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“桃子せんぱい、俺の助けなんていらないですよ・・・。
あなたの息子は有能過ぎて、俺の涙腺まで破壊してこようとしてくるんですけど・・・。”



心の中でそう抗議し、泣くのを必死に我慢して鮫島光一を見る。
俺が何を知っているのか、この男はどこまで知っているのか。



そう考えながら鮫島光一を見ていると、鮫島光一は砕けた笑顔で笑ってきた。



「そんなに警戒しないでくださいよ、今日は少し昔話を教えて貰いたいだけなんです。」



「昔話ですか?」



「はい、須崎社長と板東社長の昔話です。
宝田さんはお二人のことも昔からご存知ですよね?」



「そうですね、同じ商店街の出身なので。
でも、それならよく僕を選びましたね。
長峰の方がペラペラと喋りますよ、バカ舌なので。」



「長峰さんよりも宝田さんに聞いた方が1回で終わると思いましたので、宝田さんをお誘いしました。
宝田さんの方が色んなことをご存知かと思いましたので。」



そう言われ、俺は素直に頷いた。



完璧な男だと思った。



俺1人だけを誘ってきた。
鮫島光一は恐らく気付いている。
俺と長峰が犬猿の仲だけではないと、分かっている。



武器を持たせないつもりらしい。



俺に、武器を持たせるつもりはないらしい。



ただの器用なだけの男にして、鮫島光一は俺の目の前に座る。



普通の男ではなかった。
天野雷ではないのに、この男も普通の男ではないと分かる。



“誰も勝てない”
豊君の言葉が頭の中で響き渡る。



でも・・・



小さく息を吸ってから須崎社長のことを思い浮かべた。



あの人は鮫島光から育てられた。
年下の鮫島光は、あの人の教育担当だった。



それに、俺はこの鮫島光一の母親である桃子せんぱいに教育して貰った。
社会人として必要なことは全て、桃子せんぱいから教えて貰っている。



右手を胸の真ん中に当てる。



俺は歩ける。
この男は泳げるのかもしれないけど、俺は歩ける。



例えどこが道なのか分からないような雪の上でも、道標がなかったとしても、俺は歩ける。
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