“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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私が口にした言葉に佐伯さんがゆっくりと顔を上げた。



そしたら、驚いた。



その顔はどこをどう見ても“男の人”で。



それも“普通”の男の人ではなく、性別としての“男”というよりは“雄”という感じの雰囲気で・・・。



「そんなタイミングでソイツと会うとかどんな偶然?
何処でソイツと会ったの?」



あまりの剣幕で聞かれ、このまま相手が砂川さんだと言おうと思っていた私だったけれど咄嗟に濁した。



「この近くで働いてる人なんだよね。」



この社員食堂を起点に考えながらそう言葉にした。



「折角忘れようとしてるのに最悪だね。
その目、ソイツにそんな目にさせられたってこと?
田代との会話を聞かれて何か言われたの?
それとも無視されたとか?」



真っ直ぐと私の顔を見てくる“雄”の佐伯さんに聞かれ、それには濁すことが出来ずに答えた。



「田代が私とは絶対に無理みたいな話をしてたら、その人が自分は私とセ・・・その、アレが出来るって言ってきた。」



「・・・それは事実な所がまたムカつく。」



「事実ではないよ。
あの人は昔から私とは“普通”のアレは出来なかった。
モノも全然反応しなかったし最後まで出来たのも3年間で片手でも余裕で数えられるくらい。」



「最後までって?」



「出したトコロまで。」



「・・・聞くのが辛すぎるけど続けてください。」



“雄”の佐伯さんが本当にしんどそうな顔で言ってきて、それには何でか少しだけ嬉しくもなって笑顔になりながら続ける。



「毎回私が上になって無理矢理していたアレなのに、あの人は今も私と出来るって言ってきた。
それも私のことを大切にしてくれるアレが出来るって、そんな嘘を言ってきた。」



砂川さんからのこの言葉を笑いながら口にすることなんてないと思っていたけれど、私は今こんなにも笑顔でこの話を口にしている。



“雄”の佐伯さんの顔はしんどそうな顔から一変し、怖いくらい真剣な顔になった。



「それで?」



「私のことを強引にタクシーに押し込んで家まで連れて行かれた。」



「それで?」



「寝室にも連れて行かれた。」



「それで?」



「謝罪をされた・・・。
昔私と身体の関係“だけ”だったことを。」



「それで?」



「今は“好き”って言われた。
私のことが“女の子”として“好き”だって。」



それには流石の佐伯さんでも“雄”の顔のままだけど驚いた顔になった。



「それって・・・ソイツ、園江さんのことが本当に好きなんじゃないの?」



「違うよ、あの人には婚約者がいるから。」



「はあ?婚約者がいるのにソイツ何ふざけたこと言ってんの?」



「田代との会話を聞いて私が可哀想だったんだって、そう言われた。」



「はあ?」



「本当に、“はあ?”だよね。」



“雄”の佐伯さんがあまりにも怒りまくっている顔をしているからか、逆に私は笑いながら話すことが出来た。
私の怒りの感情の分まで“雄”の佐伯さんが表現してくれているからかもしれない。



「それで?それでどうしたの?
そのままやっちゃったからそんなに目を腫らせてるの?」



「そんなことしないよ。
“私の命も身体もちゃんと“彼氏”から愛して貰ってる。
エッチは出来ないけど、ちゃんと愛して貰えてる。
だから私は全然可哀想なんかじゃない”って捨て台詞を残して大泣きしながら逃げてきた。」



「うん、その通り。
そんな奴からなら逃げることも全然有り。」



「本当は、“家から逃げただけ”って自分に言い訳してたんだけどね。」



「そんな変な奴からはダッシュで逃げた方が良いって。」



佐伯さんの言葉にはまた大きく笑うと、社員食堂の向こう側から砂川さんが歩いている姿が目に入ってしまった。



すぐに目を逸らしたかったのに目を逸らせなかったのは、砂川さんの隣には何故か私の“残念な兄”が並んでいるから。



昨日砂川さんから聞いた話をお兄ちゃんに問い詰める余裕まではなくてお兄ちゃんには言っていないけれど、昨日私が泣きながら帰ったことは知っているお兄ちゃん。
また砂川さんに言わなくて良いことを言っているのだと思い見ていると・・・



「園江さんのお兄さんだね。
あの人だけで見たら良い感じの人なのに、妹の園江さんがその更に上にいっちゃうから“残念な兄”になっちゃうよね。」



佐伯さんの指摘には笑いながら頷くと、砂川さんが私の視線に気付いてしまったのか私の方を見てきてしまった。



無視されるのかと思っていたら、驚くことに私の方に真っ直ぐと歩いてきた。



「佐伯さん、園江さん、お疲れ様。」



「「お疲れ様です。」」



“普通”に返事をすると佐伯さんと声が重なった。
それに少しだけ嬉しくなりながら、“普通”の顔をしている砂川さんから顔を逸らしすっかり冷めてしまったうどんを食べる。



冷めただけではなく伸びてしまったうどんは全然美味しくなくなってしまった。



「園江課長、“彼女”が佐伯さんです。
園江さんの指導をお願いすることになった方です。」



佐伯さんのことを“彼女”と言いながら私のお兄ちゃんにそんな紹介をしたと思ったら・・・



「え・・・!!?
佐伯さんが妹の指導担当なんだ!?
だからこの前俺に妹のことを聞いたのか!!」



お兄ちゃんの驚く声が聞こえ・・・



「佐伯さん、妹って全然経理部ってタイプの子じゃないから、お手柔らかにお願い出来る?
純愛、昨日泣きながら帰ってきてさ。」



それにはうどんの丼の中に、口にしていたうどんを思いっきり吹き出した。
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