“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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相川さんのことについての報告書を大急ぎで作り部長に上げた後、女の先輩達から誘われ社員食堂に来た。



砂川さんと会うかもしれないから来たくはなかったけれど、私は“行きたくない”と声を上げられなかった。



何も食欲がないので蕎麦がのったトレーを持ち女の先輩達がいるテーブルへと向かっていたら・・・



「あ、園江さん!」



聞き覚えのある男の声が私のことを呼び、その声の主を探す為に辺りを見回した。



そしたら、いた。



砂川さんが少し向こうのテーブルに座っていて、私のことを振り向いてまで見ている。
昨日“二度と私のことを見ないで”と言ったのに、わざわざ振り向いてまで見ている。



それには勢いよく砂川さんから顔を逸らした。



勢いがつきすぎて首を痛めたくらいに顔を逸らした。



そしたら・・・



「園江さん、会えて良かった!」



明らかに砂川さんではないさっきの声がまた聞こえ、仕方がないのでまたそっちを恐る恐る見ると・・・



砂川さんの向かい側には徳丸さんが座っていて、テーブルの上に置いていた紙袋を持ち上げ私の方に歩いて来ようとしてきた。



それを見て、徳丸さんは私よりも年上であろうこと、そして恐らく昨日の差し入れのチョコの件であると思い、砂川さんのことはめちゃくちゃ気になるけれど“社内政治”として私も徳丸さんの方へと歩いていった。



「お疲れ様です、徳丸さん。」



「うん、お疲れ様。
昨日の差し入れごめんね。
これよかったら食べて。」



そう言って差し出してきたのは小さな紙袋。



「気にしないでください。」



「気にするよ。
コンビニのビニール袋だったから受け取っちゃったけど、あのチョコ凄く高いチョコでコンビニじゃ買えないチョコだったから。」



コンビニで買い物をすることが多い田代。
ビニール袋を処分することなく何枚か鞄に入れていることは知っている。
高いチョコをどこかで買い、それをコンビニの袋に入れて歩いていたのだと予想が出来た。



「あれだけのことにあの高いチョコは貰えないよ。」



“あれを買ったのは私ではなく田代です。”



本当はそう言いたいけれど言ったらややこしくなることも分かるのでどうしようかと思っていたら・・・



「高いチョコって?」



徳丸さんが立っている場所の少し後ろにある椅子に座る砂川さんが聞いてきた。



そして立ち上がってもきて・・・



「あれだけのことって?」



砂川さんは私のことを見ることなく徳丸さんのことをだけを見ている様子でそう言って、徳丸さんの隣に立ち徳丸さんのことを見下ろしている。



「徳丸君、何をしたの?」



「何って・・・え~・・・・っと・・・」



昨日の私からの伝言を預かっていた徳丸さんは驚いた顔をしながら砂川さんのことを見上げている。



「詳しくは言えませんけど、砂川さんには関係のないことなので気にしないでください。」



「いや、気になるから。
何をしたの?」



砂川さんは何故かめちゃくちゃ険しい顔をして、私が受け取らなかった紙袋を徳丸さんの手から奪い取るように手にした。



そしてその紙袋の中身を見下ろしてから、険しい顔を続けたまま、また徳丸さんのことを見た。



「園江さんから高級なチョコを貰ったの?
何で?徳丸君は園江さんに何をしたの?」



「別に大したことはしてないんですけど、差し入れ?お礼?みたいな感じで高いチョコを貰って。」



「大したことをしてないのにそんなに高いチョコを貰うのはおかしいでしょ。
園江さんに何をしたの?いつの話?」



「昨日ですけど・・・。」



「昨日・・・?昨日のいつ?」



砂川さんが紙袋の上部分を片手で握り潰した。



「2人で何をした?」



「砂川さんには関係のないことなので本当に気にしないでくださいって。
あれは園江さんと俺の秘密っていうか、そういう感じのことなので、先輩の砂川さんにも言えないことがありますから。」



