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わたしが固まっていると、青田さんも驚いた顔でわたしを見下ろした後、チラッと真剣な顔で経理部の中を見た。




そして、青田さんがわたしの後ろの扉を閉める。




少しだけ、青田さんの大きな身体に包まれ、わたしの人より小さな心臓が、ギュッと何かに握られた。




「歩きながらでいいから、ちょっと話せる?」




完全に仕事モードなので、わたしも真面目に頷く。





2人で並んで歩きながら、エレベーターに向かう。





「水沢さんの隣に座ってるのが飯田さん?」




青田さんの口から、飯田さんの名前が出てくる。




「そう・・・です。」



「どんな人?」



「優秀な人、です。」




わたしの言葉に、青田さんが驚いた顔で見下ろす。




エレベーターのボタンを押しながら、わたしは続ける。




「仕事は出来ます。
きっと、履歴書に虚偽はありません。」




この約半年、飯田さんの隣で仕事をして、それは知っている。
そして、青田さんが何をしに来たのかも、大体予想がついた。




「岸部長も宮本さんも、わたしも・・・どうやったら飯田さんに力を入れてもらえるか試行錯誤しましたが、どれもダメで。」




エレベーターが開き、2人で乗り込む。
青田さんがすぐに1階を押してくれた。




「わたしは・・・あの人に武器を使えませんでした。」



「武器?」



「麻美先輩が身に付けさせてくれた、わたしの武器。
この顔とこの身体だから闘える、わたしだけの武器。」



そう言って、青田さんを見上げる。
青田さんの大きな喉仏が、上下に動いた。



「あの人に使ってしまったら、きっと、また違う問題が起きてしまうので・・・」



「今は、まだ大丈夫?報告では・・・」



「大丈夫です。」




わたしは青田さんの言葉を遮り、ハッキリ伝える。




「何も、させない。
わたしは子どもみたいに小さいけど、今まで闘ってきた。」




1階にエレベーターが到着する寸前・・・




「・・・んっ・・!」




青田さんの唇からわたしの唇を離し、ネクタイを握り締めたまま、青田さんを見詰める。




「それが、わたしのプライド。」
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