140 / 166
9
9-10
しおりを挟む
中規模な松戸病院という病院の綺麗な中庭、そこのベンチに砂川さんと2人で並んで座り数時間が経過している。
「長いね・・・大丈夫かな・・・。」
佐伯さんからは“長く掛かる”と言われていたけれど、私が思っていたよりもずっと長い時間が経っている。
「まだ30分くらいだしもう少しかもね。」
「え・・・!?まだ30分なの!?
何時間も経ってるかと思ってた!!」
「このやり取りは4回目だね。」
砂川さんが優しい顔で笑い、気持ちの良い青空を見上げた。
「待っている時間は長く感じるものだよね。」
砂川さんと私の間にあるボストンバッグ、私がそこに置くように言ったので砂川さんと私の間にはちゃんと距離がある。
そのことに安心しながら私は砂川さんの横顔を眺める。
「“純ちゃん”を・・・“純愛ちゃん”を待っている時間は凄く長かったよ。
10年くらい経っていた感じ。」
「それは大袈裟。」
「大袈裟じゃないよ。
ホールディングスの経理部も本当に辛かったし、余計に長く感じた。」
それを聞き、私は砂川さんの顔から視線を逸らして目の前の花壇を眺める。
「ちゃんと増田生命に戻してくれるっていう話は嘘だったの?」
砂川さんの栄転は一時的な物。
増田生命に必ず戻す、そんな条件が提示されていた異動だから砂川さんは頷いたと昔聞いていた。
だから・・・
私は“大丈夫”だと思っていた。
砂川さんは必ず増田生命に戻ってくるから、私は“待っていられる”と、そう思いながら笑顔で送り出した。
その夜、砂川さんの口から“セフレ”という言葉を聞いて二度と会いたくないと思うことになるとは思わなかった。
“いつ戻ってきちゃうんだろう”とビクビクとしながら過ごすことになるとは思いもしなかった。
でも、いつしか“砂川さんはもう戻ってくることはない”と増田生命では言われていて。
お兄ちゃんに聞いてみても“課長になれる奴もいないし求人募集もしてないし、戻さないんじゃないか?”と言われていた。
それに凄く安心していたけれど、それに凄く悲しくもなった。
もう二度と砂川さんに会うことはないんだろうなと、どうしても悲しくもなった。
「必ず戻すと譲社長が約束してくれているから、いつか必ず戻る。
“ここでプレイヤーとしてではなくマネジメントスキルを身に付けてから”と言われているから、譲社長から見ると俺はまだまだなんだろう。」
砂川さんがそう口にした後、大きく項垂れた。
「譲社長だけではなく、ホールディングスの経理部の女性社員達に言わせると俺は“まだまだ、全然まだ”らしい・・・。」
「そうなの?」
「“彼女達”が思わず黙るくらいの返しが出来なければ、俺は“まだまだ、全然まだ”らしい・・・。」
「ホールディングスの経理部の女の人達みんな強めだよね?
増田生命の経理部の女の人達は比較的に大人しくて静かな感じの人達なのに。」
「本当にその通りで・・・」
砂川さんがゆっくりと顔を上げた。
「経理部の部屋の中に留めておくには勿体無い。」
「それって経理部をバカにしてない?」
「これはそういうことではなくて。」
砂川さんが笑いながら私の方を見て、顔や身体を見てきた。
「純愛ちゃんこそ経理部の中に留めておくには勿体無いよね。」
そんなことを言ってきて、少し考えた様子になった。
「こっちに出向しているし、本来だったらこっちの業務を任せて良いわけで・・・」
「なに?何の話?」
「ああ、羽鳥さんが経理部でも稼ぎたいと言い始めたから今その準備を進めていて。
・・・あ、ごめんごめん、羽鳥さんの名前を出しちゃったよ。」
「それ、ムカつくからマジでやめて。」
私の返事に砂川さんは楽しそうに笑い、何処かを指差した。
「レストランも入っているみたいだよ?
お茶でもしに行く?」
「彼氏が心臓の検査をしてるのに、呑気にお茶なんてしたくないから。」
「“純ちゃん”って・・・“純愛ちゃん”ってそういうトコロがあるよね。
そういうトコロも好きだよ。」
「それはどうも。」
“人”として私のことが“好き”な砂川さんにそう返事をし、立ち上がった。
「砂川さんから好きでいられると嫌だからお茶してくる。」
「俺も甘い物を食べたいから行こう。」
「・・・ねぇ、わざと“好き”とか言った?」
「まさか。
“まだまだ、全然まだ”の俺がそんな器用なことは出来ないよ。」
「こっっっわ・・・。
経理部の女の人達騙されてる。」
綺麗な青空の下、病院とは思えないくらい綺麗な中庭を砂川さんと2人で騒がしく歩いた。
「長いね・・・大丈夫かな・・・。」
佐伯さんからは“長く掛かる”と言われていたけれど、私が思っていたよりもずっと長い時間が経っている。
「まだ30分くらいだしもう少しかもね。」
「え・・・!?まだ30分なの!?