「秘密のこと・・・。」



砂川さんが小さな声で呟き、バッ────...と勢いよく私のことを見下ろしてきた。



そして・・・



「徳丸君と何をした?」



私に向かってそう聞いてきた。



「高級なチョコをお礼に渡すくらいのことをして貰った?」



めちゃくちゃ険しい顔で聞かれ、驚きながらも考え分かった。
砂川さんは私が“あの後”に徳丸さんとエッチを・・・性欲処理をして貰ったと思っているのだと。



自分の後輩にそんなことをした私に対してこんなに険しい顔をしてきていると分かり、私は必死に笑顔を作り徳丸さんのことを真っ直ぐと見た。



そして、口にした。



「徳丸さん、さっきから誰と話してるんですか?」



この顔に笑顔を必死に作り続けて徳丸さんのことをだけを見る。



「私、お返しは基本的には受け取らないタイプなんです。
受け取ったら相手は期待するかもしれないのが嫌で。
また私からの何かがあるかもしれない、なんて女の子達が期待している顔を見た時にそう思って。」



中学の卒業式で私が身に付けている物を求められ、私にそのお礼を渡してきた沢山の女の子達。
その女の子達はみんな期待をしている顔をしていた。
卒業をした後も私と“何か”があるかもしれない、そんな顔をしていた。
女の私にはもう何も渡せるモノなんてないのに。



お礼を受け取ることをやめた高校の卒業式のことも思い出し、私はゆっくりと徳丸さんのスーツのジャケットについているボタンを指差した。



「第二ボタン。」



「第2ボタン?」



“それじゃあ、それをください。
男の人のソレを貰うの、凄く憧れていたんです。”



中学の卒業式でも高校の卒業式でもブレザーだったけれど第二ボタンはマナリーにあげた私。
そして望も持っている好きな男の第二ボタン。
マナリーは家に大切に保管してくれているソレ。
でも望はネックレスにして好きな男の高校の卒業式の日に貰った第二ボタンをいつも嬉しそうに眺めていた。



両想いなのに絶対に結ばれてはいけない決まりがある相手、“家”の主である息子からの第二ボタンを。



“1番大切な相手”に渡すソレを望は好きな相手から貰うことが出来た。
可哀想な“家”に生まれてしまい、私とは違う意味で普通の恋愛が出来ることはないであろう望。
その望が“私にはコレがあるからもうそれでいいの”と、本当に幸せそうな顔で笑っていた。



ただのボタンに女の子を幸せにする力がある。



さっき望のことを強く想いながらこのビルに入ったからかまた望のことを思い出し、第二ボタンのことを口にしてしまった。



徳丸さんの第二ボタンを指差した私の手をギュッと握り、下に下ろす。



「私の第二ボタンは女の子達からの争奪戦で。
そういうこともあって、お返しは基本的には受け取りません。」



本当に言いたかった言葉を飲み込み徳丸さんに笑うと、徳丸さんは「分かった。」と言って納得をしてくれた。



それから徳丸さんは砂川さんのことを見上げ・・・



「それ、俺からのお礼ということで受け取ってください。
チョコ大好きですよね?」



スッキリとした笑顔で徳丸さんが口にしたのを確認し、私は蕎麦がのったトレーを持ってその場から逃げるように歩き出した。



「園江さん・・・。」



私の背中に砂川さんが私のことを呼ぶ声が届く。
それを無視して歩き続ける。



「こんなお礼なんて俺は受け取りたくない。」



徳丸さんに言ったであろう砂川さんのそんな言葉を最後に、砂川さんの声も徳丸さんの声も社員食堂に溢れる沢山の音で消え去った。



「私はまだ頑張れる・・・。」



たまたまお兄ちゃんが先に就職をしていた増田グループの企業。
私のことを好きになる女の子達の為にもお兄ちゃんと同じ会社に入りたいと思っていた私。
でもお兄ちゃんが増田グループの企業に就職をしたのを機に、望の力に少しだけでもなれるとも思った。


私の大切で大好きな友達、そして可哀想な望のことを強く強く思い、砂川さんからは逃げたけれどこの会社からは逃げることなく社員食堂に留まった。
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