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天野さんが食器を洗ってくれている隣で、私は珈琲豆を挽く。



「手動なのか・・・。」



「はい。この時間も好きで。」



「結構古いコーヒーミルだな?」



「母が使っていた物です。
珈琲だけは母の味が出せているはずです。
小さな頃から隣で見ていたので。」



「そうか・・・。
アイスコーヒー?」



「はい、真夏なのでアイスコーヒーです。」



「俺も・・・少し貰おうかな。」



「カフェイン大丈夫ですか?」



「少しだけならな。
それに、お前のお陰でよく眠れてるし。」



天野さんが優しい笑顔でそう言ってくれ、私はいつもより多めに瞬きをした。
コーヒーミルが鳴らす音と珈琲豆の香り・・・。
この場面が私の中で記憶される・・・。



そんな私に天野さんが満足そうな顔で笑い・・・



瞳に熱が込められたのが分かった・・・。



そして、ゆっくり・・・



ゆっくり・・・



私に、私の顔に天野さんの綺麗で格好良い顔が近付いてきて・・・



私の唇に少しだけ、天野さんの唇が触れた・・・。



初めてした男の人とのキスは、天野さんとのキスは・・・



珈琲豆の香りと、私の煩い心臓の音と、緊張しすぎて固まった身体と・・・



「息しろ!!!!」



止めてしまっていた呼吸・・・。
私の唇から離れた天野さんの顔は、照れたような恥ずかしそうな顔で、でも幸せそうな顔をしていた・・・。



「美味いな・・・。
珈琲あんまり飲んだことねーけど、美味いな。」



リビングのソファーに2人で座り、アイスコーヒーを一緒に飲む。
天野さんは小さなグラスに少しだけ。



「会社の珈琲はもっと美味しいのか?」



「珈琲って好みがあるんじゃないですか?
私はお母さんの珈琲が1番好きです・・・。」



「そういうもんか・・・。
明も珈琲には煩いからな・・・。」



「木葉さん、珈琲店の珈琲を1回飲んでから来てくれなくなりましたよ!!」



「普段は何も気にしてねーのに、たまに変な拘り出すんだよな。」



木葉さんはサッパリと明るい女性で、すぐに誰とでも仲良くなれる。
でも・・・



「本当の心は誰にも開いてなさそうですよね・・・。」



「まあな、複雑な家だったし。
俺が明を頼りまくってたから、俺の前でも明はいつも強かった。」



「木葉さんは、場の空気を読むのがいつも上手ですよね・・・。」



「俺の弟4人以外は全員そんな感じだな。
狭い家に12人もいたから。
その中でも明だけは特に敏感だった。
明は赤ちゃんの頃から、そんな特殊な環境で育ったからな。」



天野さんがそう言ってから、少し残っていたアイスコーヒーを一気に飲んだ。



「お前といると話しすぎるな。
そろそろ店番だろ?
俺何も予定ないから付き合ってやるよ!!」
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