【完】タバコの煙を吸い込んで

Bu-cha

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新幹線を降り、そこからタクシーでもっと遠くの町へ向かう。
電車は1時間に1本だったからタクシーで。
そんなに待たせたくはなかったから。
もう待たせたくなかったから。
クソジジイを、これ以上待たせたくはなかったから。



新幹線の通らない駅前でタクシーを降りる。
雪は降っていなかったけど、高い雪が駅前に積まれている。
駅前は少しだけ栄えているから歩くのに不便はしかなかった。



突き刺すように冷たい空気だった。
その空気が・・・心地好かった。
裕福な家で生まれ育った私には経験したことがない冷たさで。
それが心地好かった・・・。



それを感じながら、少し大きめのバッグを持って駅前の古いホテルに入った。



古いホテルだけど、雰囲気の良いホテルだった。
きちんと手入れが行き届いているし、初めて来たのに不思議と温かさも感じた。



フロントまで歩くと、フロントに立っていたホテルの男・・・。
良い男だった。
年齢は30代半ばで、こんな田舎に置いておくには勿体ないくらいの良い男だった。



その男が・・・私を見て目を見開いて固まっている。
何も言わず、ただ目を見開き固まっていて・・・。



「あの、予約している葛西です。」



「葛西・・・?」



良い男がそう呟き、慌ててフロントにある画面を確認していた。
そして、また私を見て・・・良い男が良い笑顔で笑った。



「シングルのお部屋のご予約でしたが、ダブルの広めのお部屋が空いておりますので変更致しますね。」



「いらないよ!
私は自分には金を掛けないからね!!」



「・・・ご料金は変わりません。
空いておりますので、そのお部屋を是非。」



良い男が嬉しそうな顔で私に笑い掛け、ホテルのキーを渡してきた。



「これからすぐに出掛けたいから、荷物だけ預かって!!」



キーは受け取らず大きめな荷物だけ良い男に渡した。




「お車出しますか?」



「いらないよ!!歩いていける距離だからね!!!」




私がそう答えると、良い男は良い笑顔で頷いた。
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