女子竹槍攻撃隊

みらいつりびと

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米軍対秩父女子竹槍攻撃隊

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 米軍が秩父へ進軍してきたのは、落葉樹の葉が散りつくした12月中旬のことでした。
「ついに来たわ。みなさん、塹壕へ入ってください。作戦の成功を信じて、力の限り戦いましょう」とかぐやさんが言いました。
 私たちは「えいえいおう!」とおたけびをあげ、配置につきました。
 私は右翼隊の一番右側に立ちました。左翼隊の一番左にはさやかさんがつく手筈になっていました。
 米軍は500人くらいの大軍のようでした。私たち秩父女子竹槍攻撃隊の総勢はわずか54人。とうていかなわないでしょうが、敵はかぐやさんの念動力を知りません。何十人かの敵兵をあの世への道連れにできるはずだと私は信じていました。
 敵兵は武甲山のふもとに進んできました。
「アー、アー、テス、テス」という声が聞こえてきました。拡声器を使っているようです。
「日本人ノミナサン、アナタガタガ山ニ籠ッテイルコトハワカッテイマス。秩父ヘ来ル前ニモ、飯能ノ山々デ、我々ハアナタガタト戦イマシタ。飯能女子竹槍攻撃隊ト名乗ル方々トモ戦闘ニナリマシタ。残念ナガラ、飯能ノ女性兵士タチハ全滅シマシタ。アナタガタガ敵対スルカラ、我々モ武器ヲ使ワザルヲ得ナイノデス」
 拡声器から、外国人特有のイントネーションで語りかけてくる声が聞こえました。
 飯能女子竹槍攻撃隊が全滅したと聞いても、私は怯みませんでした。勇敢なあなたたちにつづくわ、と思ったほどです。
「我々ハ民間人ヲ攻撃シタクハナイノデス。オトナシク降伏シテクダサイ。1時間待チマス。武器ヲ捨テテ下山スレバ、安全ナ収容所ニ移送シテアゲマス。下山シテコナケレバ、敵対ノ意志アリトミナシテ攻撃シマス」
 原子爆弾を何発も落としておいて、民間人を攻撃したくないなどちゃんちゃらおかしい、と私は思いました。
 お国が危急存亡の危地に立たされているのです。軍人であろうと民間人であろうと戦うしかないではありませんか。それが戦争というものです。
 誇り高い秩父女子竹槍攻撃隊の大和撫子たちは、静かに1時間待ちました。誰も無駄口を叩きませんでした。

 やがて戦闘のときが来ました。いや、戦闘とは言えないかもしれません。
 虐殺のときと言うべきでしょうか。
 敵はたくさんの火炎放射器を使って攻撃してきたのです。冬枯れの樹々を焼きながら、米軍は少しずつ登ってきました。
 もちろん銃撃もありました。機関銃の銃弾が山腹にばらまかれました。
 私はこの期に及んでようやく、自分の作戦の甘さに気づいたのです。米軍の正規兵に竹槍で挑むなど正気の沙汰ではない。かぐやさんの超能力をもってしても、敵兵をせいぜい一桁殺せるかどうかでしょう。
 しかし私たちはなおも竹槍を握りしめ、沈黙と秩序を守っていました。
 せめてひと太刀あびせてやりたい。私はそんな思考に凝り固まっていました。
 米兵が百人ほど、塹壕の前にやってきました。火炎放射器が火を噴き、山を焼き、私は熱気を浴びて額から汗を流しました。
「えいっ」というかけ声が聞こえ、かぐやさんの反撃が始まりました。
 竹槍がびゅんと飛び、まったく減速することなく、米兵たちに届きました。
 何人かの敵兵が倒れました。
 かぐやさんは敵にひと泡吹かせることに成功したのです。
 念動力による竹槍発射攻撃はつづきました。
 しかし、もうそれ以上敵を倒すことはできませんでした。警戒した敵兵たちは樹々の後ろに隠れ、銃弾の雨をかぐやさんのいるあたりに降らせました。
 かぐやさんは竹槍を飛ばしつづけましたが、戦果はあげられません。竹槍の総数は300本。それが尽きたら、もう攻撃はできません。
 いまこそ右翼隊が動くときだ。全滅するかもしれないけれど、かぐやさんだけに戦わせているわけにはいかない。
 私は塹壕から飛び出し、突撃しようと決意しました。
 しかし、そのときに私は信じられないものを見たのです。
 左翼で白旗が上がっていました。

 白旗は竹槍に結びつけられ、高々と掲げられていました。
 その旗を見て、米軍は攻撃を中止しました。
 かぐやさんの竹槍攻撃も止まりました。
 やがて、秩父女子竹槍攻撃隊員と米兵たちが見守る中、左翼の塹壕から白旗を持ったさやかさんが歩み出てきました。
「降伏します。殺さないでください!」と彼女は大きな声で言いました。
 信じられない。
 敵前逃亡以上の大罪です。
 指揮官の命令もなく、降伏したのです。
「塹壕に戻って、さやかさん! 私たちは降伏なんかしないわ!」と私は叫びました。
「無駄な努力はもうまっぴらよ……」とさやかさんは静かに告げました。
「かぐやさん、降伏しましょう。このまま戦いつづけては、全滅するだけだわ。あなたには戦うだけでなく、わたくしたちの命を守る責任もあるはずよ」
 武甲山が静まりかえりました。
 かぐやさんが両手を上げ、塹壕から出ました。その顔は超能力を振り絞ったせいで生気がなく、彼女は消耗しきってよろけながら米軍に向かって歩いていきました。
「さやかさんの言うとおりだわ……。火炎放射器と機関銃にはかなわない……。みなさん、生きて日本の子どもを生みましょう。これから、つらく苦しいときを過ごすことになるかもしれない。でも、私たちには女の戦い方がある。辛酸をなめてでも生き延びて、日本人の血を未来に残すのよ……」
 私は日本の子どもなど生みたくありませんでした。
 かぐやさんとともに死にたかった。
 でも、その夢はかなわなかったのです。

 1946年冬、大日本帝国はポツダム宣言を受諾し、無条件降伏しました。
 玉音放送を私は収容所で聴きました。
 同じ降伏するなら、なぜもっと早く降伏しておかなかったのだろう、と私は思いました。
 たとえば、広島に原爆を落とされた後、さっさと降伏しておけばよかったのです。
 あの時点で、日本に勝ち目はないとわかっていたはずです。
 あのとき降伏していれば、日本人の半数ものとてつもない人命が失われることはなかった……。
 戦後、SF小説というものが流行しました。
 その中に偽史SFがあり、降伏派と徹底抗戦派のせめぎあいの末、1945年8月15日に日本が降伏するという小説がありました。
 1970年にそれを読んで、儚い夢物語だ、と私は思いました。
「ねえ、そう思わない、かぐや?」
「そうね、そういう歴史がもしあったとすれば、その世界線に生きている人たちはとてもしあわせだと思うわ。私たちが実際に生きているこの世界でも、あり得たかもしれないその世界でも、二度と戦争をしないことだけをこいねがうわ」
 私たちは日本の子どもを生まず、女ふたりで生きていく道を選んでいました。
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