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「うるさいね!!!さっさと座りな!!!」
スナックの中、今日も毒が吐かれる。
それはばあちゃんの毒ではなく、お母さんの毒。
ばあちゃんが死んでしまってから、お母さんはタバコを吸うようになった。
ばあちゃんより本数は多いから心配になる。
でも、必要な毒だった。
俺のお母さんは弱い人だから。
弱い弱い人だから・・・。
「拓実のお母さんも、演歌も料理も上手いな~!!!」
お客さん達がお母さんの演歌を嬉しそうな顔で聞き、たまに泣きながら料理を食べている。
「拓実!!!コタさんの仕事についていく前に一曲歌ってやりな!!!!
この演歌は私よりも拓実の方が響くからね!!!」
“ママ”に言われ俺はマイクを持つ。
そして、歌った・・・。
演歌を歌った・・・。
お母さんも俺も演歌を歌える・・・。
ばあちゃんが歌う演歌を知っているから・・・。
そして、この演歌も・・・。
恋の演歌だった・・・。
失恋の演歌だった・・・。
俺の演歌を聞き、お客さん達が号泣していく。
この失恋の演歌だけは、お母さんよりもばあちゃんよりも人を泣かせられた・・・。
今日もじいちゃんは夜にアポを入れた。
高校生になった俺がバイトをするのも止め、じいちゃんは俺に可能な限り同席させる。
最近、じいちゃんは前よりもタバコの煙を広げた・・・。
じいちゃんのタバコであるばあちゃんはいないのに、じいちゃんはまだタバコの煙を広げ続ける・・・。
こんなに優しいのに、じいちゃんは強い男だった。
タバコであるばあちゃんがいなくなってしまったのに、1人で歩いていける強い男だった。
そんなじいちゃんが老眼鏡をかけ、資料を読みながらスナックに降りてきた。
その眉間にはシワが寄っている・・・。
老眼鏡を外し、じいちゃんがいつもの優しい笑顔で俺を見た。
「今日も良い歌だったね。
拓実、行こうか。」
俺は今日もじいちゃんの仕事についていく。
じいちゃんの背中に、ついていく・・・。
俺も歩く・・・。
じいちゃんに抱えられることなく、俺も歩く・・・。
どんな道でも・・・
大雪でも・・・
ボロボロの靴で、穴があいていても・・・。
歩ける。俺は、歩ける。
その穴はばあちゃんが塞いでくれたから。
俺には吹き掛けることがなかったタバコの煙を、俺のボロボロで穴だらけの靴には吹き掛けてくれたから。
覚えている。
俺は覚えている。
大好きなばあちゃんのタバコの煙だから。
大好きな大好きな・・・
大好きな大好きな女の人の・・・
タバコの煙だから・・・。
“立ちな!!!!歩くんだよ!!!!!”
俺の頭の中には、今日もこの言葉が響く。
スナックの中、今日も毒が吐かれる。
それはばあちゃんの毒ではなく、お母さんの毒。
ばあちゃんが死んでしまってから、お母さんはタバコを吸うようになった。
ばあちゃんより本数は多いから心配になる。
でも、必要な毒だった。
俺のお母さんは弱い人だから。
弱い弱い人だから・・・。
「拓実のお母さんも、演歌も料理も上手いな~!!!」
お客さん達がお母さんの演歌を嬉しそうな顔で聞き、たまに泣きながら料理を食べている。
「拓実!!!コタさんの仕事についていく前に一曲歌ってやりな!!!!
この演歌は私よりも拓実の方が響くからね!!!」
“ママ”に言われ俺はマイクを持つ。
そして、歌った・・・。
演歌を歌った・・・。
お母さんも俺も演歌を歌える・・・。
ばあちゃんが歌う演歌を知っているから・・・。
そして、この演歌も・・・。
恋の演歌だった・・・。
失恋の演歌だった・・・。
俺の演歌を聞き、お客さん達が号泣していく。
この失恋の演歌だけは、お母さんよりもばあちゃんよりも人を泣かせられた・・・。
今日もじいちゃんは夜にアポを入れた。
高校生になった俺がバイトをするのも止め、じいちゃんは俺に可能な限り同席させる。
最近、じいちゃんは前よりもタバコの煙を広げた・・・。
じいちゃんのタバコであるばあちゃんはいないのに、じいちゃんはまだタバコの煙を広げ続ける・・・。
こんなに優しいのに、じいちゃんは強い男だった。
タバコであるばあちゃんがいなくなってしまったのに、1人で歩いていける強い男だった。
そんなじいちゃんが老眼鏡をかけ、資料を読みながらスナックに降りてきた。
その眉間にはシワが寄っている・・・。
老眼鏡を外し、じいちゃんがいつもの優しい笑顔で俺を見た。
「今日も良い歌だったね。
拓実、行こうか。」
俺は今日もじいちゃんの仕事についていく。
じいちゃんの背中に、ついていく・・・。
俺も歩く・・・。
じいちゃんに抱えられることなく、俺も歩く・・・。
どんな道でも・・・
大雪でも・・・
ボロボロの靴で、穴があいていても・・・。
歩ける。俺は、歩ける。
その穴はばあちゃんが塞いでくれたから。
俺には吹き掛けることがなかったタバコの煙を、俺のボロボロで穴だらけの靴には吹き掛けてくれたから。
覚えている。
俺は覚えている。
大好きなばあちゃんのタバコの煙だから。
大好きな大好きな・・・
大好きな大好きな女の人の・・・
タバコの煙だから・・・。
“立ちな!!!!歩くんだよ!!!!!”
俺の頭の中には、今日もこの言葉が響く。
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