作家志望愛詩輝の私小説

みらいつりびと

文字の大きさ
6 / 47

愛詩輝の春休み

しおりを挟む
 ボクは高校を卒業した。
 四月から大学生になる。
 東京にある私立大学の文学部日本文学科で学ぶんだ。すごく楽しみ。友だちをいっぱい作りたい。
 できれば恋人もほしいな。小説の話ができる男の子がいい。
 ともあれ、今は春休み。つかの間の自由な時間だ。
 本を読みたい。そして、小説を書きたい。
 書きたい書きたい書きたい書きたい。
 ボクは小説家志望なんだ。
 創作意欲はすごくある。でも何を書けばいいのかわからないんだよね。ちょっとしたアイデアが生まれることはあって、書き始めるんだけど、途中でこれはつまらないと思ってしまって、つまずく。未だに一つも小説を完結させたことがないんだ。
 高校時代ずっと悩んでいた。ボクはからっぽ。
 村上春樹様を尊敬し、こんな小説が書けたらいいな、と思ってる。
「風の歌を聴け」の書き出しは最高だ。
 引用するね。
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
 僕が大学生のころ偶然に知り合ったある作家は僕に向ってそう言った。僕がその本当の意味を理解できたのはずっと後のことだったが、少くともそれをある種の慰めとしてとることも可能であった。完璧な文章なんて存在しない、と。
 うっとりするよ。「完璧な文章」がここに存在してる。そしてボクにはけっして書けないだろうという「完璧な絶望」も存在している。春樹様は天才だね。
 ボクは本屋さんに行った。
 何か面白い小説はないかな。
 少年の顔がアップで描かれた表紙の本に目を止めた。平積みにされていて、少年がボクを呼んでいるような気がした。
 表紙の少年は目を大きく見開き、何かに驚いているようだ。シャツの第一ボタンをはずし、ネクタイは緩んでいる。もしかしたら、少女なのかもしれない。ボクみたいに、ボーイッシュな女子という可能性はある。背景は赤一色。
 本のタイトルは「なめらかな世界と、その敵」。
 直感に従って、その本をレジに持って行った。買った。
 この本は絶対に面白いという確信があった。
 自分の部屋で読んだ。姉は出かけていていなかった。静かな自室で、集中して読むことができた。
 SF短編集だった。そんなことも知らずに買っていたんだ、ボクは。
 うん、すごいよ、これ。表題作の最初の短編を読んで、買って正解だったとわかった。
 ボクは本の世界に引き込まれた。
 SFって、ちょっと理屈っぽくてむずかしいという印象を持っていたけど、これはちがう。
 エモい小説だ。
 最後の短編「ひかりより速く、ゆるやかに」。傑作じゃん。
 読み終えてすぐ、再読した。
 ノンストップで二回読んだ。こんなことしたのは初めてだ。頭の芯がクラクラした。
 伴名練様。新たなボクの導き手が現れた。
 こんな小説を書きたいと思わせてくれた二人めの人。
 SF、書いてみようかな。
 窓の外を見た。
 桜が満開だったよ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

咲坂(SAKISAKA)という、誰の目にも留まるほど美しい女性は――俺にだけ“心の闇”を見せた。

里見 亮和
キャラ文芸
誰もが振り返る美しさを持つ咲坂雪菜。 普通ならとても近づけない存在なのに、なぜか彼女は俺にだけ歩み寄る。 その理由に触れたとき、彼女の“心の闇”は静かに俺へ重なり始めた。

処理中です...