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あの“夏の夜”のセックスは、俺を画家にする為なんかじゃなかった。
ただ“カヤ”がしたかったのだと思う、してみたかったのだと思う。
“朝”とは出来ないようだから・・・。
“朝”の代わりに俺としたのだと思う・・・。



『お前・・・その顔とその身体でセックス1回しかしたことねーの・・・?』



電話の向こうにいる父さんの驚いている顔まで見えてきた。
それには小さく笑ってしまう。



『俺がお前なら毎日日替わりで女の子達とやりまくってるぞ!?』



「本当に好きな女の子と覚悟を決めたセックスはどうしたんだよ!?」



『そうだった・・・!!』



「なんだよそれ・・・。
なんなんだよ、それ・・・。
俺は本当に好きな女の子と、ちゃんと覚悟を決めたセックスをしたのに・・・。
向こうは全然違った・・・全然そんなのなかった・・・。」



『もしかしてそれで絵が描けなくなったのか!?
“天使”だと思ってたら“天使”じゃなかったのを知って!!』



「うん・・・。」



『バカだな~、天使なんているわけねーだろ!!
女なんてみんな悪魔だ、悪魔!!』



「確かに悪魔だな・・・!!」



思わず大きく笑いそう言った。



「でも、母さんのことを天使とか言ってるだろ。」



『お母さんは天使だろ!!
お母さんだけは天使なんだよ!!』



「なんだよそれ。」



笑いながら夏の夜の空を見上げた。
真っ黒な空、夜なのに雲1つないのが分かる。
強い風が俺の身体を吹き抜けて、そのお陰か少しだけ心臓の痛みが抜けていったように思う。



『神社で願ってきてやるから安心しろ!!
夏夜がまたセックス出来るように!!』



「そこは絵がまた描けるように願ってこいよ!!」



爆笑しながら突っ込み、俺は父さんに聞きた。



「神社の娘、アイス屋でデートをしてた神社の娘って長女?」



『いや、次女の方!!美鼓ちゃん!!』



“それが長女だよ”
その言葉を飲み込んでいると、父さんが続けた。



『増田財閥の御曹司と付き合ってるんだよ!!
“ゆきのうえ商店街”出身の奴!!
そいつが国光さんの家でお世話になってる!!』



「そうなんだ。
女はみんなそういうのが好きなんだろうな。
俺なんて絵を描いてるだけだし。
それは2回目のセックスも出来ないわけだよ。」



『いつまで過去に囚われてるんだよ!!
そんなんだから2回目のセックスが出来ないんだろ、バーカ!!!』



そんな言葉にはまた爆笑してしまった。



『3回でも4回でも100万回でも頼んでみろよ!!
この世界の全てのことは弱肉強食だからな!!
強い男になれ、夏夜!!
“天使”なんていなくても絵を描けるような強い男になれ!!』
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