何時間も経ってるかと思ってた!!」
「このやり取りは4回目だね。」
砂川さんが優しい顔で笑い、気持ちの良い青空を見上げた。
「待っている時間は長く感じるものだよね。」
砂川さんと私の間にあるボストンバッグ、私がそこに置くように言ったので砂川さんと私の間にはちゃんと距離がある。
そのことに安心しながら私は砂川さんの横顔を眺める。
「“純ちゃん”を・・・“純愛ちゃん”を待っている時間は凄く長かったよ。
10年くらい経っていた感じ。」
「それは大袈裟。」
「大袈裟じゃないよ。
ホールディングスの経理部も本当に辛かったし、余計に長く感じた。」
それを聞き、私は砂川さんの顔から視線を逸らして目の前の花壇を眺める。
「ちゃんと増田生命に戻してくれるっていう話は嘘だったの?」
砂川さんの栄転は一時的な物。
増田生命に必ず戻す、そんな条件が提示されていた異動だから砂川さんは頷いたと昔聞いていた。
だから・・・
私は“大丈夫”だと思っていた。
砂川さんは必ず増田生命に戻ってくるから、私は“待っていられる”と、そう思いながら笑顔で送り出した。
その夜、砂川さんの口から“セフレ”という言葉を聞いて二度と会いたくないと思うことになるとは思わなかった。
“いつ戻ってきちゃうんだろう”とビクビクとしながら過ごすことになるとは思いもしなかった。
でも、いつしか“砂川さんはもう戻ってくることはない”と増田生命では言われていて。
お兄ちゃんに聞いてみても“課長になれる奴もいないし求人募集もしてないし、戻さないんじゃないか?”と言われていた。
それに凄く安心していたけれど、それに凄く悲しくもなった。
もう二度と砂川さんに会うことはないんだろうなと、どうしても悲しくもなった。
「必ず戻すと譲社長が約束してくれているから、いつか必ず戻る。
“ここでプレイヤーとしてではなくマネジメントスキルを身に付けてから”と言われているから、譲社長から見ると俺はまだまだなんだろう。」
砂川さんがそう口にした後、大きく項垂れた。
「譲社長だけではなく、ホールディングスの経理部の女性社員達に言わせると俺は“まだまだ、全然まだ”らしい・・・。」
「そうなの?」
「“彼女達”が思わず黙るくらいの返しが出来なければ、俺は“まだまだ、全然まだ”らしい・・・。」
「ホールディングスの経理部の女の人達みんな強めだよね?
増田生命の経理部の女の人達は比較的に大人しくて静かな感じの人達なのに。」
「本当にその通りで・・・」
砂川さんがゆっくりと顔を上げた。
「経理部の部屋の中に留めておくには勿体無い。」
「それって経理部をバカにしてない?」
「これはそういうことではなくて。」
砂川さんが笑いながら私の方を見て、顔や身体を見てきた。
「純愛ちゃんこそ経理部の中に留めておくには勿体無いよね。」
そんなことを言ってきて、少し考えた様子になった。
「こっちに出向しているし、本来だったらこっちの業務を任せて良いわけで・・・」
「なに?何の話?」
「ああ、羽鳥さんが経理部でも稼ぎたいと言い始めたから今その準備を進めていて。
・・・あ、ごめんごめん、羽鳥さんの名前を出しちゃったよ。」
「それ、ムカつくからマジでやめて。」
私の返事に砂川さんは楽しそうに笑い、何処かを指差した。
「レストランも入っているみたいだよ?
お茶でもしに行く?」
「彼氏が心臓の検査をしてるのに、呑気にお茶なんてしたくないから。」
「“純ちゃん”って・・・“純愛ちゃん”ってそういうトコロがあるよね。
そういうトコロも好きだよ。」
「それはどうも。」
“人”として私のことが“好き”な砂川さんにそう返事をし、立ち上がった。
「砂川さんから好きでいられると嫌だからお茶してくる。」
「俺も甘い物を食べたいから行こう。」
「・・・ねぇ、わざと“好き”とか言った?」
「まさか。
“まだまだ、全然まだ”の俺がそんな器用なことは出来ないよ。」
「こっっっわ・・・。
経理部の女の人達騙されてる。」
綺麗な青空の下、病院とは思えないくらい綺麗な中庭を砂川さんと2人で騒がしく歩いた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる