笑顔から一転して険しい表情になった。
「なんで浅香がいるのよッ!」と叫んだ。
 驚くほど荒々しい口調だった。

 ああ、やっぱりこのふたりの鉢合わせはよくなかったんだ、と俺は悟った。
 空もあかりちゃんに気づいて、冷ややかな視線を向けた。
「天乃さん」
 彼女たちは睨み合った。
 微妙に仲が悪いなんてものじゃない。絡み合った視線からバチバチと火花が散っているみたいだ。
 このふたり、犬猿の仲なのか?

「なにしに来たの?」とあかりちゃんは詰問した。
「わたしは冬樹のお父さんから、ひとり暮らしの冬樹の世話を頼まれたの。だから食材を買ってきたのだけれど。あなたの方こそ、どうしてここにいるのかしら?」と空は言い返した。
「あたしだって頼まれたのよッ、ふゆっちのお母さんから、息子をよろしくってね!」
 空は靴を脱いで家の中に入り、つかつかとあかりちゃんに近づいて、傲然と彼女を見下ろした。空の方が頭ひとつ分背が高い。
 あかりちゃんも負けてはいなかった。背をそらし、ガンを飛ばした。
 見ているだけで、このふたりは相容れない仲だということが伝わってきた。空気がピリピリしている。
 睨み合っていたのは十秒間くらいだったが、俺は永遠のように感じた。

 空はついと視線をはずし、俺に言った。
「牛肉とじゃがいも、にんじん、たまねぎ、お米、カレールーを買ってきたわ。カレーと肉じゃが、どちらでもつくれるけれど、どっちがいい?」
「どちらも捨てがたいなあ」
 俺は雰囲気をやわらげようとして、努めて明るい声を出した。
 だが、あかりちゃんは黙ってはいなかった。
「ちょっと待ってよッ。あたしはおばさんからふゆっちの世話を頼まれているの。浅香は出てって!」
「わたしはおじさんから頼まれているの。さっき言ったわよ。ホルスタインには日本語が理解できないのかしら」
「ホルスタイン言うなッ、のっぽ!」
 空とあかりちゃんは、明らかに小学生時代より仲が悪くなっている。

「はあ……仕方ないわね。不毛な言い争いはやめて、話し合いをしましょう。天乃さん、ちょっと外へ」
「いいわよ」
 ふたりはわざわざ玄関から庭へ出て行った。
 俺はぐったりとソファに座った。ひとり暮らし初日にこんなことが起こるなんて、思ってもいなかった。じっくりと本を読むつもりだったのに、どうしてこうなった?
 父さんが空に、母さんがあかりちゃんに俺の世話を頼んだからか。
 俺の両親は愛の言葉はよく交わし合っているのに、事務的な連絡はおろそかだったりする。そのせいだ。
 空とあかりちゃんはなにを話し合っているのだろう。
 聞き耳を立てると、ときおり激しい口論が聞こえた。
「譲らないッ」とか「冷静になって」とかいう声が断片的に耳に入った。
 
 20分ほど経ってから、彼女たちはまたリビングへやってきた。
「話し合いがついたわ。1日交代で、あなたの世話をすることになった」
「もう食材を買ってしまったみたいだから、今日のところは浅香に譲るわ。明日来るね、ふゆっち」
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