“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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砂川さんの家の門の前に立ち砂川さんのことを待ち続けること2時間。
腕時計で時間を確認した後にまたポケットの中に入れられた鍵に触れる。



「やっぱり入ってようかな・・・。」



この時間でも外にいることなんて当たり前で。
でもいつもは仕事で歩き回っているからか夜でも寒いと思ったことなんてなくて。
スーツのジャケットだけでも全然寒くないはずなのに、ただ立っているだけのこの時間は4月の夜の寒さをこんなにも感じてしまう。



でも・・・



「鍵を返すだけだから・・・。」



砂川さんとエッチをするつもりなんてない。
今日の昼休みに女の先輩達からも徳丸さんからも聞いてしまった砂川さんのコト。
あんな話を聞いてしまったのに砂川さんとエッチが出来るくらい私は強い女ではない。



いくら好きだった相手とはいえ、いくらエッチが出来る機会とはいえ、絶対に傷付くことが分かっている相手とのエッチは出来そうにない。



いくら砂川さんが“付き合う女の子としかセックスをしない”人とはいえ、砂川さんは私のことを“女の子”とは認識していないことは分かっている。



分かってしまっている。



砂川さんは私のことが“人”として好きなだけだと。



「土曜日の“あの時”ならそれでも良いと思ったんだろうな・・・。」



両手で自分のことをギュッと抱き締め、地面を眺める。



街灯に照らされている地面には私の影が1つ。



男か女か分からない真っ黒な影がたった1つ、砂川さんの家の前に立っている。



その真っ黒な“人”の影を見ながら口にした。



「疲れちゃった・・・。」



2時間も寒い中で立ち続けたことに疲れたのか、初恋をし失恋をした相手が“そういう人”だと知りこれから起こることを何パターンも想像をし疲れてしまったのか。



とにかく、私は疲れた・・・。



凄く凄く疲れた・・・。



もう全部を放り投げてしまいたくなるくらいに疲れた。



「疲れちゃったよ・・・。」



真っ黒な影を見下ろし続けながらまた口にした時・・・



私の視界の中にもう1つ黒い影が現れた。



人通りが全然ないこの道に人が現れる度、私は2時間も嫌な緊張をしていた。



それにも疲れてしまったのかもしれない。



寒さと疲れにより身動き1つ取れない中、自分で自分のことを抱き締めながら自分の影を見下ろし続けていたら・・・



視界の中のもう1つの影が私に真っ直ぐと近寄ってきた。



そして・・・



地面に立っている真っ黒な“私”を“何か”で覆ってきたことが影の動きで分かった。



その瞬間、私の身体はフワッと温かさを感じ・・・



土曜日の“あの時”に知った匂いが私の鼻に入ってきた。



私の身体に、私の頭に、私の心に入ってきた。



それが分かり、恐る恐るその人のことを見上げた。



そしたら、いた。



砂川さんがいた。



スーツのジャケットを私に掛けてくれ、ワイシャツ姿になっている砂川さんが優しく笑いながら私に頷いてから口にした。



「俺を園江さんの性欲処理の相手にしてくれるかな?」



“俺は園江さんの性欲処理の相手にはなれない。
もうすっかり下半身は縮んだから。”



“あの時”は、私にスーツのジャケットを掛けた砂川さんはそう口にしていた。



“俺は付き合う女の子としかセックスはしないよ。”



そう言っていた砂川さんは私のことを拒絶した。



私では全然ダメだった。



私では砂川さんでも全然ダメだった。



本当の意味で私のことを“女”として認識していないと分かってしまったけれど、それでも“攻められる”と思うような反応に見えていた砂川さんでも、私では全然ダメだった。



全部私の勘違いだったから。



“そういう人”の砂川さんに私も勘違いをしていただけだったから。



だから・・・



“鍵を返しに来ただけです。”



さっきは驚きすぎて返すことが出来なかったポケットの鍵を取り出し、砂川さんの胸に押し付ける。



この口からは何も言葉が出てこない。



泣きすぎて嗚咽しか出てこない。



“酷い人だな”と思う。



“優しいけど酷い人でもあるな”と思う。



勘違いだったと分かっているのに、私のことが“人”として好きだからエッチをしようとしているだけなのに、それでも私をこんなにも喜ばせてしまう砂川さんは“酷い人”だと思う。



“俺を園江さんの性欲処理の相手にしてくれるかな?”



“あの時”に聞きたかった言葉を“今”言われ、私の心はこんなにも喜んでしまっている。



もう二度と感じることはないと思っていた砂川さんのスーツのジャケットの温もりの中、こんなにも泣いてしまうくらい喜んでしまっている。



砂川さんは私の手に触れることなく鍵を抜き取ると、私の顔をジッと見下ろしながら真剣な顔で口を開いた。



「俺の家においで。」



その言葉を聞いて・・・



また、聞いて・・・



私の足は勝手に砂川さんの後ろをついていってしまう。



砂川さんの家に向かって歩いてしまう。



戻りたくなんてないのに戻ろうとしてしまう。



土曜日の“あの時”に戻ってしまう・・・。



無意識に動いてしまう両足を止められない中、必死に頭の中だけで抵抗をする。



もう絶対に勘違いをしないように。



砂川さんは私のことを“付き合う女の子”にしてくれるわけではないと。



“人”として好きな私との関係を終わらせない為にエッチをするだけだと。



勘違いしてはいけない。



私はもう絶対に勘違いはしない。



頭の中で何度も何度も自分に言い聞かせながら、これから起こるであろうことに興奮してしまう自分を自覚していた。



私は砂川さんのことが好きだから・・・。



私はまだ砂川さんのことが“男の人”として好きだから・・・。



自覚したくないそのことも自覚しながら、土曜日の“あの時”に私も戻ってしまった。
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