“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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昼休みが終わる数分前



「田代、これ。」



「何の20円?」



「砂川さんに返して来てくれない?」



「そう言って朝もジャケット頼んできただろ!!
しかも何の説明もなしに!!
ちゃんと説明しておけよな!?
砂川さんから“園江さんは何か言ってた?”とか聞かれたんだぞ!?」



20円を受け取ってくれることなく田代が営業部のフロアで文句を言ってくる。



「“何も言わずにこれを返すように言われただけで、パシリにされてます”とか返しておいたら、何か無言でスーツのジャケットを見下ろされて!!
“このジャケットどうしたんですか?”って軽い気持ちで聞いたらお前・・・っ」



田代がめちゃくちゃ怒った顔で私のことを見下ろす。



「土曜日の夜に砂川さんにバッタリ会って借りたんだろ!?
それならちゃんと自分で返せよ!!
それにお礼の品もちゃんとつけろよな!?
さっきのジャケットのお礼は俺が缶ジュースを渡しておいた!!」



「これにはお礼のジュースとかいらなかったのに・・・。」



“忘れて”とお願いをしたのに砂川さんは忘れてくれていないことを知った。



「お前、そういう所はちゃんとしろよ!?」



「田代はそういう所マメだよね。」



私のバレンタインのチョコのお返しは1度だってくれたことがない田代。
その田代がうんざりした顔で私に言う。



「可哀想だろ、お前のことを好きになる沢山の女の子達が。」



「あの女の子達からのバレンタインのお返し、準備してくれてるのは田代なんだよね。
マナリーへのお返しだけは私が準備してるけど。」



「他の女の子達へのお返しもちゃんと準備しておけよ、可哀想だろ。」



田代が真面目な顔で続ける。



「バレンタインのお返し1つでお前があの面倒そうな女達から嫌われたら可哀想だろ。」



「私の為に準備してくれてたの・・・?」



「当たり前だろ、他に何があるんだよ?」



「田代って私のことが大好きじゃん・・・。」



「幼馴染みとしてな!!
てか、それ砂川さんにも言っておいた!!
俺から缶ジュースを受け取るのを拒否されたから、“俺はいつだって純の代わりの人間なので”って説明して!!」



「私の代わりなわけではないでしょ。」



「砂川さんにもそう言われたけどな、俺はお前の代わりの人間なんだよ。」



「そんな悲しいことを言わないでよ。」



「悲しくなんてねーよ!!
・・・基本的には悲しくねーよ!!
砂川さんにも自信満々に答えておいた!!
“俺は純のことが大好きなので代わりだろうが何だろうが引き受けてます!!”って!!」



田代が本当の笑顔で笑っているから、私も自然と田代に笑い返す。
土曜日の“あの夜”から、私は初めて自然に笑えた。



「その20円、何の20円か知らねーけどちゃんと自分で返してこい。」



「社員食堂で不味いうどんを食べてたら、砂川さんが蕎麦と交換してくれたの。
うどんと蕎麦の代金の差額の20円。」



「・・・それは返さなくて良いんじゃね?」



田代がそう言って・・・



手に持っていたビニール袋を私に渡してきた。



受け取り中を見てみると、そこにはコンビニで買ったであろうチョコの箱が入っている。



「それを渡してお礼を言っておけよ。
あの人も俺と同じで甘党だからな、20円を返されるよりも喜ぶだろ。」



「でも変に関わりたくないからな・・・。」



「何でだよ?
金曜日の夜は“良い人”とか言ってただろ、自販機の前で。」



土曜日の夜のことは田代にも言えない。
あんな恥ずかしいことを田代にも言うことが出来ない。



私のことを当たり前のように幼馴染みとして大好きでいてくれる田代にもあの話は恥ずかしすぎて出来ない。



「最初はセクハラの件で怖い人だったけどな、砂川さんはマジで良い人だよ。
俺、また怒られたし。」



「何で?」



「“大好きならその気持ちを園江さんに伝えれば良い”って言われたから、“伝えなくてもちゃんと伝わってますよ!あいつと俺は幼稚園の頃から一緒なので!あいつだって俺のことが大好きですし!!”って答えたらめちゃくちゃ怖い顔で怒られた。」



「それで怒られたの?」



「“それなら園江さんに酷いことを言うのを止めなよ。園江さんが可哀想だよ。”ってめっっっっちゃ怒ってた!!」



「私のことが大好きとか言ったからでしょ?
うちらの関係をよく分かってない人からすると、田代の言葉は酷い言葉にも聞こえるから気を付けなよ。」



「男同士のふざけたやり取りに難癖つけてくるなよ、な!?」



「私は女だから。」



「・・・・マジで!!?」



「だから、そういう所。」



「いや、だってムカつくくらい俺よりもお前の方が格好良いからな?」



「分かってるよ。」



「分かるなよ!!
そこはフォロー入れろよ!!!」



嘆く田代に笑いながら伝える。



「いつもごめんね。」



「そこはありがとうにしておけよ、俺とお前の仲だろ?」



「“大好き”とか言うのはやめておきなよ、誤解されると面倒だし。」



「“大好き”以外にこの気持ちをどう表現するんだよ?
俺はお前のことも間中のこともマジで大好きなんだけど。
マジで俺の家族と同じ感覚。」

 

「うん、私もそうだよ。
・・・“大切”、じゃない?
私の性別は女だから“大好き”じゃなくて“大切”って言っておいてよ。」



「おお!“大切”!!そうだな、“大切”だな!!」



田代が何度も頷きながら“大切”と繰り返し、それから私が持つビニール袋を指差した。



「お前も、お前のことであんなに本気で怒ってくれる人のことは大切にしろよ?」



「これを渡したらもう関わらないよ。
あの人ってめっちゃ変な人だし・・・あ、“そういう人”だし。」



「そういう人って?」



「周りのこととか人のこととか全然気にせず、自分がしたいことや自分が言いたいことだけを言っちゃう人じゃない?」



「それ、お前のことを好きになる女達と同じじゃん!!」



「・・・それは何も言えないやつ。」



「純愛な、純愛。
お前に見返りを求めない代わりに“純”に“愛”を渡してくるやつ!!
“純愛”っていう名前だもんな、お前!!」



「それ、全然上手くないし全然面白くないから。」



爆笑している田代にお礼を伝えることなく営業部のフロアを出た。
こんな私のことを“大切”に思ってくれている人が家族以外にもいてくれることに凄く元気を貰えたことを言わずに。



さっきまでの絶望の気持ちはこのビニール袋に入っているチョコのお陰で少しだけ復活した。
バレンタインのお返しを田代がくれることはないけれど、田代はいつだって私にちゃんと“何か”をくれている。



「ちゃんとお礼は伝えよう、人として・・・。」



重い足を必死に動かしながら財務部のフロアへと進んでいった。
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