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混んでいる電車の中、出入口の方で剛士君に抱き締められながら電車に揺られる・・・。
この前はお酒が入っていたのでよく考えていなかったけれど、今日はお酒も入っていない。



さっきの場面と剛士君の言葉を何度も何度も繰り返し思い出して・・・



「電車の中でそんな処女みたいな顔すんなよ・・・」



剛士君から笑いながら、小さな声でそんなことを言われてしまった・・・。



そして着いたのは、私の家の方。



「剛士君のお家じゃなくてよかったんですか?」



「うん、今日泊まっていい?
土曜日からほとんど眠れてねーんだよ。
瞳と寝てから明とでも眠れなくなってた。」



剛士君がリビングの中に入ってすぐにワイシャツを脱ぎだして・・・



「期待した顔してる中悪いけど、ワイシャツとか下着洗ってもらえる?
明日もこれ着て行くから。
真夏だしすぐに乾くだろ。」



「期待してませんよ・・・っ」



「今の顔はどう見ても処女が期待してる顔だろ!!」



全裸になった天野さんが大笑いをし、ワイシャツや下着などを私に渡してから「シャワー借りる」とお風呂場へ行った・・・。



男の人の裸をこんな風に見たことがない私はドキドキし過ぎて・・・
息を止め瞬きを繰り返しながら剛士君の綺麗な裸を見てしまった・・・。



剛士君は今回も3分くらいでお風呂場から出て来て、私が置いていたお父さんの半袖のシャツとハーフパンツを履いていた。
首にはタオルをかけてドライヤーもせず・・・



「キッチン借りていい?
何か作っておくから、瞳も入ってこいよ。」



「ありがとう・・・。
昨日買い物したから食材あるので。」



「ん・・・。
俺、肉食いてーな。いい?」



冷蔵庫を開けた剛士君に聞かれ、私は自然と笑いながら頷いた。



そして、シャワーを浴びながらも考える・・・。
副社長にお願いをされた剛士君の治療・・・。



剛士君にはメンタルヘルス不調がある。
自分自身がそうだからこそ、会社の機能していない“相談窓口”が気になったのだと思う。



人は身体だけが健康であっても“健康”ではないから。
“心の健康”を守ることもとても大切。



お母さんが亡くなった時、私もそれがよく分かった。
まだ幼稚園の頃だったけれど私は覚えている。
鮮明に覚えている。



お母さんが亡くなってしまった恐怖、絶望・・・。
お母さんがいないことへの寂しさ、悲しさ、どこに向けていいのか分からないグチャグチャの感情・・・。



覚えている。
私は覚えているし、鮮明に思い出せる。



だから、私は剛士君に見付けてもらえた。
どうしてだか「私が見付けた」と言われたけれど、私が剛士君に見付けてもらえた。



チェーン店のカフェでバイトをしていた私を、剛士君が連れ出してくれた。
カフェの外へと連れ出してくれた。



だから、信じられないような瞬間を見ることが出来た。
そして・・・憧れることしか出来なかった人に・・・“好き”と、“大好き”と言ってもらえることができた・・・。



剛士君のメンタルヘルス不調を改善出来るのが私だけだとしたら、私は治したい・・・。
私の憧れの人だから・・・。



私の・・・大好きな人だから・・・。
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