7 / 235
1
1-7
しおりを挟む
「いるよ、婚約者。」
私が答えると全員が興味津々な顔で私を見てくる。
でも、私が新卒で入社をする前から加賀社長の一人娘には婚約者がいることは知られていたらしい。
それに、その婚約者が次の社長になることも。
だから、私は隠すことなく答える。
研究職の社員達と直接話すのは初めてだからか、私から直接聞けるので全員がこっちを見ている。
「まだ誰が婚約者なのか社内で発表されてないですよね!?」
「そうだね、社内での発表は毎回入籍後の発表になるらしい。」
「どんな人なんですか!?」
「可哀想な人かな。」
私が即答すると全員が不思議そうな顔をしている。
それに笑いながら続けた。
「そこに愛はないから。
可哀想な人だなって思うよね。」
「・・・でも、小町さんめちゃくちゃ美人ですし!!
社長の娘なのに気取ってなくて近付きやすいって噂になってて、性格も良いって言われてます!!」
その言葉に笑いながら生ビールを飲んだ。
苦い苦い生ビールを。
ゴクゴクと飲み込んだ。
“覚悟が足りていない”
父親からの言葉を思い出す。
社員から嫌われる覚悟も足りていない。
古くて大きなこの会社。
“良い社長”とは、きっと“社員みんなから好かれている社長”ではない。
古くから存在しているこの大きな会社を存続させ、製薬業界の頂点に君臨し、日本の製薬業界を引っ張り続けていく・・・。
そんな社長が、父親が求める“良い社長”なのだと分かっている。
その為には武器を選ばない。
刀だろうと弓矢だろうと槍だろう銃だろうと、花だろうと・・・何だって使いこなす必要がある。
一人娘の“花”を、父親は武器にもする。
それで戦に勝利し続けられるなら、あの父親は私も武器にしてみせる。
花は色褪せてきてしまっているけれど。
私の美しさも衰えてきてしまっているけれど。
製薬業界の頂点に、古くて大きなこの会社を君臨させ続けるための社長。
そんな社長の妻となる覚悟が私には足りない。
“支える”なんて甘い覚悟ではない。
“妻として屋敷を守り、妻として戦う”
そんな覚悟が私には足りない。
そんな覚悟、私には出来ない。
したくもない。
私はいらなかった。
私はずっとこんなのいらなかった。
片想いでも、結婚できなくても、好きな人をずっと想い続けていられる暮らしでよかった。
夢の中だけでしか会えなかったとしても、その夢を見るために眠る・・・。
目覚めた時に、“目覚めなければよかったのに・・・”そんな風に嘆きながらも片想いを続ける。
そんな暮らしでよかった。
だって、好きでもない人と結婚なんてしない。
そんなの、しない。
そんなの普通はしない。
しない・・・。
しないのに・・・。
そう思いながら、苦い苦い生ビールを飲み込んだ。
私が答えると全員が興味津々な顔で私を見てくる。
でも、私が新卒で入社をする前から加賀社長の一人娘には婚約者がいることは知られていたらしい。
それに、その婚約者が次の社長になることも。
だから、私は隠すことなく答える。
研究職の社員達と直接話すのは初めてだからか、私から直接聞けるので全員がこっちを見ている。
「まだ誰が婚約者なのか社内で発表されてないですよね!?」
「そうだね、社内での発表は毎回入籍後の発表になるらしい。」
「どんな人なんですか!?」
「可哀想な人かな。」
私が即答すると全員が不思議そうな顔をしている。
それに笑いながら続けた。
「そこに愛はないから。
可哀想な人だなって思うよね。」
「・・・でも、小町さんめちゃくちゃ美人ですし!!
社長の娘なのに気取ってなくて近付きやすいって噂になってて、性格も良いって言われてます!!」
その言葉に笑いながら生ビールを飲んだ。
苦い苦い生ビールを。
ゴクゴクと飲み込んだ。
“覚悟が足りていない”
父親からの言葉を思い出す。
社員から嫌われる覚悟も足りていない。
古くて大きなこの会社。
“良い社長”とは、きっと“社員みんなから好かれている社長”ではない。
古くから存在しているこの大きな会社を存続させ、製薬業界の頂点に君臨し、日本の製薬業界を引っ張り続けていく・・・。
そんな社長が、父親が求める“良い社長”なのだと分かっている。
その為には武器を選ばない。
刀だろうと弓矢だろうと槍だろう銃だろうと、花だろうと・・・何だって使いこなす必要がある。
一人娘の“花”を、父親は武器にもする。
それで戦に勝利し続けられるなら、あの父親は私も武器にしてみせる。
花は色褪せてきてしまっているけれど。
私の美しさも衰えてきてしまっているけれど。
製薬業界の頂点に、古くて大きなこの会社を君臨させ続けるための社長。
そんな社長の妻となる覚悟が私には足りない。
“支える”なんて甘い覚悟ではない。
“妻として屋敷を守り、妻として戦う”
そんな覚悟が私には足りない。
そんな覚悟、私には出来ない。
したくもない。
私はいらなかった。
私はずっとこんなのいらなかった。
片想いでも、結婚できなくても、好きな人をずっと想い続けていられる暮らしでよかった。
夢の中だけでしか会えなかったとしても、その夢を見るために眠る・・・。
目覚めた時に、“目覚めなければよかったのに・・・”そんな風に嘆きながらも片想いを続ける。
そんな暮らしでよかった。
だって、好きでもない人と結婚なんてしない。
そんなの、しない。
そんなの普通はしない。
しない・・・。
しないのに・・・。
そう思いながら、苦い苦い生ビールを飲み込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる