“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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私が座布団に座ったことを確認した砂川さんは私の隣に座ることなく背後にある扉を開けた。
この縁側に隣接している“1番良い部屋”だという部屋の扉を。



砂川さんのおじいちゃんとおばあちゃん、そして砂川さんの両親と砂川さん、5人で暮らしていた時もここは砂川さんの部屋で。
そして年の離れた弟が少し大きくなってから、両親と弟がこの家を離れた後も変わらずここが砂川さんの部屋だったらしい。



“1番良い部屋”は昔と同じように大きな襖の部屋となっていて、砂川さんはその襖を音もなく開けた。



私が来ていた頃は砂川さんの書斎だったその部屋を何気なく見ていたら、随分とスッキリとした部屋の中に淡いピンク色の光りが差し込まれた瞬間も見えた。



畳ではなく綺麗なフローリングになっている部屋、そこには大きなデスクも本棚もない。
あるのは初めて見る少し大きめのタンスだけで。
暗い部屋の中に淡いピンク色の光りが差し込みそのタンスはピンク色にも見える。



そのタンスの引き出しを砂川さんが開け、そこから“何か”を取り出した。



そしてそれを持ちまた部屋の襖を閉め、その“何か”を私に差し出してきた。



「はい、膝掛け。」



砂川さんがそう言って・・・



私に膝掛けを差し出してくる。



“私の”膝掛けを・・・。



昔ここで夜のハナカイドウの花見をしていた時に私が必ず掛けていた膝掛け。
私が持ち込みあの家に置いたままにしていた“私の”膝掛け。



その膝掛けを砂川さんが“1番良い部屋”から持ってきた。



「カビ臭くないといいけど。」



なかなか受け取れない私に砂川さんがまたそう言って、“私の”膝掛けに顔をつけた。



それを見て・・・



「私が置いていった物、さっきのタンスに仕舞ってるの・・・?」



小さな声でその質問をすると、膝掛けを受け取らない私の肩に砂川さんが膝掛けを掛けた。
フワッ─────...と私の身体が“私の”膝掛けに包まれる。



この膝掛けはマナリーと望がくれた物。
だから見間違えるわけがない。
24歳になった数日後の3月末日、田代の部屋でマナリーから髪の毛をカットして貰った“あの日”。
遅れて来た望とマナリーから“栄転祝い”として貰った膝掛け。



翌日から本社勤務となる私に、マナリーと望が“生理痛が少しでも軽くなるよう、身体を冷やさないように”とプレゼントをしてくれた膝掛け。



真っ白でフワフワな膝掛けには私の“純愛”という名前が赤色の糸で刺繍されている。



真っ白な膝掛けが“満開”のハナカイドウにより淡いピンク色に染まる。



そこに刻まれている“純愛”という文字を指先でソッと触れた後、私の隣に立っている砂川さんのことを見上げる。



「“1番良い部屋”に私の物を仕舞って、何してるの・・・?
バカじゃないの・・・?」



“純愛”のトコロを普通のパンツと一緒に握り締めながら口にした。



そしたら砂川さんは困った顔で笑いながら頷いた。



「うん、俺はバカだったらしい。
勉強も仕事も出来るけどね。」



そう言って・・・



「さっきから握ってるそれ、パンツ?
生理になった?」



普通に聞かれ、反射的に普通に頷く。



「痛み止めの薬を持ってこようか?」



「うん・・・。」



「分かった、待ってて。
すぐに戻るから。」



砂川さんがそう言い残し、淡いピンク色の世界から出ていった。



暗い廊下へと消えていった砂川さんの後ろ姿を見ながら思ったことは1つで。



「何を考えているのか全然分からない・・・。」



昔から思っていたことを今も口にした。



“分かった、待ってて。
すぐに戻るから。”



砂川さんが残した言葉を思い出し、乾いた笑い声が口から出た。



「戻ってきたらダメだよ・・・。
今更戻ってこないでよ・・・。」






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