“純”の純愛ではない“愛”の鍵

Bu-cha

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チェックインの15時よりも30分も前の14時半。
あれから佐伯さんオススメのお好み焼き屋でお昼ご飯を食べた後にそのままタクシーで長めに移動をし、旅館のロビーに到着した。



「凄い所だね・・・。」



旅館の佇まいから分かってはいたけれど高級な旅館なのだと思う。
大きな窓からは大自然が見え、それを眺めながら佐伯さんとソファーに座ると、私を真ん中にするように砂川さんも座った。



新幹線や歩いている時だけではなく、まさかのタクシー内でもこの位置で。
こんなにデカい私がタクシーの後部座席の真ん中という、どんな罰ゲームだというような位置に座ることになっていた。



なのに・・・



「「体調、大丈夫?」」



2人して私の体調をまた心配してくる。



それには笑顔を作ることなく答える。



「心配してくれてるところ悪いけど、私の心配をしてるなら砂川さんは向こう側の席に座ってよ。
狭くて窮屈なんだけど。」



「佐伯さん、そっちに少し寄れる?」



「寄れるよ。」



タクシー内でのやり取りと全く同じやり取りを2人がし、それにはもう苦笑いになる。



「でも、私の体調のせいでごめんね。
折角観光もしようってなってたのに。」



「顔色凄く悪くなってたもん!
体調が悪い時に私もキツいことを言ってごめんね?」



「うん、それは良いよ。
佐伯さんの気持ちも言いたいことも私なりにだけど分かるから。」



そう言ってからこの旅館の壮大なロビーをもう1度見渡す。



「貴族の思考や行動を分かろうとすることは出来ても、やっぱり理解することは出来そうにないけどね。」



そう口にしてから私の彼氏である佐伯さんのことを見る。



「普通の家庭に生まれた私からしてみたら佐伯さんも貴族なんだろうね。」



私達が座るソファーに向かって旅館の人がお盆にウェルカムドリンクをのせて向かってくる。



「砂川さんがここのお金も出してくれることになったけど、砂川さんも誘う前は佐伯さんが私の分まで払おうとしてくれてたんでしょ?」



「それは“貴族”としてではないよ、“彼氏”として。
“彼女”と初めての旅行だから頑張りたいもん。」



「今の時代は女の方もちゃんとお金を出すものなんじゃない?」



「そういう形を取るカップルも否定はしないけど、私は“彼氏”てして頑張りたいの。」



「ありがとう・・・。」



「うん、良いよ。」



佐伯さんが“格好良く”笑って、私の手に自然と恋人繋ぎをした。



「結果的に“お父さん”に出して貰うことになったから、格好つけられなかったけどね。」



「佐伯さんは砂川さんよりも格好良いよ。」



「嬉し~い!!」



明らかに戸惑っている旅館の人が目の前にいるのに、佐伯さんとこんな悪いことを続けていく。
砂川さんは楽しそうに笑いながら必要書類に万年筆を走らせていて、私達を止めることはしなかった。



旅館の人には申し訳ないけれど、私は私なりに強くなりたいと思った。



何かをぶっ壊したりぶっ殺してまで守りたいモノが何なのかはまだよく分からないけれど。



でも、人の目を気にしたり人に良く思われたいと思ったり、“何か”ある度に傷付いたり落ち込んだり疲れてしまったり。
そんな弱い自分の心は守りたいなと思った。
私が私自身を強くして、自分の心を守りたいと。



だから・・・



「砂川さんもそれを書き終わったら手繋ぐ?」



「え!?良いの!?」



「やっぱりダメ。」



めちゃくちゃ残念がっている砂川さんとめちゃくちゃ戸惑っている旅館の人を見ながら、“悪いこと”だと自覚をしながらも笑った。



佐伯さんの力強く握ってくれる温かい手を感じながら。



私は1人ではないと実感しながら。



1人ではないことがこんなにも心強いのかと改めて思いながら。



佐伯さんがいれば私はまだまだ全然大丈夫だと思う。



大丈夫どころかどんな悪いことでも出来そうな気がする。



どこまでも強くなれる気がする。



気持ちだけだけど、そう思う。
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