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“次に進む”
“ミコちゃん”が言っていた。
生まれてしまったからには生きていかなければいけないから。
生き続ける為に次に進んでいるだけだと。



俺も生き続けなければいけない。
“ミコちゃん”との約束を守ることが出来なかったこの世界で。



この死の世界でしかない世界で。



でも・・・



「俺は美鼓ちゃんとの約束を守る為だけに日本に帰って来たから・・・。
だから偉くなるっていう約束の為だけに頑張るだけでいい・・・。
美鼓ちゃんの予報では今年は部長になるくらいらしいけど、時間が掛かっても絶対に偉くなるから・・・。
その約束だけは絶対に守るから・・・。」



そう伝えた。
次に進まなくていいと思った。
だって次の女の子に進める気がしない。



俺の中にこんなに深く深く深く“ミコちゃん”がいるのに、次の女の子なんかに進めるはずがない。



「私との約束で偉くならなくてもいいですよ。
ちゃんと自分の為に偉くなってください。」



それには首が痛くなるまで下を向く。



「約束・・・もうそれだけしか残ってないから・・・。
他の約束、何1つ守れなかったから・・・。
これだけは守りたい・・・。
これだけはちゃんと守りたいから・・・。」



小さな小さな声だけどそう伝え、両手をポケットから出す。
そして片手を後ろに回しポケットからお財布を取り出し5円玉を右手に握り締めた。



「神様にお願いしてくるよ。」



それから美鼓ちゃんを見詰めた。
暗闇でも分かる美鼓ちゃんの可愛い顔を。



「美鼓ちゃんが次に進めるように。
会社でモテモテで選びたい放題なのに、誰のことも選んでないから。」



増田ホールディングスでは美鼓ちゃんのことを誰1人“不思議ちゃん”とは言わなかった。
“変な子”とも“変な人”とも言わなかった。



“天気予報より天気予報”
そんな風に言われていた。



それは美鼓ちゃんのお父さんである“神様”のお陰で。



「私、モテモテなんですか?
それは今年1番の驚きなんですけど。」



「今年始まってまだ3日だしね!」



爆笑しながら美鼓ちゃんの顔を見詰め続ける。
めちゃくちゃ“普通”の女の子である美鼓ちゃんを。
でも、俺にどんなに酷いことをされても約束を守ろうと必死についてきてくれた、ある意味“普通”ではない美鼓ちゃんのことを。



「今日、来てくれてありがとう。
ずっと待ってたから・・・。
俺、ここで美鼓ちゃんのこと待ってたから・・・。
最後に会えてよかった・・・。」



この子は普通の女の子だった。
めちゃくちゃ普通の女の子だった。



深く深く後悔をしながら、右手で握り締めた5円玉を持って拝殿へと向かう。
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