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ゆっくりと目を開け、宝田の方を見る。
そしたらそのタイミングで宝田も私の方を向き、2人で小さく笑い合った後、拝殿に背を向けた。



そして、階段を下りていく。



たった数段の階段。
ここで昔からよく怪我をする人がいるらしい。
私のお父さんもその中の1人。
ここで怪我をしたお父さんは、搬送された森川病院でお母さんと再会をした。



仕事の案件も終わっていない私達は怪我をするわけにいかないので、慎重に下りていく。
たった数段の階段を、ゆっくりと。



集中して、慎重に下りていた。



お酒だって少ししか呑んでいないし、こんな数段の階段で怪我をするわけはないけれど、慎重に。



慎重に下りていた・・・。



慎重に下りていたのに・・・。



何がどうなったのか・・・



ズル──────ッと、足元が滑った。



「「・・・ワッ!!!!」」



出した声は隣の宝田と重なり、そして咄嗟に宝田の方に伸ばした手も宝田の手と重なった。



2人でしっかりと手を握り合い、ドキドキとしている心臓の音を聞きながら見詰め合う。



宝田は驚いた顔をしながら私を見ていたけれど、少し嬉しそうな顔で笑った。



「長峰と並んで歩いていく相手、俺でいいって神様が許してくれたのかな。」



そう言って、私の手を強く握ってきた。



強く強く、握ってきた。



「結婚してても結婚してなくても、長峰と並んで歩く相手は俺でいたいな。
板東社長からはまた説教されるかもしれないけどさ、おんぶでも抱っこでもするから。
長峰が歩けなくなったら、俺がおんぶでも抱っこでもするから。」



「それって、宝田は幸せになれるのかな。」



「もう既に幸せだからそこは何の問題もないよ。
だから今回の案件が終わったらよく話し合おうか。
このまま結婚生活を続けるのか、結婚生活は終わらせるか。
結婚生活を終わらせたとしてもただ離婚届を出すだけだから、今までと何も変わらないけど。」



宝田が私の手を強く握りながら歩き始めた。



「結婚生活を終わらせたとしても、俺達は何も変わらないから。
ずっと幼馴染みで犬猿の仲で、離婚したとしてもきっと付き合う直前の犬猿の仲のままでいられるから。」



宝田にそう言われ、私は何と答えていいのか分からなかった。



宝田が普通に笑っている横顔を眺めながら歩いていると、そこには小さな小さな雪が舞い落ちてきた。
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