【完】タバコの煙を吸い込んで

Bu-cha

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最後に、仏壇の前に立った。



“スナック 時”のマッチで線香に火をつける。
ばあちゃんが口に咥えているタバコだと思いながら、火をつける。



じいちゃんもたまに火をつけていたから。
ばあちゃんはライターで火をつけられない時があり、たまにじいちゃんがこうして火をつけていた。



両手を合わせ、ばあちゃんに伝える。
東京に行くこと。
これからも歩いていくこと。
どんな道でも、真っ直ぐ・・・。
ばあちゃんが塞いでくれた穴だらけの靴で、しっかりと・・・。



そう伝えながら、目をゆっくりと開けた・・・。



ばあちゃんが写真の中で笑っている。
61歳のばあちゃんが、写真の中で笑っている。



「拓実、これをあげるよ。」



じいちゃんがそう言って、何かを俺に渡してきた。
見てみると、写真だった・・・。



写真だった・・・。
白黒の写真だった・・・。
“スナック 時”の前でばあちゃんが笑って立っている写真だった。



ばあちゃんがばあちゃんの姿ではない、写真だった・・・。



「時子ちゃんが32歳の時。
峰子ちゃんが9歳になる年に、僕があのお店をプレゼントしたんだ。
それまでも一緒にいたけど、一緒に暮らし始めたのはその時から。
それから一緒に生きてきた。
一緒に、歩いてきた。」



じいちゃんが懐かしそうな顔で、32歳のばあちゃんの顔を見ている。



綺麗だった・・・。



ばあちゃんは、凄い綺麗だった・・・。



ばあちゃんにしては綺麗だとはずっと思っていたけど、32歳のばあちゃんは凄い綺麗だった・・・。



「その写真を拓実にあげるよ。」



「いいよ・・・。大切な写真でしょ。」



「僕は覚えているからね。
ちゃんと、その時の時子ちゃんを覚えているから。」



じいちゃんにそう言われ、泣きそうになった。
でも泣かなかった・・・。
泣いたらばあちゃんに言われてしまうから。



好きな女と一緒に生きていけないと、一緒に歩いていけないと、言われてしまうから・・・。



大好きな女の人から、そう言われてしまうから・・・。



「ばあちゃんみたいな人、いるかな・・・。」



「きっといるよ。」



「じいちゃんはどうやって出会ったの?」



「幼馴染みだったからな・・・。」



「それはズルイでしょ。」



そう言ってから、2人で笑った。
2人で32歳のばあちゃんの顔を見ながら、最後にもっと笑った・・・。
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