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俺の言葉に長峰は驚いた顔をした。



「今日、大学院の入口に“リコ”がいた。」



「どうして分かったの?
“リコ”は顔出ししてないのに。」



「“お兄ちゃん!!!”の声が、凄く印象的で。
俺は長峰が見てる動画の音声しか聞いてないけど、“リコ”が言う“お兄ちゃん”と呼ぶ声はいつも印象的だった。
どっちのお兄ちゃんに対しても言っていたその言葉は、“リコ”のどんな言葉よりも1番強く耳に
残ってる。」



耳というか、心に噛み付いてくるような“お兄ちゃん”。
あの動画チャンネルの登場人物達は印象に残る声ばかりだった。



「でも、“リコ”のお母さんが桃子せんぱいだって分かったのはどうして?
“お母さん”のことも“まり姉のお父さん”のことも、声だけで姿は一切入れてないんだよね。
それも、声もたまにしか入れてない、少しだけ。」



「“うちには天才がいる”、だからね。
天才がいるんだよ、この家には。
確かに天才みたいだね、器用なだけの俺では太刀打ち出来ないわけだ。」



この“お兄ちゃん”が大学院にいるあの男の子だとしたら、それは天才なのだと分かる。



『そんなこと言ってねーで働けよ、まり姉!!
外の世界でちゃんと働け!!!
いつまでリコが動画配信なんか続けられるか分からねーだろ!!!』



スマホの中から“コウイチ”の怒鳴り声が響いてくる。



「少しだけ聞こえてきた“お母さん”の声は、桃子せんぱいの声だった。」



『あいつの方が歳だからな、母ちゃんよりずっと先に死ぬ!!!
その時にまり姉もその弟も無職なんて許さねーぞ、俺は!!!
喋れないからじゃねーよ、自分を殺してでも喋るんだよ!!!
そうやって生きていくんだよ!!!
そうやってでも生きていかなきゃいけねーんだよ!!!
母ちゃんに迷惑掛けるのだけは、許さねーからな!?』



コウイチの怒鳴り声を聞きながら、俺はスマホを見下ろす。



“お兄ちゃんが今日もマザコンで気持ち悪い”



テロップにそう出て来て、このテロップも上手に活用しているのだと分かる。



「再婚するってテロップに書いてあるの?」



「うん、たまに書いてある。
でも、岩渕室長が桃子せんぱいの相手なら安心だよね。」



長峰のそんな言葉には、俺はすぐに頷けなかった。



モザイクがかかっている“コウイチ”。
さっきライブ配信をしていた時に出てきた顔を思い出しながら、“母ちゃん”の為に、“母ちゃん”のことだけを考えていつも怒鳴り散らしている“コウイチ”のことを見下ろしていた。



そして、その向こう側で静かに1人でご飯を食べているもう1人の“お兄ちゃん”のことも。



「岩渕室長の息子とか怖いから、少し後押ししてくるよ。
“リコ”とこっちの“お兄ちゃん”は血繋がってないからね。」



「後押しって?」



「さあ?」



この2人にはなるべく早くくっついて貰いたいので、少しだけ後押しをしてみることにする。
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